38.第1回戦第一試合
「号外〜!号外だよ〜!」
「チケットあるよー。チケット買うよー。」
「ビールに串カツ。焼きそばいかがっすかー!」
「どの王子に賭けるよ?」
「順当に第1王子じゃね?守護者は騎士団長ベルダーガ様だろ?その剣速は最早ハビュレット様を超えるともっぱら評判だ!」
「第2王子の守護者近衛騎士長のブラスト様が対抗かねぇ?やっぱ兄弟生まれの順で守護者に忖度あるよなぁ。」
「第3、第5王子はまだ発表されてないなぁ。守護者。まだ決め兼ねてる感じかねぇ?」
「てか第6王子と王女様の守護者誰だコレ?聞いたことないんだが?」
「大番狂わせか?賑やかしか?まあ、オッズは高いから賭けてみたらどうだ?」
「やなこった。オレは手堅く第1王子にするぜ!」
早朝から王都アバンティア郊外のコロッセオ周辺は活気に満ちていた。昨日の今日だというのに王の退位、王位継承戦の情報は王都中に広まっており
おそらく昨日会場にいた貴族や大商人が一儲けしようと画策したのだろう。会場では観戦チケット販売、王子や守護者のグッズ販売。露店やトトカルチョなどに人々が群がっていた。
コロッセオ闘技場では既に王や王子達が集まっていた。
「公正なるくじ引きの結果トーナメントはこのように決まりました。精霊王様。宜しいか?」
『イイねぇ!オラわくわくすっぞ!』
王様の肩にナニカ謎の小動物が乗っていた。
イタチ?のような白いのがなんだかワクテカしてた。
コイツが『風の精霊王』らしい。
(元)王様は失礼の無いようにと精霊王召喚前に前振りしていたが出てきた精霊王のあまりのショボさにいつも通りのおいしいリアクションをとったエアルが高度何千メートルか上空まで風魔法で吹き飛ばされてからは皆んなこの生き物を精霊王と認めて大人の対応をしだした。
ちなみにエアルはそのまま地面に落下して綺麗な人型の穴を空けたが『ふんばり』スキルのおかげで先程なんとか息を吹き返した。
結局、王の予想通り、精霊王は次代の王と勇者の選定を一番強えヤツを眷属にする!と脳筋宣言した為、トーナメント形式で勝ったヤツが次の王と勇者ということになった。
コレは歴代アバンティア王を決める際の恒例らしく
戦闘民族みたいな性格の精霊王の趣味で毎度やらされるらしい。
前回も同じ様にトーナメントが行われ勝ち上がった
若き日の前王とハビュレットが王と勇者に選定されたそうな。
会場に貼り出された
トーナメント表は以下の通りとなった。
第1回戦
第一試合
第1王子vs第3王子
第二試合
第5王子vs第6王子
第三試合
第2王子vs王女
敗者復活戦
第1回戦敗者3名によるバトルロワイヤル
準決勝①
第一試合勝者vs第二試合勝者
準決勝②
第三試合勝者vs敗者復活戦勝者
そして決勝へ
…へぇ人数的に敗者復活戦もやるのか。
確かにちょっとわくわくしてきた。
それからコロッセオが開場し観客席はキャパ以上の観客動員数となっていた。
「では、まず第1回戦第一試合の試合形式について協議する。各王子は闘技場中央へ」
第1王子、第3王子が舞台中央に向かっていった。
この王位継承戦の細かいルール、レギュレーションは精霊王からは特に定められていない。
精霊王はただ「オラ強えヤツのバトルが観てぇゾ!」ってだけしか言っていないので守護者同士でのシングルマッチなのか王と守護者のタッグマッチなのかとか使用禁止のスキル、魔法、武器、アイテム等や敗北条件は何か?などをあとで揉めないよう各試合前にまず対戦する王子•姫同士でルール、レギュを取り決める。
