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誰も望まない選択

下校途中


春風が制服の裾を揺らしながら、私たちは並んで歩いていた。

意識せずとも、歩調が自然と合う。


「――ねえ、文也」


そらが沈黙を破った。


「晴人、どうかしたの?私がいない間に何かあった?

それとも…あなたが何かした?」


その言葉に息を呑んだ。


「いや、それは――」


ちょうどその時、私も聞こうとしていた。


「そら…君は晴人のこと、どう思ってる?」


「…え?」


そらは完全に驚いた表情で私を見た。彼女から本音を引き出すのは容易ではないと知っていたので、先に質問に答えることにした。


「君の質問に答えると…多分、入学式がきっかけだ。晴人はあの頃から変わり始めた」


「入学式?あの日何かあったの?」


首を振った。


「特に…ない。少なくとも私の知る限りでは。

でもあの日から、晴人は…変わっていった」


そらは軽く頷き、私の最初の質問に答えた。


「私が晴人に抱いてる感情は…」


少し間を置き、言葉を選ぶ。


「――友情よ。あなたと晴人は…私にとって大切な友達」


一瞬、安堵が走った。

彼女は晴人を好きじゃない。

だが疑問は消えない:そらは本心を隠すのが上手い。


「…そうか。ありがとう」


「でもどうして聞くの?」


躊躇った。全てを打ち明けるべきか。結局、一部だけ伝えた。


「…君が来てから、いろんな誤解が生まれてる。

その誤解で、大切な友情が壊れるんじゃないかと」


そらは突然立ち止まり、私を直視した。


「私は周りにどう思われても構わない。噂なんて気にしない。

でもあなたと晴人と過ごせる時間…今はそれが一番大切なの」


その言葉に胸を打たれた――


「でも…あなたは?あなたこそ晴人から距離を取ってる。

おかしいと思ってた。前はこんなじゃなかった。

まるで…他人みたいだった」


――そして、その言葉がナイフのように突き刺さった。


(…彼女の言う通りだ)


最近、晴人とほとんど話さない。

二年生になってから、彼は他の友人と過ごす時間が増えた。

近づこうとしても、避けられている気がする。


(それでも…彼は相変わらず『親友の文也』と私を紹介する)


晴人なりに私を大切にしてる。

…もしかしたら、距離を誤解してたのは私の方かも。


動けずにいると、そらが歩き出した。


「――よく考えて。

二人とも私にとって大事。

でももしどちらかを選ばなきゃいけないなら――」


振り向きもせず、最後の一言を放った。


「――その時は…あなたから離れるわ、文也」


背中に投げつけられたその言葉が、心を貫いた。


私はその場に凍りついた。


声が、喉で震える。


「――そら、待って――」


呼びかけは風に消えた。

もう追いつけない。


***


桜木ハルトの視点


「一緒に帰らない?」


教室の出口に向かう私に、その声がかかった。


振り返ると、そこには白山そらが立っていた。そして、彼女の視線の先には——文也がいる。


(……そらが文也を誘うなんて、珍しい)


普段は口論ばかりの二人。仲が悪いわけじゃないが、「一緒に帰ろう」と気軽に言い合う間柄ではない。


だからこそ、その言葉が耳に残った。


文也は困惑しながらも、照れくさそうに頷く。

「……ああ、いいよ」


それだけ言うと、二人は教室を出て行った。


無意識に、私は手を挙げて彼らを呼ぼうとした。でも、その時——


「ハルト、もう帰る? よかったら……一緒にどう?」


静川みずきが隣にいた。肩に鞄をかけ、少し緊張した顔で私を見ている。


「あ……うん、いいよ」


本当は、文也とそらを追いかけたい。でも、もう二人の姿はなかった。


「しぶしぶ」なんて酷い表現だが、それが本音だ。


みずきと歩きながら、会話はぎこちなく続く。


「趣味とかある? 私は最近バレーボールをやってて……あ、絵も描くけど、上手じゃないんだけど」

「趣味? ……野球かな。昔やってたけど、今は観戦だけ。たまに文也とゲームするぐらい」

「へえ、意外。ハルトって文学少年っぽいイメージだったから」


みずきが笑う。その笑顔は温かくて、どこか安らぐ。


でも、私の頭は別のことでいっぱいだった。


(……なぜそらは文也を誘ったんだ?)


考えずにはいられない。あの二人きりで……何かあるに決まっている。


「ねえ……私、つまらない?」


みずきが突然言った。


足を止め、少し膨れた顔で私を見つめる。


「……ごめん。そうじゃない。ただ、ちょっと考え事で」

「そらと文也のことでしょ?」


鋭い突っ込みだ。


私は頷いた。


「二人は大切な友達だからな。特にそらは……彼女がいなくなった時、本当に寂しかった」

「そらって……ハルトにとって特別な人?」

「……ああ。特別だ」


空を見上げ、私は素直に答えた。


みずきは少し黙って、私の後ろを歩いた。でも、また質問を重ねる。


「でも……文也も特別でしょ?」

「もちろん。そらだけじゃない。文也も、俺にとって代えがたい存在だ」

「……そう。幼なじみだもんね」

「ああ。でも最近思うんだ……『ずっと一緒』なんて保証はないって。誰かがいなくなるって、思ってたより残酷で突然だって」

「それで……文也と距離を置き始めたの?」


私は小さく頷く。


「ああ。覚悟しようと思ったんだ……彼がいなくなることに。高校二年で、あと一年しか一緒にいられない。でも……ただ逃げてただけかも」

「それでも……文也はいつも『ハルトが親友だ』って言ってたよ」

「……わかってる。だからこそ、自分が嫌になる」


依存するのが怖かった。

彼の優しさに慣れすぎて、失った時に立ち直れなくなるのが。


「だから決めたんだ……高校では自立しようって。文也に頼らないで、自分の居場所を見つけようって。でも……結局、ただ寂しかっただけだ」


「……なんで私にこんな話を?」


みずきの声が少し震えていた。


でも、彼女の視線は私から離さない。


「……わからない。でも、お前には正直でいられる気がする」

「ハルト……私、まだあなたとあまり話したことないけど、もっと知りたい。気持ちを伝えるの下手だけど……嘘のない関係が欲しいの」


一瞬、彼女の言葉に救われた。


でも次の瞬間、胸の虚しさが戻ってくる。


「ありがとう、みずき。でも……ごめん。俺はそんな純粋さに値しない」

「……え?」

「俺の中は……空っぽだ。心が……死んでる」


そう呟いて、私は歩き出した。


みずきは何も言わない。


後ろから足音も、声も聞こえない。


みずきは——何もできなかった。

私が遠ざかるのを、ただ見送るしかなかった。

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