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第三章 落ちこぼれ剣客と神算の事務屋。三国志の英雄たちが「ドン引き」した、たった一夜の復讐譚 徐庶と向朗の完全犯罪  作者: こくせんや
第三部 落ちこぼれ剣客と神算の事務屋。三国志の英雄たちが「ドン引き」した、たった一夜の復讐譚 徐庶と向朗の完全犯罪

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第6話 剣客と神算、そして奇策と青燐 3/4

4.トロイの木馬


「……なるほど。外部から攻めるのではなく、宴会の『喧騒』に紛れて、内部に侵入する」


向朗が呟いた。その顔には、先ほどまでの絶望色はなく、難問に挑む学者のような熱が宿り始めていた。

「宴会の最中なら、多少の物音は消える。人の出入りも激しくなり、警備の監視網はザルになる。僕たちが『物資』として武器や薬物を運び込めば、誰も怪しまない」

「そういうこと」

郭嘉は満足げに頷いた。


「僕は汗をかくのは嫌いだからね。料亭の主人に口を利くだけだよ。『安く使える働き者がいる』ってね。あとは君たちが、皿洗いでも荷運びでもして、上手く潜り込めばいい」


徐庶が、信じられないものを見る目で郭嘉を見た。

「お前……なんで俺たちに協力する?お前にとっては何の得もねえはずだ」


郭嘉は、少しだけ真顔になった。

「得?そんなものはないさ。……ただ、退屈なんだよ」


彼は天井を見上げた。

「この街は腐ってる。官吏も、民衆も、みんな死んだ魚のような目をしている。君たちのような『馬鹿』が、この淀んだ水たまりに石を投げ込んだら、どんな波紋が広がるのか……。それが最高に面白そうじゃないか」


郭嘉は再び徐庶を見て、挑発的に笑った。


「手伝ってあげるよ。君たちの『正義ごっこ』が、どんな喜劇、あるいは悲劇になるのか、特等席で見物させてもらう代償としてね」


徐庶は拳を握りしめたが、今度は殴りかからなかった。

この男は危険だ。毒だ。

だが、この毒を飲み込まなければ、あの鉄壁の要塞は崩せない。


「……いいだろう」

向朗が決断を下した。


「その策、乗った。……役割を再構築しよう」

向朗が筆を取り、新たな作戦図を描き始めた。

「郭嘉は潜入ルートの確保。石韜と孟建は、業者に扮して潜入し、退路の確保と陽動を担当。僕は……会計係の応援として潜り込もう。帳簿の整理なら誰にも負けない」


「俺は?」

徐庶が問う。


「君は、最も重要な『荷物』だ」

向朗は言った。


「酒樽の中に隠れるか、あるいは台車の下か。……とにかく、僕たちが中枢まで君を運ぶ。君はそこで、最も鋭利な凶器となってくれ」


「……だが」

郭嘉が口を挟んだ。

「ただ入るだけじゃ足りない。」


郭嘉は、屋敷の警備隊長・牛鉄ぎゅうてつの名を挙げた。


「この男、腕は立つが、融通が利かない堅物だそうだ。賈仁は彼を頼りにしているが、同時にその潔癖さを煙たがってもいる。……宴席に来る賊どもも賈仁の駒ではない、ただ共生している狗だ。そして、賈仁を倒したいのは、別に君等だけではないよ。盤面の外にも、多くの駒があるんだ」


郭嘉の声が、低く、甘く囁く。


「君たちが一石を投じるだけで、疑心暗鬼という火種が爆発する。……他の連中も、勝手に動き出すかもしれないね」


向朗は息を呑んだ。

この男は、賈仁一人を殺すだけでは満足していない。この状況そのものを、盤面ごとひっくり返そうとしている。


4.共犯の契約


夜明けが近づいていた。


書庫の窓から、白々とした光が差し込み、埃をキラキラと照らしている。

計画は決まった。

それは、学生の一線を完全に越え、謀略と殺戮の世界へと足を踏み入れることを意味していた。

郭嘉は、空になった瓢箪を振り、楽しそうに問うた。


「さあ、どうする?このプランなら、勝率は五割まで上がる。……ただし、失敗すれば全員、さらし首だ。今ならまだ、優等生のままでいられるよ?」


四人の若者は、互いの顔を見合わせた。

恐怖はある。だが、それ以上に、閉ざされていた壁に風穴が開いたという高揚感があった。

向朗は眼鏡を押し上げ、震える手を隠して頷いた。


「……計算は合った。やるしかない。僕たちの目的は、正義の証明じゃない。結果を出すことだ」


石韜と孟建も、無言で頷く。彼らの目にも、覚悟の火が灯っていた。

最後に、徐庶が郭嘉を睨みつけた。


「お前が面白がっていようが、俺たちを利用しようが関係ねえ。……使えるものは何でも使う。悪魔でもな。柳安のためなら、俺は地獄へだって落ちてやる」


「地獄か。……いいねぇ、ぞくぞくするよ」

郭嘉は愉快そうに笑った。


「安心しなよ。地獄への道案内なら、僕が一番詳しい」

こうして、契約は結ばれた。


「義」に燃える四人の若者と、「興」に酔う一人の奇才。

水と油のような彼らが手を組んだ時、難攻不落と思われた「空城」は、砂上の楼閣へと変わった。

四人が準備のために部屋を出て行った後、一人残った郭嘉は、書庫の暗がりで呟いた。


「……『義』か。青臭くて、非合理的で、美しいねぇ」

彼は、徐庶たちが忘れていった書き損じの図面を拾い上げ、指先でくしゃりと握りつぶした。


「せいぜい僕を楽しませてくれよ、未来の英雄たち。……君たちが起こす風が、この腐った時代を燃やし尽くす劫火になることを、期待しているよ」


郭嘉の独り言は、誰にも聞かれることなく、夜明けの光の中に溶けていった。


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