腕 - 3
「さあさあ皆様! お次はこの子です!」
会場は広さこそあれど,中にいる人間は十数名といったところであった.
こういったオークションは表立ってやることはできないのだろう.限られた招待客達,ということだ.
柚樹はといえば,その会場の天井に貼り付いているのである.
"MagHand電磁吸着グローブ:オンライン バッテリー残量..92%"
この会場には鉄製の小屋組が使われていた.柚樹は磁性体の金属に張り付くことのできるグローブ装備を使い,器用に鉄骨が埋め込まれている箇所を伝って潜入に成功していた.
壇上では次々と"商品"が並んでは落札されていく.その殆どが年の若い少女や女性であり,男性は労働力としてまとめて買われているようだった.価値が高く付けられているのも前者である.
さしずめ愛玩用ということだろうか.柚樹はそんな想像をしてしまい顔をしかめた.
柚樹の世界では奴隷を市場のように売り買いするなど,とうに途絶えていた文化であった.紛争が盛んであった頃は兵士として貧しい国の少年たちが奴隷のように扱われたと聞く.
AVTの技術はそんな人間が社会を作るが故の問題も覆した.誰もが個々としての存在を許されていた.
『ユズキ! 外だ,外だよ!』
アイリスから通信が入る.彼女のお供につけたHALLからも敵対存在の報告はない.
どうやらなんとか外に出られたようだ.
「すぐに援軍を送ってくれ.この会場には正面入口がある.そこに誘導して欲しい,HALLが先導する」
『わ,わかった....この建物で奴隷オークションが行われているんです! すぐに警備隊を...そうです,攫われて売られるところを逃げてきたんです.えっこの...えーと,これは私もよくわからなくて...でも中にいる私と同じ年くらいの男の子がこれで助けてくれて...』
筒抜けである.
常時ONの設定で渡していたが,合流したら簡単な使い方から教えてやろうと彼は思った.
『ユズキ! 今すごい数の警備隊が正面入口に向かってる!』
「よし...! 離れてて、扉を吹き飛ばしたら突入を!」
腰に付けておいたスモークグレネードのピンを抜き,未だ幼き少女を売り買いしている根性腐れ野郎どもの中に投げつける.
「な....なんだ!? 護衛はどうした!」
「げほっ....なにもみえないぞ!」
欲にまみれた空間は一気に混乱へと陥る.
何人かは退避のため脇の扉に飛びつくが,ここの扉は全て外からノブを壊し封鎖している.
ガチャガチャと無意味に金属音を立てるだけで一向に開かない扉に痺れを切らし,叩き,怒鳴る人もいる.
柚樹は蜘蛛のように天井を這い,丁度正面入口が視界に入る2階のバルコニーに降り立った.
"多口型対物ライフル展開"
長物が出現し、伸ばした右腕と一体化するように接続される。精度上昇のためのバイポッドがバルコニーの床を鳴らすと、それだけで下の人間達は混乱し悲鳴を上げた。
"T.T.B.弾装填...追尾標的セット完了"
用意されている6つの内3つのバレルが前方へせり出る。円形のカートリッジが回転しそれぞれに追尾弾が装填され、扉の蝶番2つと錠前部分を正確にロック。
Readyの文字が覗いているスコープ内に表示されると同時に発射、反動制御の轟音と共に3発の弾丸は寸分狂いなく扉と壁を繋いでいる箇所を破壊した。
支持を失った扉は回転しながら勢いよく飛び、会場の人間達は次は何が起きるんだとヒステリックになりながらその方を見る。雄叫びと共に突入してきたのは、先程までスタンガンで気絶させまくってた彼らとそう変わらないような格好の兵士達であった。
一瞬、奴らの仲間かと思ったが彼らは会場を取り囲むように散開し、ぶっ倒れて昏睡している人間達を一人一人捕まえては後ろ手で縛ってゆく。どうやら、アイリスが呼んだ"都市の警備隊"というので間違いないようだ。
もうこうなれば袋のねずみ達、どれだけ他の扉から出ようとしてもどこも開かない。ただ逃げ回り、次から次へと押さえ込まれるだけであった。
(...物騒な世界だな)
AVTに軍用プラグインというものがあるように、今まで生きていた世界でも兵器とそれを扱う人間は存在していた。ただし、それらの役目は人類を守ることであって、矛先は必ず人類以外。私利私欲のために使用されることはなく犯罪はAVTにより常時監視され、人々は選んだレールを好きなように進み、一見ディストピアのようでただの平和な世界であった。
しかしここは。
奴隷、兵士、人間同士の敵対。案外と秩序のない世界に連れて来られてしまったのかもしれない。
「...」
...通り魔に殺された自分が言えることでもないなと思った。どうやって犯人が監視の目をかいくぐったのか、今の自分には知る由もない。
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