弐拾捌
『もう一度会った方が良い、と言ったのは、助言という程のものでは無いが、伝えておくと良いか、と思っただけじゃ。あれは妾にもどうすることも出来ぬ』
神功皇后の端的な説明で全てを理解は出来ないので春香はまだまごついている。
「具体的に伺ってもよろしいですか?」
『うむ。そうじゃの。昨日会った時に、悪しきと言ったこと覚えておるかの』
「幽霊が悪いモノだったという話で、だから、神功皇后が追い払って下さったわけですよね?」
神功皇后の問いに春香がそう答えると、神功皇后がうむうむ、と肯定する。
『波長が合って悪しき存在をつけている。妾はそう言ったはずじゃな』
「はい。つまり、悪いモノを呼び寄せてしまう心を持っている、でしたっけ」
春香が思い返しながら言えば、よく出来た、と子を褒める親のように神功皇后が頷く。
『そうじゃ。だが、少しばかり妾の見立てが違うようじゃな。波長が合うということは間違いないが、あの女性は罪悪感から呼び寄せていた、というのが正しいようじゃ』
「罪悪感」
まだ神功皇后の言いたいことが分からず、春香は首を捻る。
『うむ。抑々、生きている者が霊魂を見ることは、あまり無い。それは波長の問題じゃ。だがの、波長が合えば見えていなかった者が見えるようにもなる。それがあの女性に当て嵌まるの。熱を出したと言っておったな。体調が悪くなる、心が弱る、そうすると波長も変わって見える者も出てくる。生きている者は誰しもが見える素質がある。ただ、多くの者は波長が合わないから見えないだけ。体調や心の変化で波長が変わり見えるようになった。それがあの女性じゃ。そしてあの女性は、そなたに関わりがあった』
そこまで言われ春香はハッとした。
「幽霊が見えたことで、私を疎外していたことを思い出して罪悪感が出た?」
『そうじゃの。そしてその罪悪感から悪しき存在を呼び寄せるようになった。だが、おそらくはもう波長が合わなくなったのだろう。見えておらん。だから、昨日、妾が追い払った時も見えておらんかったような態度であっただろ。妾が先程、あの女性の目の前に居ても何の反応も示さなんだ。一時的なものだったのだろう。だが、見えてしまったことで、そなたへの罪悪感が常に付き纏い、結果として悪しき存在を呼び寄せることに繋がっている』
見えない。でも、悪いモノを呼び寄せている。
「悪いモノを呼び寄せているから、心が弱ったまま、なんでしょうか」
『そうじゃ。ゆえにまた呼び寄せる。追い払っても心が弱っているから呼び寄せる。そして心が更に弱る。本人が強くならねば追い払っても意味が無い。この家に入る直前まで悪しき存在が居たからの、家を出たらまた悪しき存在がついたじゃろうの』
春香は、悪循環という言葉が脳裏に過った。それから目を瞬かせる。
「この家に入るまで?」
『妾がおるからの。悪しき存在は入って来られぬ。この家から出たらまたついたはずじゃがの』
神功皇后が居るので、家が守られていたらしいと知って、春香は感謝の気持ちで頭を下げた。
『なに、気にするでない。そなたと妾が出会ったのも縁じゃからの。そなたは、いや、親御たちも、元々妾の神社に足を運んでおったから、妾と繋がりやすくなっておった。あとはそなたの母が言っておったのは、そなたの曾祖母も妾が手助けしていた、ということだったか。だからこの家に妾の守りが効きやすかった。それだけのことよ』
こうなると、縁というものは不思議なものだ、と春香はつくづく思う。東京で出会ったことすら、縁なのは分かるが、それもまた、春香が神功皇后神社に足を運んだことがあったからなのだろう。それに、母が礼を述べていたように、春香の曾祖母も神功皇后に助けられていた。だから守りやすかった、と神功皇后が言った。巡り巡っての縁、である。
「ありがとうございます」
『うむ。妾が気にすることはない。そう言っても礼を述べるは別、と感謝の心を忘れぬところも良い心がけじゃの。話は戻すが、あの女性は自分の罪悪感を消さない限りは、悪しき存在を呼び寄せ続ける。じゃからの、罪悪感は抱かないで良い、と助言とも言えぬが伝えておこうかと思ったまでじゃ。まぁ妾のことが見えぬゆえに実際にはそなたに代弁してもらうようだったがの』
神功皇后の説明に春香は、なるほどと納得する。助言をしても聞き入れたのか、それは分からない。ただ伝えることは出来ただろう。それを聞いてどうするのか、それはユキ自身の問題。
『まぁ、あの女性は妹が支えになりそうだからの。妾からの助言など役にも立たないかもしれぬが、伝えておくべきだと思った。それだけじゃ』
確かにあの妹がユキを支えるのであれば、心の不調は治るかもしれない。妹だけでなく家族全員で、ユキを支えていくのであれば。
『だが、あの女性が変に自分を憐れむような自己憐憫の塊だったとしたら、かなり難しいとは思うがの』
春香も懸念したように神功皇后も懸念したのか、そんなことを言う。春香もそんなことにならなければ良いが、と思っていた。
自身を不幸者と思い、己を憐れむような者だったら、いつまで経っても悪しき幽霊がユキから離れることは無いだろう。それどころか益々多くのモノを呼び寄せてしまうような気がした。
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