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メイナードの秘密

 メイナードは真剣な表情で、エリシアに秘密を語った。




 メイナードが生まれた時、国中はお祭り騒ぎとなった。待望の王の子供が、王子だったからだ。お世継ぎの誕生だと、メイナードは大切に育てられた。

 最初の発見者は、メイナードの魔法の教師だった。子供に対する魔法教育は、大抵座学はそこそこに、実際にやってみるところから始まる。感覚をつかむことが大切なのだ。しかし、メイナードはいつまで経っても、簡単な魔法すら使うことができなかった。

 心配した両親が医者を呼び、メイナードの体内には一切の魔力がないことが分かった。ハウルランド王国に生まれるものは、その差はあれど、皆体内に魔力を宿して生まれる。しかし、極まれに一切の魔力を持たないで生まれ落ちるものがいた。その極まれに、メイナードは当たってしまったのだ。

 ハウルランド王国の王は、折々の行事の中で魔法を使う。魔法が使えないメイナードは、幼いながらに、自分は王になれないのではないかと思った。


 ちょうどその頃、王妃の懐妊が分かった。生まれた子は王子で、メイナードは父と母がホッとする顔を見てしまった。

 メイナードが魔法を使えないと分かっても、王と王妃は態度を変えなかったし、弟のトーマスを王太子にするとは言わなかった。それどころか、行事の内容を変え、メイナードが魔法を使わなくて済むようにしようとした。しかし、メイナードはどうしても両親のホッとした顔が忘れられずに、トーマスが魔法が使えるようになるとすぐに、王位継承権を放棄した。


 メイナードは自分に魔力がないと分かっても、魔法について勉強することを止めなかった。魔法に対する憧れの気持ちもあったのかもしれないし、もしかしたらかすかでも自分の体の中に魔力があるのではないか、という希望を捨てきれなかったのかもしれない。

 その中で見つけたのが、他人の魔力を使って魔法を使う、という特技だった。前例がなかったので、恐らく自分の魔力がないが故にできる特技だろうと思い、邪推されないためにも他言はせずに、家族やサイラスに伝えるだけにした。

 そんなある日、魔法に反応するという魔力虫を使い、サイラスの魔力を使って魔法を使ってみることにした。魔力虫はメイナードの魔法に引き寄せられるはずだったが、魔法虫が引き寄せられたのは魔力の持ち主であるサイラスだった。調査の結果、魔力虫が魔法ではなく動物の体内にある見えない魔力自体に引き寄せられることが分かったが、それは同時にメイナードにかすかにも魔力がなかったことを示していた。


 諦めるようにメイナードは調査の成果を持って、魔法研究センターの所長という座を掴んだ。その姿は、国民から変人王子として映ったようだが。




 メイナードの悲しそうな横顔を見ながら、エリシアは彼が語った想像もしなかった話を何とか理解しようとしていた。

 誰よりも魔法について詳しく、誰よりも魔法に対する熱意のあるメイナードが、魔法を使えないという事実は、悲劇のように思えた。


「秘密にしていてすまなかった」

「いえ、話して頂けて嬉しいです」


 エリシアのベッドに並んで腰かけ、2人は話していた。夜も大分遅いようだが、誰もそれを咎めるものはいない。

 エリシアはためらいがちに、ベッドに置かれたメイナードの手を握った。


「だからトーマス殿下が王太子なのですね」

「そうだ、今は政治を取り仕切り始めた弟を見て、これで良かったと心から思っている。それに王太子のままだったら、エリシアにもきっと出会えてなかった」


 メイナードの言葉にエリシアが首を傾げた。


「でも、そもそもメイナード様のお年と、王子という立場を考えると、王太子でなくても私と出会ったのは奇跡のように思います」


 エリシアの言う通り、通常貴族は成人を迎える18歳までには婚約をするし、成人してすぐに結婚することも珍しくない。それなのに、26歳まで王子でありながら結婚をしていないメイナードと、通常王族の婚約者として名前が上がるとは思えない、伯爵令嬢のエリシアが出会ったのは奇跡のようなことであった。