その試合毎に定められたルール、レギュのもと審判は前王と精霊王が行う。
「第1回戦第1試合。守護者シングルマッチ!武器・魔法・アイテム使用禁止!敗北条件はオール!」
(元)王様の審判から会場に響き渡る様、拡声魔道具を通してルール、レギュが発表、宣言された。
各種ルール、レギュレーションは両者の同意か両者の主張が食い違いお互い譲らない場合はジャンケンで決定する。
今回の第1試合は王子達は試合に参加しないようだ。王子本人が強い場合は有利に試合を運ぶ為、タッグマッチ形式を望む場合もある。
スキル以外使用禁止か。コレは第3王子の主張が通ったのだろう。協議途中ジャンケンしてガッツポーズしてたし。
…自分の守護者の特性、戦闘スタイルに合わせて有利なルールを選定したのだと考えられる。
武器無しって事は第3王子の守護者は素手での戦闘が得意な格闘タイプなのだろう。
このレギュ決めの盤外戦で試合戦略にけっこう優劣付くな。王子同士の知略も試される訳だ。
敗北条件オールは降参、場外、行動不能、死亡、消息不明のいずれも敗北の条件として適用されることを指す。
敗北条件を決める事のキモは殺しちゃダメってルールを適用するかどうかだが今回は殺しもありありレギュとするらしい。
「では!各守護者前へ!」
前王の掛け声で東西の鉄門が開きそれぞれの守護者が舞台中央へ向かっていく。
わあぁあああ!
満員御礼の大歓声が響くなか、両端からゆっくりとその歩みを進める守護者2名その全貌が明らかとなった。
ざわ…ざわ
第1王子側の入場口から出てきたひとりの男に多くの観客は「誰?」というハテナ顔をして困惑していた。
「お、おい!騎士団長じゃねーぞ?第1王子の守護者!」
「誰だ?ベルダーガ様はどうした?」
「は、話しが違う。オレこの試合全額第1王子にぶっ込んじまったぞ?」
「お、オレも!」
「クソ!オレもだ!」
ざわ…ざわ
対する第3王子側の控え室から出てきた大男にも逆サイドの観客達がドヨめいていた。
まず第1王子側から出てきた守護者の倍はあろうかという巨体。そして全身を鎖や手錠、足枷で拘束され頭はずた袋で覆われているという異形な出で立ち。
目隠しされたソイツを痩せこけた第3王子マクツが手錠から伸びた鎖を使い距離を取りながらその拘束されたソイツから目を離さないよう脂汗を掻きながら慎重に誘導していた。
動きを封じられているというのにその大男は禍々しい殺気を周囲に放ちながらゆっくりとマクツの誘導に従い闘技場へと悠然と歩いていた。
「第3王子の守護者、事前発表が無かったが、…なんだ?アレは?…化け物か?」
「クソ!第3王子に賭けておくべきだった!」
「こんなのやる前から結果が明らかじゃねーか!」
そして両者が闘技場の中央に並び向かい合った。
第3王子が『開錠』の魔法を使い己の守護者を拘束していた全ての枷を解き放った。
ゴトリッと重そうな枷が地面に落ち大男はその肩を大きく回した。第3王子はその貧相な見た目通りの声でヒィィと小さく叫び舞台から逃げるように場外に離れていった。
「それでは両者、準備は良いか?」
「・・・。
「・・・。
前王の確認に両者は沈黙で答えた。
その大男はその視界を奪っていた顔を覆うずた袋を自ら外し、これから殺し合う相手の姿を確認した。
その瞬間前王は鬨の声を上げた。
「ヨシ!では…王位継承戦第1試合、始めぇぇぃ!!!!」
大男は微動だにしなかった。
第1王子の守護者はニヤニヤしながら大男に声をかけた。
「よう。バイパー。…じゃあ50回目だな。」
オレは大男の顔を下から覗き込み楽しそうに笑った。