紅顔の少年
「美童?」
「奴の顔を見ろ。仏様がいっとう気合入れて作ってそうだろう?」
「仏様がえこひいきしますか?」
「お前の顔見りゃわかるじゃないか。仏様も疲れてたんだろうな。」
わはは
盛り上っていると、美童が眉間にしわをよせた。
「お主の顔を覚えているぞ。直冬殿に不遜な口をきいた輩だな。」
「覚えていてくれて光栄だよ。美童。」
美童は冷涼な声で話しかけてきた。
フレンドリーに応対すると、美童はますますしわを深くする。
「・・・ふざけた呼び方をするな。」
「ん?」
貞世は首をかしげる。
美童は、見違えるような美形に成長していた。己と同年代だろうか。
難しい年ごろだ。「童」呼びが気に障ったのだろう。
「紅顔の青年よ。一団を率いる者に童呼びはなかったな。すまない。」
ぺこり
貞世は頭を下げた。
ちらりと様子を伺う。
・・・?
陳謝を受け取るでもはねつけるでもない。不思議な反応だ。
面食らってる、とでも言おうか。
なんだろう。
こほん
美童が咳払いをひとつ。
「まあ、よい。」
「そうか。」
「ここは今川の者には居心地悪かろう。さっさと立ち去れ。」
「え。」
急展開である。いや、別に急でもないか。
美童が手を振ると、物々しい男たちが今川兵を囲んだ。
もはや動く気にもなれん。
貞世はだらけきった体勢のまま美童を手で制する。
「まあ待て。待ってくれ。ここは神域だろう?」
「ふん。」
美童は鼻で笑った。
「おかしいとは思わないのか。」
「何が?」
「ここは確かに神域。住吉大社の分社だ。だがな、小領主の城下町よりさらに狭いこの神社領に、なぜ兵がいると思う?」
貞世は呆ける。すぐに目が覚めた。
ずらりと居並ぶ武者たち。今川兵と同程度居そうである。
住吉大社そのものならば、数百の兵が警備していてもなんらおかしくはないが、このちんまりした社には似つかわしくない。
ふむ
・・・
貞世は顎に手を当てる。
ぱっと明るい顔を美童に向けた。
「出迎え、痛み入る。」
「ふん。」
美童は手を前に振った。
武者たちがじりじりと迫ってくる。
冗談の通じない奴だ。
「まあまあ、落ち着け。焦ることはない。」
「いい加減にしろ。貴様の魂胆はわかっている。」
魂胆 心中に隠されたたくらみ、策謀。
・・・ふむ。
「さすがだ。」
貞世は大げさに両手を広げた。
美童は面白くもなさそうに貞世の賞賛を流した。
「時間稼ぎをしている間に、配下の息を整える気だろう。そうはさせん。」
貞世は重々しくうなずいた。なるほど、俺はそういうことをしていたのか。
ちらり
側にいる仲間を見る。両手で大きくばってんを作った。
いくじなしめ。
「答えになってないな。」
貞世は悪あがきをすることとした。
「神域で、無法な真似をできるのか?」
「できる。」
「そうだろう。・・・え?できる?」
「できる。」
美童は頷いた。
「住吉大社は正朝の味方だ。朝敵の血が流れることは許容する。」
政庁?成長?
「せいちょう?」
「・・・今上帝の朝廷だ。」
貞世は首をかしげた。
ああ。
「南朝のことか。」
「違う。朝廷に南も北もあるか。今上帝こそが正当なる帝だ。」
「なるほど。」
ふむふむ
まずいな。
なんのかんの言っても、今川は北朝の傘下、南朝の敵だ。
ばれたら殺される。ここは穏便に・・・
ん?今殺されかけてるな。
・・・・ん?さっき朝敵って言われた?
そういえば、最初に「今川」がどうのって言ってなかった?
「・・・我々は、湯浅党の残党。食うに困って盗賊働きを働いていたところ、近隣の領主に追い立てられたのです。」
美童は呆れたように息を吐いた。
「なあ今川。みっともないぞ。」
うーん。だめか。
貞世はちらりと横を見る。
仲間は目を泳がせる。
いける?
無理です
いやいや、いかなきゃ殺されるって
いや、まじで無理です。動けないです
え、まじ?
まじです
「・・・おい。」
ひそかにアイコンタクトをとっていると、美童は耐えかねたように声を上げた。
「もういいよな?斬るぞ。」
彼は何を期待しているのだろう。ここで「うんいいよー。ばっさりよろしくー。」と言う奴がどれだけいるというのか。
「わかった。」
「そうか。」
貞世は懐に手を突っ込んだ。
取り出したものをぽいっと投げる。
「・・・」
すかさず華麗に地面とキッス。
「これで勘弁してください!!!」
勢いでごまかせ!
押せえ!!
ばっと横を振り向いた。
「お前ら!銭をだせ!」
呆気にとられる今川兵。
「いくら分社とはいえ、聖域は聖域だ。血で汚すのはまずいんじゃあないか!?なっ、ここはひとつ、大人の取引といこうじゃないか。なあ!!」
スライディング土下座を見事にきめると、貞世は美童ににじり寄った。
思ったよりも、美童は揺れている。
しめた。南朝の連中は万年貧乏と聞いている。手元に金目の物はぜんぜん無いが、なんなら後払いで通そう。京都の今川館からかっぱらおう。
まあまあの時間投げ渡された小包と貞世を見比べていた美童は、やがて苦渋の決断と書かれた顔で小包を投げた。
「私は武士だ。このような卑怯な真似で見逃すわけにはいかん。」
「よおし。わかった。」
「は?」
がしっと、美童の肩をつかむ。
異常に華奢だった。
「戦働きをしようじゃないか。紀伊の豪族でも大和の山賊でも構わない。俺たちは腕っこきだ。」
「ぇ。」
「細川の連中が暴れてここらの南朝方は苦戦してるらしいじゃないか。任してくれよ。ひと月、ひと月でどうだ。ひと月お前らの望むままに戦ってやる。」
ぐらぐらと肩を揺らす。美童の家臣が血相を変えて止めに来た。刀を抜かなかったのは主君《美童》への配慮だろうか。
美童は散々に揺らされた後、貞世の腕をつかんだ。
「いい加減離せっ。」
ぐいぐいと力を籠めるが、正直全然痛くない。
が、顔が怖いので貞世は両手を上げた。
じろりと、美童が今川兵たちをねめつける。
「・・・いいだろう。その判断後悔させてやる。」
身を掻き抱いたまま告げた。
☆
ランナーズハイってありますよね。あれです。




