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小柄な忍者だった。まだ子どもだ。
いや、ガソリンスタンドの水屋が初めて会ったときは子どもだった。
いまでは数年はかからないと会得できない精悍さをしっかりものにしていた。
旅は最良の教師にして、水の世界へ企てられるひとつのギャンブルだ。
「必要なもんは見つかったかい?」
「うむ。しっかり見つかった」
「旅は終わりってわけだ」
「左様。得たものは多かった」
「そういう顔をしている」
では、さらば、といって、また地雷原をしゅたたたた!と走る影丸の背には鏡を入れた袋が忍び刀を抜くのに邪魔にならないよう考えられた位置で背負われていた。
だが、得たものは鏡だけではない――。
レンとチアキ、それにアカネはあの海辺の町に残った。
たぶん、あそこが世界で一番素晴らしい場所だからだ。
レンはタイラ・ミナモト製作所に働くことにした。
そこで機関銃の整備と改造をする――と見せかけて、かっとび火の玉のリバイバルを企むことにしたらしい。チアキとアカネ、そしてもちろん影丸は残り少ない全人類の発展と福祉、そして何より生命の危機を回避するためにふたりの老人にレンの雇用をやめるように言ったが、レンを雇用することによって昔取った杵柄で車両改造でたまったツケを回収してやろうともくろんでいるようだ。
チアキとアカネはひとつ屋根の下、一緒に住むことになった。
チアキは町の住人が出かけるときの護衛をするようになり、アカネは〈ばにい・がある〉と方言女子の需要がある料理屋で給仕娘をしている。チアキはアカネが〈ばにい・がある〉の姿で人の眼に見られることを少々嫌がっていたが、この〈ばにい・がある〉は長手甲に兵児帯、それに脇差と刀の二本差しをしているから、チアキの思っているようなことはまず起こることはないだろう。
小さなキャンプをいくつか経由して、食べ物と水を切らさないよう注意しながら、〈しぇるたー〉へと近づいていくと、これを機に見習いの文字が取れるかもしれないと楽観的なことをあれこれ考え、いまもなお、彼を導く光の道相手に正式な忍者になったら、なおいっそう励んで姫にお仕え申し上げますなどと深々と頭を下げたりした。
さて、世にあまねく知られた〈しぇるたー〉というものは地下深く潜る際につくられる。世界を二分する大国が核を撃ち合って人類は絶滅するという強迫観念にさらされた生存原理主義者が大量のビスケットとトマト缶詰と水と将棋と詰将棋全集と称する全四巻の書物と一緒にこの〈しぇるたー〉で核をかわそうとしたわけだが、地質のいたずらでこの〈しぇるたー〉は砂深く埋まったかと思ったら、今度は地表まで浮き上がり、丸い扉が占星術士みたいに空を斜めに見上げてしまうことになった。
さて、この直径三メートルを超える丸い扉の右下にはプレートがあり、『誰かが閉じ込められたら、タイラ・ミナモト製作所までご連絡ください』という文字の下に四桁の電話番号があり、そして、タイラ老人がくれた鍵がしっかり刺さっていた。
影丸はせっかくだからと、それを外し、自分がもらってきたほうの鍵を刺し、カチンと鳴るまで、右にまわした。
金庫の扉が開き、影丸は姫と再会すべく〈しぇるたー〉へと足を踏み入れたとき、ざらざらした声が影丸に話しかけた。
「おいで」




