39.それぞれの恩赦
ーBefore Viper side ー
『恩赦』この話しを受けた理由はソレだった。
オレは結局処刑までには至らなかったが
これからの生涯を終えるまで檻の中で過ごすことになった。
生と死を繰り返し与えられたあの日。
唯、生きることへの赦しを得る為、これまでの罪の一切合切を吐き出しここアバンティア監獄に収容された。
…ここでの暮らしは想像以上に酷いものだった。
オレ程のLVの収監者は滅多に居なかったようで扱いに手が余った看守達はオレを独房にブチ込んだ。
オレはそれからというものチカラもスキルも魔法も封じる拘束具を常に体に着けられ、餌みたいなメシも朝晩2食ほんの申し訳程度の量を口に流し込まれる生活を強いられた。
身動きも取れず視界も喋ることも封じられて、オレは何故こんな状態で生かされてなければならないのか?何故こんな『生』を望んだのか?
まだたった数日しか経っていないのにただソレだけを考えるようになっていた。
…そんな日々の中、昨晩、久しぶりに人間の声を聞いた。
この国の第3王子であった。
「バイパーよ。ここから出たくはないか?…余の守護者となり、共に王道を歩まぬか?」
オレは是非も無くその声に縋った。
オレは既にあの時に味わった死の恐怖を忘れていた。
ーBefore Light side ー
『恩赦』この話しを受けた理由はソレだった。
エアルが急に土下座しオレに守護者となって欲しいと頼んできた。
「なんで?お前王様になりたかったの?」
オレはその動機を訪ねると
エアルは床に伏せた顔を上げその理由を説明しだした。
なんでもエアルには生まれる前から親同士が決めた許婚がいるらしく17歳となる来月には結婚させられるらしい。
相手は遥か北の果ての大陸にあるマンタレイ帝国の皇子らしいが生まれてから一度も見たこともない許婚との結婚など考えられないし、そもそもまだ結婚なんかしたく無いのだと言う。
そしてその結婚を反故にするには自分が王になる事以外に方法が無いのだと訴えてきた。
「ふーん。お前の動機はわかったけどオレが守護者をやるメリットが無いんだが?」
そう、メリットが無い。
通常ならまず迷い無く飛びつく高性能職業取得イベだが今のオレは『勇者』になったところでステータス全部MAXだし『勇者』が覚えるスキルすらも全て習得済みなのだ。残念ながら俺チート野郎なので。
変化点は職業欄が『無職』から『勇者』になるくらいか。
「では『恩赦』ではどうだ?」
「!?」
第1王子がいつの間にやらひょっこり現れた。
「ライト君だったか?この命、救ってくれて感謝する。」
「…あ、ああ。」
「まだ礼を言ってないのを思い出してね。こうして戻ってきたら何だか面白そうな話しが聞こえてね?私も参加しても良いかな?…君の争奪戦に」
「お兄様は来ちゃらめぇー!」とかエアルが言っていたがオレは無視して話しの先を促した。
「で?『恩赦』って?」
「ああ、コレ。そちらのお嬢さんだろう?コレの手配を取り下げる。…私の守護者になって貰う条件で。」
「「!?」」
ニールセン王子が取り出したのは姉御討伐手配書だった。
「冒険者ギルドや騎士団に手を回せる権限があるのは王子達の中でも私しかいない。勿論そこにいるアホの妹には絶対出来ない…。というかエアル。お前が王になるだと?国が滅ぶからまず参加を辞退しろ。そして大人しく国の為に嫁に行け!」
「お兄様!急に出て来てヒドい!ズルい!らいとくんは私の守護者なの!取らないで!帰って!シッシッ!ほれ!」
エアルは涙目で必死になって兄貴を追い払おうとしていた。
「…で、エアルお前の守護者になるメリットは?
なんかないのか?」
何だか可哀想なのでエアルにもう一度チャンスを与えてみた。なんかしらのメリットが少しでもあれば、まあ知らない仲でもないので第1王子の申し出を断りコイツの守護者をやってやろうと思っていた。
「えー。そーね。あっ!
…アタシの守護者になってくれたらぁ
…アタシのカラダをア・ゲ・ル♡
…きゃ♡なんつて」
「「・・・」」
なんかモジモジと悶えとるエアルを見限って
無言でオレは第1王子と契約の握手をした。
ーAnd Nowー
そんな経緯で守護者として対峙する2人は
試合開始の合図から暫くたったがお互い見合ったまま場は膠着していた。
な、ななな、何がどうなってやがる!?