「結婚をしていないのも、魔力がないことが関係している。エリシアは王族の婚姻の儀式を知っているか? 最近若い貴族たちの間でも流行っているそうだから、聞いたことがあるかもしれない」


 メイナードの言葉に、エリシアは少し考えてみたが、そもそも普通の貴族の結婚式すらよく知らなかったので、首を振る。


「変なことを知っているかと思えば、流行は知らないのだな」


 メイナードが面白そうに笑う。エリシアはからかわれたような気がして、頬を膨らましたくなったが、メイナードの笑顔を見たのが久しぶりな気がして、止めておいた。


「王族の結婚式では、夫婦の変わらぬ愛情を誓うために、エリシアが今日作ったような光をお互いに魔法で作りだすんだ」


 エリシアは、メイナードの言葉にハッとする。つまり、魔力がないメイナードでは王族の婚姻の儀式を行えないのだ。


「でも、でも他人の魔力が使えますよね? 新婦の魔力を一時的に借りればいいのでは?」


 儀式として、もしかしたら問題はあるかもしれないが、見た目上はそれで問題ないはずである。参列者にはメイナードが魔力を持たないことは気が付かれないだろう。


「しかし、魔力を借りる新婦には知られる」

「ええ、それに問題があるのですか?」

「俺がエリシアとなら結婚できると思ったのは、きっとエリシアならそう言うからだろうな。大抵のご令嬢とそのバックにいる貴族は、魔法が使えないなどという弱みを握ったら、ただでは済まさないよ。トーマスにも父上、母上にも迷惑をかける」


 メイナードが苦笑しながら言うので、エリシアは自分の浅はかな考えを恥じた。メイナードも既にどうにかできないか、散々考えた後のはずだ。メイナードは自分に魔力がないことで、沢山のことを諦め、それを隠して生きてきたのだから。


「私は、弱みを握ったなどと思いませんし、メイナード様に魔力がなくてもいいです。私に沢山ありますから、結婚式の儀式だってできます」

「エリシア……」

「だから、そんな悲しい顔しないで」


 エリシアはそのまま隣に座っていたメイナードの背中に腕を回した。こうしてエリシアからメイナードに抱き着くのは初めてのことだったので、彼女の顔を真っ赤だ。それでも、メイナードを悲しませないために、エリシアは精一杯腕に力を込めて、メイナードを抱きしめた。

 不意に、メイナードが身を捩るようにして、エリシアとの間に距離を作る。


「メイナード様」


 メイナードの顔は、少し困ったような、嬉しさをにじませたような顔だ。

 何か考えるように視線を彷徨わせた後、決意したようにエリシアに向き直る。


「エリシア、ありがとう。改めて、俺と結婚してくれるか?」

「契約ではなく、ですか?」

「もちろん」


 メイナードが悪人面で笑う。


「はい、よろしくお願いいたします」


 待ちわびていた言葉に、エリシアは輝くような笑顔で答えた。




 後日、今まで詳細が伏せられていた変人王子、メイナードの結婚について、国から正式な発表がなされた。優しく、素晴らしい魔力持ち主であるエリシア・ウッドウィルの成人を待って、結婚の儀式が執り行われるということである。

 王子の婚約者が伯爵令嬢という異例の発表だったが、エリシアの魔法をパーティー会場で直に見ていた国内の有力貴族たちは、誰も異を唱えなかったそうだ。


 エリシアは今日も魔法の練習を行う。


「エリシア、結婚式までに持っている魔力をすべて自在に操れるようになっておこう」

「あと、えーと1年ちょっとですよね……」

「エリシアなら大丈夫だ」

「あ、耳元で話さないでください!」


 室内がまた光魔法で覆い尽くされ、それを見たメイナードが嬉しそうに笑った。

続き投稿予定でしたが、更新も空いてしまったので、完結とさせていただきます。

※あとがきを変更しております。

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