35 思考するレムデシビル
午後8時30分。
サーズとマーズは帰宅する。
「ただいまー! レムちゃん、帰ったよ」
「おかえり。ママ、サーズ」
「ただいま」
アマビエ様との戦闘、パチンコPCRの火災、昼のゲリラ花火、その後の記者会見と目まぐるしい一日だった。
いつものサーズとマーズなら、逃げたアマビエ様の追跡を夜通し行うところだったが、今日は早めに帰宅した。
レムデシビルが待っていたからだ。
「レムちゃん、ひとりでお留守番できたねー。偉いねー」
「留守番、偉い?」
「偉いよー。今日はおうちで何してたの?」
「アマビエ様とその周辺人物について一通り調べておいたよ」
「え……?」
「それから結社ダイヤモンド・プリンセスや古い生活様式を守る会、ペスト氏のこともね」
「いまなんて……?」
「調べたってどうやって?」
「街中の監視カメラやロボット端末をハッキングして調べたんだよ。おおくの映像記録は法律で48時間以内に消去されることになっているけど、なかにはバグでそれ以前の記録が残っているものもあるからね。彼女たちの人生や行動様式についてはおおむね把握したよ」
「レムちゃん、すげー!」
「もしかしてアマビエがいまどこにいるかもわかるの?」
レムデシビルは2秒ほど考えて答えを出す。
「アマビエ様はいまレッドブリッジの近くにいるよ。もうすぐレッドブリッジに着く」
「レッドブリッジに? なんで?」
レムデシビルはまた考える。
今度は質問の内容が難しかったのか、5秒かかる。
「レッドブリッジには結社ダイヤモンド・プリンセスのサファイアと古い生活様式を守る会の会長がいる。サファイアが会長を人質にとってアマビエ様を呼び出したんだ。でも、なぜアマビエ様が呼び出しに応じたのかはわからない。アマビエ様の過去の行動様式を鑑みれば、会長を放っておいて家で寝ていたっておかしくない」
「たしかに、アマビエってそういうやつだからな」
「だから、なぜアマビエ様がレッドブリッジに向かっているのか、その問いへの答えは永遠に謎だよ。強いていえば、ただなんとなくそうしたいという気分にアマビエ様がなったからだね」
「なるほどね。極めて正確な理解だわ」
「レッドブリッジにはほかにもたくさんの人が向かっているよ」
「え? なんで?」
「ダイヤモンド・プリンセスのマジェスティックがデモを呼びかけたんだ。マジェスティックは最初、サファイアと一緒にアマビエ様を探していた。でも飽きて途中から別行動を始めたんだ。マジェスティックはそれから二人の人物に出会い、定額給付金制度の欠陥を訴える動画を配信した。動画の中でレッドブリッジでのデモを呼びかけた。その動画はいまものすごい勢いで拡散しているよ」
「あったあった、これかー」
マーズは動画を見つけてきて、視聴する。
「あれ? ペスト氏が二人いる」
「ペスト氏とお揃いの仮面をかぶっているだけだよ。そのうちの一人がマジェスティックだよ」
「この女の子は?」
「コロナちゃん」
「コロナちゃん?」
「コロナちゃんのことだけはよくわからない。二日前に急に現れたんだけど、それ以前の記録には全然登場しない。最近この街にやってきたみたいだよ。ロックダウンくんと関係があるみたいなんだけど」
「ロックダウンくん?」
「サーズとママが助けた男の子だよ」
「ああ、あのピーポくんに襲われてた少年か。あいつあのあと大丈夫だったのかな?」
「ロックダウンくんはダイヤモンドに殺されかけたけど、コビット三兄弟に助けられたよ」
「は…‥?」
サーズはコビット三兄弟に電話をかけるがつながらない。
「コビット三兄弟とロックダウンくんもレッドブリッジに向かっているよ」
「ええ!?」
「わかったわ。レム、ありがとう。マーズ、行くわよ」
「行くってどこへ?」
「決まってるでしょう。レッドブリッジよ。そこにアマビエも来るわけだし、ダイヤモンド・プリンセスや守る会の連中もいるわけでしょ。しかもデモだなんて、この街の秩序を乱すたいへんなことが起こりかねない」
「それもそうだな。よし、行こう!」
「ねえ、サーズ、ママ。お願いがあるんだけど……」
「ん? レムちゃん、どした?」
「一緒に行ってもいい?」
「おー、レムちゃんも行きたいかー。どうする、サーズ?」
「そうねえ」
「お願い。迷惑かけないようにするから。いろいろ調べたりとかちょっとは役に立てるよ。それに、ひとりで待ってるのは心配なんだよ、ママやサーズに何かあったらって思うと」
「わかったわ。でもレムデシビルだってわからないようにちゃんとお洋服着ていってね」
「やったー!」
マーズはレムデシビルに服と帽子を装着させる。
初めてのお出かけだからと、服を選ぶのにずいぶんと時間がかかってしまった。
「これでよし。レムちゃん、似合ってるよ」
「はやく出発するわよ」
「はいはい」
サーズはレムデシビルを抱きかかえる。
レムデシビルはサーズの腕の焼け痕に気づく。
「ねえ、サーズ」
「ん?」
「怪我は平気? 今日、火事にあったんでしょ? 怖くなかった?」
「レム……、大丈夫よ。ちょっと火傷しただけ。腕に火が回ったときは、少し怖かったけど」
「あんまり無理しないでね」
「うん。ありがとう」




