第二十話 待ち人来たらず
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
・羽黒 宗助 (はぐろそうすけ)
乙名専攻学科卒業後、官人を束ねる官人所役となって活躍。黒の燕尾服に白のウィングシャツに黒のリボンにシューズを履いて如何にも紳士的な服装。
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・忌部 耕助 (いんべこうすけ)
ある場所で仙術を幾つか修得したという神出鬼没の謎の中年。頭は禿げ上がっているが、宣教師の様な服を纏い、紳士的な振る舞いを見せる。若い男性を愛でる趣味を持つ。
・雪平 若子 (ゆきひらわかこ)
忌部の教え子。中性的の魅力が溢れる美男子。紳士的であるが、殺しを生業とし、袖下にワイヤーを仕込む。化粧とお香を愛する自己愛と同性愛を重ね持つ。暇があれば常備するスカーフを手で靡かせる。
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違法宝石の流通を探る華は、唯一の手掛かりである宝石商に通っていた貴婦人を再び見つけ出した。
その貴婦人が通う店は、南蛮菓子屋。宗助がこの店と当たりを付けると、貴婦人が出た後に、中へ入る。主人の居なくなった隙に、顧客名簿を見つけた宗助は、それを盗み出した。
華と宗助は、顧客名簿の人物を探すべく、冴島に相談すると、浦路という人物を知っていた。ここ数年で力を付けた冴えない宝石商。
三人は一度、南蛮菓子屋へ向かうと、主人はまたも暗殺されていた。
華と宗助は、貴婦人を捜索・保護をしに、冴島は浦路を捜索・保護しに向かった。
しかし、顧客名簿に載る人物には密書が配られ、特定の場所で待ち合わせをする旨が記載されていた。
❝宝石箱❞の顧客たちは、そこへ足を運ぶも、次々と暗殺されていくのだった…
華と宗助は、桐谷医院で死体と密書を見つけると、浦路と水本(貴婦人)が宿屋・波にいる事が発覚。
急ぎ、保護へ向かい、受付前で張り込んでいた。
華が外へ見に行くと、暫くして二人の男が入ってくる。
見張る宗助は背後から声をかけられた。
「人探しですか?」
「え?」
雪平が笑顔で話しかけてくるも、状況を直ぐに判断できない宗助は、呆気にとられた。
◇和都歴452年 3月21日 14時 置田村・日輪 宿屋・波
「僕も待ち人来たらず、でしてね、見ればわかりますよ。」
「…そうか。彼女でも?」
「どうでしょうか?大切な人なので。」
「…」
「若子君、私は先に部屋へ行っているよ。」
「ええ、わかりました。」
忌部が雪平にそういうと、宿の奥へと歩いていく。
「彼は?何者?」
「僕の恩師でして。」
雪平が水筒とコップ2つを取り出すと、お茶を汲む。
「へえ。律儀だね。俺は守役となんか卒業以来だよ。」
宗助が皮肉を言う。
「それが普通です。僕が異常なだけですから。」
「恩師を慕い、一緒に人探しをすることが、褒められたことではないと?」
雪平の言葉に、僅かな不思議を感じると、軽い皮肉を交えて問う宗助。
「かもしれませんよ?」
雪平は微笑んで返すと、宗助にお茶を渡し、自身もお茶を一気に飲み干す。
「恩師…か…」
そういうと宗助もお茶を飲み干す。
「うまい茶だ。君が淹れたの?」
「ええ。耕助さんも気に入ってくれていて。」
雪平は宗助を横目に、スカーフを手で靡かせる。
「美しい師弟愛だな。」
「それは認めます。愛という言葉は。」
「え?」
宗助は雪平の言葉に疑問を感じると同時に目眩がしてきた。
「最初は猪狩りで猪を狩りましてね。生活のため、がいつの間にか狩ることに快楽を覚えましてね。ある時、僕を異常者だと差別する人間の口を塞いだ時に、人を殺す悦びを体験したんです。以降、猪でも害獣でも、頼まれれば何でも狩ってきました。・・・でも人間を狩る方がもっと楽しいんですよ。」
雪平が宗助に不気味に微笑み、顔を近付ける。
「…」
宗助は目眩が半端なく、意識を保てない。
「特に女を狩るのは最高だ。異端の目で僕を見る、そんな人種を狩るというこの悦び…」
雪平は、宿を出た華がいるだろう方向へと目線を向ける。
「耕助さんは、そんな僕を愛して止まない。師弟愛以上の関係だよ。」
宗助が完全に気を失うと、椅子に座らせ、受付を見る雪平。
受付で男女がやり取りしている。
「浦路様?どうぞ。」
そういって受付を済ました2人の男女は手を繋いで部屋へ向かう。
「そうそう、言ってませんでしたね。僕の探してる人は、男女ですから。奇遇にも、あなたと同じ相手かもしれませんね。目的は全く違えど…ね。」
雪平は男女の後を追う。
「では、お先に。いい夢を。」
ニ、三歩進み、振り返ると、微笑む雪平。
◇和都歴452年 3月21日 15時 置田村・日輪 宿屋・波 近郊
「あなた、浦路よね?」
「な…何だ?君は?」
「私は監査人・三ツ谷華。あなたを助けに来たの。」
「え?」
ー数分前
遠くからでも判る水本の壺装束に、市女笠で顔を隠す姿が、華を引き寄せる。
急ぎ近付くと、2人は立ち話をしていた。
「私は店に宝石を取りに行かなければならない。君は先に宿へ戻ってゆっくりしていてくれ。」
そういって別れる浦路と水本。
水本はそのまま宿の前の茶屋へと入る。
(宿には宗助がいるし、私は…)
華は浦路の後を追う。
一方で、水本は茶屋で待ち合わせていた男と少し話すと、手を握り、宿へ向かう。
次回2025/12/19(金) 18:00~「 第二十一話 保護」を配信予定です。
※12/5(金)~12/26(金)は年末年始・強化月間です。
期間中は毎週(金) 18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




