第三十五話 『癒』
「アイ兄!!」
「あ、アリア……? 何でお前が、ここに?」
俺の前に立ち、『悪魔の王』に向かい合う『救世主』は、
こちらに背を向けたまま話す。
「私の魔法です。分身に『天使の末裔』とその父を助けるよう指示しました。
……『跳躍者』同様、その二人にも悪は無いと。私の判断です」
「……そうか。ありがとな」
「いえ。私は「正義として当然の事をしました……とでも言うか?」……いえ。
もうそのような言い草、自分で飽き飽きしました。今だけは、守りたい者の為に、と言っておきましょう!!」
明るくて、それでいて神々しい緑の光は、『救世主』の体を中心にどんどんと、
周りに広がっていく。
それが何なのかとは、今更言わすもがな。
「……行きます! 守る者達の為に、貴方には消え去ってもらいます!」
光は聖女の右方に集まり、形を成す。
「断罪の翼。……我が罪を許してください」
「はッ! 翠の片翼! 面白い!!!!」
『悪魔の王』は、俺から見ても大きすぎる緑の翼を一瞥した後、
さらにその笑みを深くし、跳躍する。
「アイ兄。今治療する!!!」
「治療? お前、どうやって……」
「大丈夫。絶対に、
両足も左腕も、直してあげる!!!」
無駄だ。……これは『悪魔の王』によってつけられた傷。
そんなもの、同じ『四人』でも完全に治せるかなど分からない。
「見て、アイ兄。これが私の……『覚醒』のカタチ」
アリアは、俺の切れた右足を持ってきて、元の場所にくっつける。
そして……その斬り跡が、光に包まれた。
純粋な白。同時に強く、そして癒される。
『覚醒』。『四人』がなるもう一つのカタチ。
そうか。アリアのカタチは、『癒』か。
アリアが覚醒したのは、聞いていたが。
だが、それでも知らなかった。聞かされなかった。
「はぁ……こ、れで、一つ。もう、二つ」
「む……無理、するな。アリア」
俺も昔……前の世界の時、自分の右腕を分離させ、
それをそのまま神経などいじって紫に付けた。……あの後だって、能力の酷使で体力を消耗。
医者からもう二度とそんな無茶な真似はするなって言われた。
それで、細胞も途切れ途切れの、いわゆるぶつ切り状態の
俺の四肢をくっつけているアリア。
負担の違いは一目瞭然。
「む理じゃないよ。わたし……アイ兄の為なら……」
白い光が無くなる。
そして、戻ってくる感覚。既に両足は、神経・血管共々塞がっていた。
「……あと、ひ……と………
フラフラと覚束ない影。
そして―――
「アリアっ!? 大丈夫か!?」
アリアは、そのまま目を閉じ気を失った。
……これが『治療』の代償。だが、まだ寝てるだけ。……でも。
「二度とやらせる訳にはいかないよな、兄として」
もしまた今度やってしまったら、どうなるかわからない。
いくら『四人』の内一人がする治療でも、やはりそれは魔法の一種。代償は相当なものだ。
「さ、てと。血が欲しいとこだけどな……行くか」
両足の感覚をもう一度確かめる。
「よし。走れるか。……『救世主』。俺も加勢する」
そのまま、アリアを寝かせ、
俺は緑と黒の光が入り混じる中に向かった。
もう、自覚してますけど私って、
中二病設定マニア。
……感想、または誤字訂正ありましたら、感想欄にてご報告ください。