【十人十色〜伝説の宝石に従ったら狂人戦隊ができました〜】第1巻: 「細波の子守唄」第2章:小説『町娘マルタ』を借りに来たはいいけれど…
『私の髪飾りが、予言者からの贈り物⁉︎ ー歌手志望に戦士なんて無理です!』
アンツィア王国が、魔物による攻撃で戦火に飲まれてから、40年。しかし、訪れた平和は所詮ガラス張り。水底では黒い魔物が復活を虎視眈々と狙っていた…。戦禍に消えた王家に伝わる10の宝石。「宝物が再びアンツィアに集う時、大きな波が国を襲う」宮廷魔術師はそう言い残して絶命した。果たして、彼が伝説のジュエリーに込めた魔法は何なのか?
先月まで通っていた、女子学園は最悪だった…
7月某日。歌手志望の少女・マリンは、念願の王立学園に転校する。目標は、ミュージカル『町娘マルタ』並の歌唱力を身につけること!集会中に二度見された髪飾り。親友との登校。文化祭前のせわしない空気の中、彼女が見つけたものは…?
第2章公開! 図書館の神秘的な空気の中、マリンは何を見つける?
昼休み。
図書館に足を踏み入れると、その静けさに、マリンは思わず背筋を正した。
まばらに響く上級生のペンの音、時計の秒針だけが生きた心地を感じさせる。
土砂降りの雨が芝生を打つ音も、まるで聞こえない。
「お願いします」
無人のカウンターに小さく礼をすると、彼女は奥へと進んだ。
本棚はまるで壁のようにそびえ立ち、見たこともないような題名の本がずらりと並んでいる。それが延々と迷路のように続いているのだ。
「本当にここで合ってるんだよね…」
震える指で、タイトルをたどっていく。
魔界資料…英雄伝…医療魔術大全……あった!
一通り眺め終わった所で、彼女は指を止めた。
『ミュージカル「町娘マルタ」に学ぶ! 第3巻 〜感情表現の基本〜』
表紙には、マーメイドドレスの女性。
「セレーナ・キャンベル」ーーマリンの憧れの役者が載っていた。
急いでページをめくると、1ヶ月ほど前の興奮が、ありありと湧き上がってきた。
『町娘マルタ』上演初日ーー
人々の熱気に包まれ、緞帳が上がっていった。
主役は、もちろんセレーナ。
港町風の華やかな音楽と共に、エプロンドレスでターンする。
雑貨店の手伝い。魚の仕入れに来る青年。次第に目が離せなくなる横顔…
まるで、ここまで潮の香りが伝わってきそうなほど鮮やかな景色…。
ザッと音がして、舞台が紫の光に包まれた。
海に沈む夕日を眺めながら、二人が並んでいる。
青年がおもむろに、口を開いた。
『俺は海が大好きだ。でも、それより青い瞳をした貴女が、もっと好きだ』
劇の光景を思い浮かべたら、胸がまた熱くなる。
そのままページを進めると、ぴらりと茶色い紙が滑り落ちた。
「…ん?今何か…」
マリンが屈んで拾い上げると、それはボロボロの羊皮紙だった。
「それ、大戦前のじゃない?」
「ひゃっ⁉︎」
耳元近くの澄んだ声に、びくりと跳ね上がった。
「…ごめん、驚かせちゃって。授業で使う本を借りに来ただけなの」
「…クララ…ならいいんだけど」
ゆっくり振り返ると、親友は腕一杯に医学書を抱えていた。
全て、マリンには目の回るような難しいタイトルばかりである。
「お疲れ様…医学科生って大変なんだね。そうだ、さっき言ってたのって、どういうこと?」
「えっと…」
クララは地図を指さすと、淡々と続けた。
「前に、学園史の授業で見たのに似てるな、って思ったんだ。
マリンがアンツィア学園に来るって言ったとき、校舎の見取り図見せたでしょ?
それに比べて…ほら、北側に塔が一本多い。これ、もしかしたら、魔界戦争で破壊されたっていう"北の塔"なのかもしれない…修復工事はされたけれど、塔はなくなったみたいだった…だとすると…」
「あ、ありがとう、教えてくれて。落とし物ならカウンターに届けた方がいいんじゃ…」
嫌な予感がして、話を切り上げようとしたが、もう手遅れだったようだ。
「…でも何でここに?…そういえば、学園長先生が前に無くなってたとか…」
延々と続く独り言。止まるまで、一体何分かかるだろう。
マリンは、このままクララを置いて帰ろうとさえ思ったが、改めて地図に目を落とした。
彼女はこの学校に来て、日が浅い。
けれど、学園の地図だと言われてみれば、なんとなく飲み込める気がした。緻密に描かれたスケッチは、今の建物に雰囲気が瓜二つだ。
むしろ、北の塔を除けば今の学園そのものと言われても納得できるほどだった。
一辺だけ、変に波打った輪郭の地図。
もしかすると、これは落とし物なんかじゃないのかもしれない…。
そんな考えが脳裏に浮かび、慌てて首を振った。
「と・り・あ・え・ず!」
マリンが大声を出すと、クララはやっと顔を上げた。
「あとで司書の先生に見せるから、帰ろう…。
…あ、貸し出し忘れてた!」
鈍く響く鐘の音と共に、二人は慌ただしく図書館を後にしたのだった。
お楽しみいただけましたか?
第3章は、例の髪飾りを褒めてくれた学園長と、マリンが対談!
そして、事件勃発⁉︎
ぜひ、お楽しみに!




