表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の銃声  作者: ゆみ。
7/16

7話 危険

深夜の新宿。ネオンの光が毒々しく路面を照らし、吐き出された人波が喧騒を紡いでいる。

その雑踏の中で、聖菜は自分の心臓の音を聞いていた。


(……お姉ちゃんは、どこ?)


姉が利用しているはずの深夜バスは、数分前に通り過ぎた。しかし、千聖はそこに乗ってはいなかった。

聖菜は、以前こっそりと千聖のスマートフォンの履歴で見かけたことのある地名を頼りに、新宿の街を彷徨う。かつての松濤で、お抱え運転手の車から眺めていた景色とは、何もかもが違っていた。


客引きの男たちが放つ下卑た視線、腐ったゴミと煙草の入り混じった匂い。

足がすくみそうになるのを、ポケットの中で握りしめた「偽の雇用契約書」の記憶が押し止めた。


「お姉ちゃんは、こんな場所にいるの……?」



一方、千聖は雑居ビルの屋上から、地上を見下ろしていた。

夜の冷気が、漆黒のコートを撫でる。彼女の瞳には、ターゲットである商社幹部が、怪しげな男と路地裏で密談している姿が捉えられていた。


望遠レンズのシャッターを切る。

指先は氷のように冷たい。けれど、千聖の意識は機械のように正確に、男たちの動きを記録していた。


「……記録終了。撤収します」


インカムに短く告げ、千聖が屋上の縁から身を引こうとした、その時。

眼下の路地、光と影の境界線に、**場違いなほど白い肌**が浮かび上がった。


(……っ!?)


千聖の心臓が、仕事中にはありえない激動を見せる。

視界の端に映ったのは、紺色のコートに身を包み、不安げに周囲を見渡す少女の姿。


聖菜だ。


「なぜ……ここに……」


千聖の喉が、恐怖で乾いた。

今、この場所は「掃除屋」の戦場だ。ターゲットの男たちは、一皮剥けば人身売買や闇金融に手を染める獣。もし聖菜が彼らの目に留まれば、一瞬で「商品」に変えられる。「佐伯さん、緊急事態です」

千聖の声が、初めて震えた。


『どうした。追手か?』


「いえ……。妹が、現場付近に現れました。これ以上の観測は不可能です。彼女を確保し、ここから引き離します」


『……馬鹿な。お前の失態だ。いいか、絶対に顔を見られるな。聖菜くんに「千聖」としての正体を悟られることは、天園家への裏切りと同義だぞ』


佐伯の冷酷な言葉が耳を打つ。

千聖は銃をホルスターに固定し、屋上の階段を駆け下りた。


聖菜は今、ターゲットの男たちが歩き出した方向へ、おぼつかない足取りで進もうとしている。その先には、男たちの護衛が控える黒塗りの車が止まっている。


(行かせない。あの子を、こっち側へは一歩も……!)


千聖は、路地の入り口にあるゴミ箱をわざと蹴り倒した。

ガランッ!

静かな裏通りに、鋭い音が響く。


「きゃっ……!」


驚いて立ち止まる聖菜。その隙に、千聖は顔を深いフードで覆い、影の中から飛び出した。

聖菜の腕を強引に掴み、壁際へと押し込む。


「……っ、誰!? 離して!」


聖菜が悲鳴を上げようとした瞬間、千聖は彼女の口を片手で塞いだ。

自分の手袋越しに、妹の震える唇の感触が伝わる。


「動かないで。死にたくなければ」


千聖は、わざと低く、押し殺した声を出した。それは「姉」の声ではなく、昨日、あの男を葬り去った「死神」の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