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第三章 落ちこぼれ剣客と神算の事務屋。三国志の英雄たちが「ドン引き」した、たった一夜の復讐譚 徐庶と向朗の完全犯罪  作者: こくせんや
第三部 落ちこぼれ剣客と神算の事務屋。三国志の英雄たちが「ドン引き」した、たった一夜の復讐譚 徐庶と向朗の完全犯罪

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第8話 徐庶の仇討ち 5/7

15.絶望


向朗は、踵を返す。


「おい、巨達!どこへ行く!」

石韜がその腕を強引に掴む。


「徐福があの中に残っている!あの馬鹿、一人で全部の罪を被って死ぬ気だ!助けに行かなきゃ……」

「落ち着け!無手のお前が行って何ができる!」

孟建もまた、向朗の肩を組み敷くようにして制止した。


「今戻れば、お前まで捕まる。あいつの覚悟を無駄にする気か!」

「……っ!」


向朗は、歯が折れるほど強く噛み締めた。

算木を握る指先が、怒りと無力感で小刻みに震える。

合理的に考えれば、ここでの撤退が「正解」だ。

だが、友を死なせるという結果は、事務屋・向朗の誇りが許さない。


「……考えろ。考えろ。どこかに変数があるはずだ。一千の兵と、数百の賊……このカオスを支配する、たった一つの解が……」


向朗は煙に咽びながら、静かに目を閉じた。脳内の算盤が、猛烈な速度で火花を散らす。


16.黄金の毒餌


「……いける。確率は低いけどこれしかない」


向朗が目を開く。その瞳からは、迷いが消えていた。

「石韜、孟建。声を限りに叫べ。街中の賊と兵士に聞こえるようにだ」


「何を言えばいい!」

「――白亜の怪物が、賈仁と賊の取引で得た財宝の鍵を飲み込んでいる、と!」


石韜と孟建は顔を見合わせた。吐き気を催すような嘘だ。

だが、同時にこれ以上ない黄金の毒餌であることを、彼らは直感した。


「行けッ!」


二人は屋敷の周囲を疾走し、怒号を上げた。

「聞いたか!あの白塗りの男が、賈仁の隠し財宝の鍵を持っているぞ!飲み込んで隠しやがった!」


その声は、復讐よりも金に飢えていた呉覇の賊たちに火をつけた。

賊たちは目の色を変え、徐福を確保しようとする衛兵たちへ殺到する。

現場は正義も復讐も消え去り、ただ一つの「鍵」を奪い合う、凄絶な乱戦へと塗り替えられた。


17.白き霧と青き炎


その混乱の隙を突き、向朗と李譔は屋敷の内庭へと滑り込んだ。

そこには、十数人の兵士と賊に囲まれ、満身創痍で立ち尽くす徐福の姿があった。


「李譔、やれ!」

「任せなさい!」


李譔が、残っていた癇癪玉を一度に数個放り込んだ。

ドォォォン!!凄まじい炸裂音と共に、一帯が濃密な白い煙に包まれる。

「うわあぁっ!目が見えん!」

「怪物の呪いだ!」


さらに向朗は、隠し持っていた青燐の粉末を地面へ撒いた。

燐光が空気に触れ、霧の中で怪しげな青い炎がゆらゆらと立ち上る。

兵士たちは、その世にも奇妙な光景に「怪物の祟りだ」と腰を抜かした。


霧の中、向朗が徐福の腕を掴んだ。

「徐福、話すな!服を脱げ、白塗りを拭え!」


向朗は、近くで死んでいた賊の死体を檻の側に引きずり出すと、予備の漆喰をその顔面にぶちまけた。


李譔が上着を脱ぎ、徐福の肩へ無理やり着せかける。

「女服に着替えろ。これが唯一の脱出口だ」


一瞬の出来事だった。

霧が晴れ始めた頃、そこには無残に焼け、顔を真っ白に塗り潰された怪物の遺体が転がっていた。

衛兵たちと賊が、これこそが犯人だ白塗りの死体を間に戦闘を続けている。

その混乱の背後を、怪我をした下女を抱えた向朗たちが通り過ぎていった。


屋敷の屋根の上、煙に紛れてその様子を眺めていた男がいた。


戯志才である。

彼は瓢箪から酒を煽り、ニヒルな笑みを浮かべて独り言ちた。


「ほう。戻ってくるか。青くその場しのぎの策だが……まあ、及第点だ」


18.夜明け


陽翟の城壁を離れ、郊外の森で石韜、孟建と合流を果たす。

徐福は下女の服を脱ぎ捨て、顔の漆喰を洗い落とした。そこには、ただの傷だらけの若者がいた。


「巨達、助かった。恩に着る」

徐福が微笑むが、向朗の表情は氷のように冷たかった。


「……礼はいい。すぐ隠れろ、徐福」

「えっ?」

「今の工作はあくまで急場凌ぎだ。李旻が冷静になれば、死体の偽装はいずれ露呈する。お前が生きていると知られれば、水鏡塾もろとも全滅だ」

向朗は算木を強く握りしめた。

「お前は公式には死んだことにする。しばらく身を潜め隠れてくれ」


徐福は、向朗の瞳に宿る、冷徹なまでの

「友を守るための決意」を悟った。

「……分かった。俺は消えるよ」


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