19 結社ダイヤモンド・プリンセス
午前4時。
カフェ・パンデミックの会議室では、夜も明けようという時刻にもかかわらず、ある会合が行われていた。
4人の人間がテーブルを囲んで、真剣な表情でにらみ合っている。
午前0時から始まった会合は佳境を迎えていた。
重々しい空気の中、発言はほとんどない。
暗号めいた言葉がときおりつぶやかれるばかりだ。
4人は手元のブロックを熱心に幾度も並べ直す。
4人のうちの1人が決死の覚悟で、ひとつのブロックをテーブルの上に置く。
「ロン」
「ぐわっ、まじかよ」
勝利した女は、結社ダイヤモンド・プリンセスのナンバー2、サファイア。
あがり牌を振り込んだ男は、同じくナンバー3のマジェスティックだ。
サファイアとマジェスティックは重度の麻雀フリークであり、ここのところ連日、結社の構成員を呼び出しては、深夜の賭けマージャンにいそしんでいた。
「今夜も私の完勝ね。いつもありがとう、マジェスティック」
「ちくしょう!」
「じゃあどれにしようかな? それ! 肩のところの緑色のデカいやつ」
「ほらよ」
無数の宝石がついた衣服に身を包んだマジェスティックは、右肩のエメラルドをむしりとってサファイアに差し出した。
密閉空間で多人数が接触する娯楽である麻雀は、感染リスクの高さから「新しい生活様式」において明確に非推奨とされている。
リアルな空間での麻雀が困難になった後、一時的にオンライン麻雀が活況を呈した。
しかし、オンラインでの賭け麻雀が社会問題化すると、すぐに取り締まりが厳格化した。
結局いまなお賭け麻雀の主流は、対面での勝負だ。
オンラインを経由した現金のやり取りはすぐに足がつくから、賭け金の受け渡しは多くの場合宝石や物品で行われる。
「で、姉さん、明日はどうする?」
「なじみの新聞記者に麻雀好きがいるんだけど、呼んでみよっか?」
「それまずくない? 俺たちが賭けマージャンやってるなんてネタ、週刊誌にでも売られたらただごとじゃないぜ」
「大丈夫大丈夫。いろいろとヤバい情報を流してる仲だし」
結社ダイヤモンド・プリンセスは、新新様式派の有力団体だ。
代表のダイヤモンドは、世界的ジュエリーブランドを手がける経営者でもある。
その圧倒的な資金力を武器に、ダイヤモンド・プリンセスは政界から経済界、マスコミまで多方面に影響力を持つ。
無論、「新しい生活様式」の徹底と更新を信条とするダイヤモンド・プリンセスにおいて、賭け麻雀などご法度だ。
だが禁止されているからこそ無性にやりたいという場合もある。
反抗期のこどものように。
「サファイア様、ダイヤモンド様からお電話です」
「え? 死んだって言っといて」
部屋の見張りをしていた男がサファイアに声をかける。
「さっきから何十回も直接お電話していたそうで」
「いま何時だと思ってるんだ。クソばばあが」
「あの……たぶん聞こえてます……」
サファイアはしぶしぶ電話に出る。
「ママ―、どしたの? ……うん、そう。……マジェスティックと遊んでた」
「おい、俺の名前出すなよ! 大学の友だちと旅行に行ってることになってんだから」
「…‥はいはい。……あー、守る会がね。…‥動画? ……ふーん。……アマビエ様? ……アマビエ様ってあのアマビエ様? ……そっか。……あー、はいはい。わかった。……うん。じゃね」
サファイアは電話を切る。
「え? なんて? アマビエ様とか言っていなかった?」
「うん。アマビエ様を殺せって」
「え……? まじで……?」
ダイヤモンドの娘と息子、結社ダイヤモンド・プリンセスの最凶最悪の姉弟にもまた、アマビエ様は追われる羽目になった。
「あ、ごめん。殺せとは言ってなかった。生け捕りにしろって。まあ死ぬんだろうけど」