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漆黒の銃声  作者: ゆみ。
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1話 プロローグ

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「千聖様、お客様でございます」


重厚なオーク材のドア越しに、冷徹な事務局の声が響いた。

天園千聖は、手元にあったスイス製の小型拳銃のボルトを引き、ガチリ、と硬質な金属音を部屋に響かせた。鏡の中に映る自分は、17歳とは思えないほど冷ややかな、感情を削ぎ落とした瞳をしている。


「……すぐ行くわ」


短く応じると、ドアの向こうで足音が遠ざかっていった。

千聖は漆黒のドレスの裾を翻し、冷たい廊下を歩き出した。壁に飾られた調度品は、かつての実家を模して配置されているが、そこに漂う空気はかつての温もりを欠いた、血と硝煙の匂いを含んだものだった。


---


**4年前。**

千聖の時計は、あの中学二年生の冬から止まったままだ。


窓の外には、松濤の閑静な住宅街に相応しい、穏やかな雪が降っていた。

モデル・女優として輝きながら医者もこなす完璧な母と、大手企業の社長として奔走する父。あの夜、千聖は有名な私立女子中学校の制服を着て、誰よりも幸福な未来を信じて疑わなかった。


しかし、その幸福はたった一夜の「暴力」によって、無惨に引き裂かれた。

帰宅した千聖が目にしたのは、冷たくなった両親の骸。返り血が、リビングの白い絨毯を無慈悲に汚していた。


そこからの転落は、驚くほど速かった。

親族たちは、天園家の莫大な遺産を食い荒らすと、手のひらを返したように彼女を施設へと追いやった。中学三年の春。緑豊かな郊外にあるはずの施設は、千聖にとっては自由を奪う「檻」でしかなかった。


「……私はあの場所にいてはいけないのだわ…」


深夜、衝動的に施設を飛び出した。まだ13歳の妹を置いて。

しかし、世間は15歳の少女に優しくはなかった。偽造した身分証で潜り込んだ、夜の街。派手な化粧で大人びて見せ、水商売の世界に身を沈めたが、年齢が露呈し、裏口からゴミのように叩き出されたとき、千聖の心は完全に折れた。


行き着いたのは、冷たい海を見下ろす断崖だった。

「……お父さん、お母さん。もう、疲れたよ…聖菜、ごめんね」

そう言って目を閉じた千聖の腕を掴んだのは、死神の手ではなく、漆黒のスーツを纏った「天園」を名乗る老人だった。


『お前の血には、価値がある。復讐を望むなら、その牙を研げ』


あの日、千聖は人間であることを捨てた。

「天園」の名を継ぎ、裏社会の頂点に君臨する暗殺者集団の「道具」として生きる道を選んだのだ。すべては、あの雪の夜に両親の命を奪い、自分を奈落へ突き落とした「何者か」の首を獲るために。


---


カツン、とヒールの音が応接間の前で止まる。

ドアを開けると、そこにはターゲットの情報を握っているであろう、不敵な笑みを浮かべた男が座っていた。


千聖の指先が、ドレスの隠しポケットに忍ばせたナイフに触れる。

復讐の道はまだ半ば。だが、彼女の瞳に宿る炎は、あの日から一度も消えてはいない。

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