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過去と目標

その日俺は、珍しく家への帰り道の途中にあるスーパーには寄らなかった。

一日の目標額を稼ぐことができなかったから、お気に入りのコロッケを買う気が全く起きなかった。


その代わりに、道を歩きながらこれからどうしていくのかをずーっと考えていた。


手のひらに載せたスライムの買い取り金800円をじゃらじゃらしながら

「こんなんじゃ何の稼ぎにもなんねぇよ」


お金を握りしめ、こぶしを作り勢いで近くにあった塀を殴りつける。

こうなったらただの八つ当たりだ。


「いってぇ」


夜空にはオリオン座が輝いていた。


◎ ◎ ◎ ◎


「…ただいま」

玄関で靴を脱ぎながらハリのない声で言うと、玄関そばに位置するキッチンのほうから心配そうな顔で、出迎える


「あんた…。この時間まで何をしているの?いつも」


「…別になんだっていいだろ。悪いことしてるわけじゃないんだし」


母は、視線を俺の顔からスッと下におろし足元を確認する。


「あんたっ。もしかしてダンジョンにまた行ってきたの?ダンジョンにはいかないでって約束したじゃない」


「行ってない。これはただ…。側溝に足を滑らせただけ」


「嘘よ。だったらこの手の傷は何?ほら」

そういって先ほど塀を殴った俺の手を持ち上げる。


「だから関係ないって言ってるだろっ」

俺はバッと母親の手を振りほどく。


「俺は俺のやりたいようにやるから…、母さんは口出しをしないでくれないか」

そう言い残してから二階の自室へと昇っていく。


違う部屋にいた弟が部屋から出てきて母さんをなだめるように

「兄ちゃんだって母さんの言いたいことはわかってるはずだよ」

とフォローをいれる。


◎ ◎ ◎ ◎



俺は、母親に冷たい言葉を浴びせてしまったことの後悔、自分の思うように物事が進まない苛立ちを発散するかのように背負っていたカバンをベッドへと投げつける。


カバンはベッドで数回跳ねたのちにその鼓動を停止する。


そのカバンを手に取り再び部屋の隅へと放り投る。カバンは悲しそうに部屋の隅に収まる。

俺は空になったベッドの上へとダイブする。

ごろりと仰向けに寝転がり、天井のライトを見つめる。


なぜ、母さんはダンジョンという言葉にあそこまで神経質になっているのか。


それは俺の父さんがプロ探索者だったこと、そして探索の最中に行方不明となり、今になっても戻ってこないことに起因するのだろう。


確かあれは5歳のころだったか。その時はまだ父さんはいたんだよな。


よくダンジョンから採取したものを持って帰ってきては俺に触らせたり、時には遊ばせてくれたりしたんだっけな。いろいろなモンスターの話を父さんから聞いて俺も「父さんみたいになる。誰もクリアしたことのないダンジョンを踏破してみせる」なんて息巻いていた。


でも、そんな幸せも続かなかった。



いなくなる前の父さんはいつもと違って元気がなかったように思える


その時父さんはこの家を建てたばかりで多くのお金が必要になったのだろう。

だから、父さんはいつもよりも多くの依頼を受けていた。

そのせいか、目の下にはクマができていたし、時たま、ぼーっとするようなこともあった。


その姿を見るたび俺は

「お父さん、大丈夫?無理してない?」


って聞くんだけど無理やり笑顔を作って


「大丈夫さ。お前らの姿を見てたらそんなもんふっとんでっちまうよ」


なんていって、俺の髪をぐしゃぐしゃってなでてから、俺の小さな体を持ち上げて

「俺は立派な探検者だ。いろいろなものを見つけてやるぞー、うぉー」

なんていうもんだから俺もいい気になって

「うぉー」

って俺も父さんのマネをしてたんだっけな。



でもそのあとに事件が起きてしまった。


その日はよく晴れた日だったのを覚えている。

いつものように装備を整え、玄関で

「じゃぁ行ってくるよ」

と言ってから母さん、俺、そして赤ん坊だった弟の頬にキスをした。


これは父さんがダンジョンに行くときにする一種の願掛けのようなもので探索に行くときは一回も欠かしたことがなかった。



その姿を見たのが最後だった。


いつもだったら長くても二日や三日でダンジョンから帰ってくるのに一週間しても帰ってこなかった。


心配した母さんが、父さんの知り合いとかに頼んで探しに行ってもらったんだけど、全然見つからなかった。


結局一年くらいたっても帰ってこなかった父さんは、死んだことになった。

その時から、母さんの口から探索者って言葉はめっきり聞かなくなった。


こうして俺らに残ったのは、この家と、家のローンのみだった。

ホントはこの家を売ってしまえばよかったんだけど父さんとの思い出が詰まっているからって今でも母さんが朝から晩まで働き詰めで、俺らを養いながらローンを返済している。


だから、母さんが俺がダンジョン行くのをとめようとするのはわかる。

母親として息子が父さんと同じようになることを心配してるのだろう。

ただ、俺だって母さんを楽にしてあげたいんだ。

だからこそ、俺でも多くのお金稼げるチャンスのある探索者になりたい。


母を思う息子と息子を思う母の対比で書きました。

お互いがお互いを思う故のすれ違いです。

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