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みんなのコロナちゃん  作者: 新型
19/40

19 結社ダイヤモンド・プリンセス

 午前4時。

 カフェ・パンデミックの会議室では、夜も明けようという時刻にもかかわらず、ある会合が行われていた。


 4人の人間がテーブルを囲んで、真剣な表情でにらみ合っている。

 午前0時から始まった会合は佳境を迎えていた。

 重々しい空気の中、発言はほとんどない。

 暗号めいた言葉がときおりつぶやかれるばかりだ。


 4人は手元のブロックを熱心に幾度も並べ直す。

 4人のうちの1人が決死の覚悟で、ひとつのブロックをテーブルの上に置く。


「ロン」

「ぐわっ、まじかよ」


 勝利した女は、結社ダイヤモンド・プリンセスのナンバー2、サファイア。

 あがり牌を振り込んだ男は、同じくナンバー3のマジェスティックだ。

 サファイアとマジェスティックは重度の麻雀フリークであり、ここのところ連日、結社の構成員を呼び出しては、深夜の賭けマージャンにいそしんでいた。


「今夜も私の完勝ね。いつもありがとう、マジェスティック」

「ちくしょう!」

「じゃあどれにしようかな? それ! 肩のところの緑色のデカいやつ」

「ほらよ」


 無数の宝石がついた衣服に身を包んだマジェスティックは、右肩のエメラルドをむしりとってサファイアに差し出した。


 密閉空間で多人数が接触する娯楽である麻雀は、感染リスクの高さから「新しい生活様式」において明確に非推奨とされている。

 リアルな空間での麻雀が困難になった後、一時的にオンライン麻雀が活況を呈した。

 しかし、オンラインでの賭け麻雀が社会問題化すると、すぐに取り締まりが厳格化した。

 結局いまなお賭け麻雀の主流は、対面での勝負だ。

 オンラインを経由した現金のやり取りはすぐに足がつくから、賭け金の受け渡しは多くの場合宝石や物品で行われる。


「で、姉さん、明日はどうする?」

「なじみの新聞記者に麻雀好きがいるんだけど、呼んでみよっか?」

「それまずくない? 俺たちが賭けマージャンやってるなんてネタ、週刊誌にでも売られたらただごとじゃないぜ」

「大丈夫大丈夫。いろいろとヤバい情報を流してる仲だし」


 結社ダイヤモンド・プリンセスは、新新様式派の有力団体だ。

 代表のダイヤモンドは、世界的ジュエリーブランドを手がける経営者でもある。

 その圧倒的な資金力を武器に、ダイヤモンド・プリンセスは政界から経済界、マスコミまで多方面に影響力を持つ。


 無論、「新しい生活様式」の徹底と更新を信条とするダイヤモンド・プリンセスにおいて、賭け麻雀などご法度だ。

 だが禁止されているからこそ無性にやりたいという場合もある。

 反抗期のこどものように。


「サファイア様、ダイヤモンド様からお電話です」

「え? 死んだって言っといて」


 部屋の見張りをしていた男がサファイアに声をかける。


「さっきから何十回も直接お電話していたそうで」

「いま何時だと思ってるんだ。クソばばあが」

「あの……たぶん聞こえてます……」


 サファイアはしぶしぶ電話に出る。


「ママ―、どしたの? ……うん、そう。……マジェスティックと遊んでた」

「おい、俺の名前出すなよ! 大学の友だちと旅行に行ってることになってんだから」

「…‥はいはい。……あー、守る会がね。…‥動画? ……ふーん。……アマビエ様? ……アマビエ様ってあのアマビエ様? ……そっか。……あー、はいはい。わかった。……うん。じゃね」


 サファイアは電話を切る。


「え? なんて? アマビエ様とか言っていなかった?」

「うん。アマビエ様を殺せって」

「え……? まじで……?」


 ダイヤモンドの娘と息子、結社ダイヤモンド・プリンセスの最凶最悪の姉弟にもまた、アマビエ様は追われる羽目になった。


「あ、ごめん。殺せとは言ってなかった。生け捕りにしろって。まあ死ぬんだろうけど」

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