久しぶりの視界にはこの世でもう2度と出会いたくない存在があのニヤニヤした薄ら笑いをしながらオレの目の前にいた。
「いつまで固まってんだ?サッサと攻撃しろよ!」
「何で動かないんだ?あのデカいの?第1王子の守護者は近寄って話しかけてるし?何やってるんだ?」
「ええい!バイパー!何をしておる!動け!戦え!また監獄に戻りたいのか!?」
「守護者バイパー!試合始まっておるのだぞ!敗北条件はオール!…聞いておるのか?」
ブーーーー!ブーーーー!
「バイパー、降参しろよ?今回は生き返らせないかもよ?ん?それともまた殴りっこする?ん?」
「・・かはっ」
観客がいつまでも動かないオレに
第3王子がオレに
近くにいる偉そうなジジイがオレに
あのガキが脅すようにオレに
動け、戦え、降参しろよとオレの行動を急かしているが…
「・・・はひゅぅぅ
…こ、声が出ねぇえ!
刻み込まれた恐怖が声を出すのもカラダを動かすのも拒絶してるんですぅぅうう!!!
ハッハグぅぅ!てかさっきから呼吸も出来てねぇし、
し、死っぬ…。
「…まあ、いっか。つまんねぇから魅せプで
1発貰ってから派手に終わらせようと思ったが。
じゃあな。バイパー。派手に逝けや。」
待ちぼうけして全く動かないオレから離れ闘技場を暇そうにウロウロしていたアイツが
動きを止め
拳をパンと手のひらで叩き
こちらに向き直り
そう言うと
一歩足を前に動かしたところで
…姿が消えた。
ライト:『スキル』⇒『究極拳法殺獄破』
ひ、ひ、ひ、ひぎぃぃぃぃぃいい!
もうあのガキはオレの目の前にいた。
オレとの身長差で潜り込むような格好で
…な、なんだこの闘気は!?
見たこともない7色の闘気色を全身に纏ったソイツが
ソイツを中心に闘技場を円状に大きく陥没させ
その蓄えたチカラを解放しようと
拳を引き絞りながら
またオレの頭部を顔面を狙って
その拳を放った!
ま、待て待て待てまってくれぇぇぇぇぇええ!!!
降参!降参だぁぁああ!
降参するからぁぁぁ待ってくれぇぇえっ
「・・こっ!」
カラカラの肺から絞り出した空気はやはり言葉にならず
その放たれた拳はあとはもうオレの頭部を粉々にするだけだった。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
オレはついこの間49回この感覚を体験している
体感的に死の直前がスローモーションのように感じる現象。この感覚に陥ったが最後。呆気なくただ死ヌ。
このクソガキはまたオレを生き返らせるのか!?
生き返らせないのか!?
迫り来る拳。
…助け て
パン
ズドゴヲォォォォォォォオオオオオォオオオ・・
乾いた破裂音が響いた直後
物凄い衝撃音が会場に響いた!
観客席前には魔法やスキル、ファールボールなどの攻撃が通過しないよう魔道具によるドーム状のバリアーが張られているがそのバリアーが軋みパキパキといつ壊れてもおかしくないような悲鳴を上げていた!
パキッパキィィン・・
ガラスが割れるようにバリアーが半分崩壊し
ようやくライトが放った衝撃はおさまった。
観客達は沈黙していた。そのキラキラと降り注ぐバリアーの破片を呆然と眺めながら。
事実バリアーが無ければここにいる観客の半数は死んでいた。それ程のスキル攻撃だった。
…だがそれを片手で止めるとは。
バイパーは無傷だった。
頭もちゃんとそこにはあった。
「そこまで!勝者!第1王子守護者『ライト』!!」
前王が勝者の名を高らかに宣言した。
オレの拳を止めたのは真っ白な女であった。
「…精霊王?…か?お前…敗北条件はどうした?
バイパーは死んでないぞ?」
「オウ!コイツは既に敗北宣言していたかんな。
…心の声で。だからその時点でお前の勝ちだゾ!」
この女がさっきの白イタチが人化した姿だと
喋ったことで確信出来た。
「オメェ強えなぁ!オラといっちょ闘ってみねぇかぁ?オラわくわくすっぞ!」
「…いや、あんま絡むとほんとダメそうなんで。
辞めときます。」
オレは王位継承戦一回戦を勝利し、絡んできた戦闘民族をソッと躱し控え室に帰っていった。




