第6話 召喚魔法と神獣
朝食を食べ終え、僕は書庫へ向かった。
我が家は、公爵家ということもあり屋敷が広い。そのため部屋もかなり多いし、庭も広い。風呂も大理石でできた大浴場だし、使用人一人一人の部屋もあり、庭にはテニスコートやプール、大きめの池などもある。
そんな屋敷の部屋の一つに他の部屋より格段に広い部屋がある。舞踏会場並の。その部屋が書庫だ。この部屋には、約10万冊が所蔵されている。うちのお金はかなりの額ここにつぎ込まれているのだろう。今日ここへ来た目的は、この中にあるこの世界の歴史や文化、魔法、常識について調べるためだ。
ゼウス様は、魔法は少し遅れているだけといっていたが、どのくらい遅れているのか。後で誰かに、魔法を見せてもらうのもいいかもしれないな。歴史や文化、常識については、しっかりと調べる必要があるだろう。今までの知識は役に立たないだろうしなぁ...
10万冊の本の中から、探すのは大変かと思い、ある魔法を使用することにした。
僕は庭に出て、誰もいないことを確認し、地面に直径5ⅿ程の魔法陣を描いた。
「古より、この地を守護する獣よ、我が名はライル、今ここに、我の喚び出しに応じ、我が従魔となれ、闇の霧を払いて、獣神の界より顕現せよ 二十五段魔法〘特級召喚〙」
これは、前々世で僕が知った【召喚魔法】の中で一番クラスの高い魔法だ。【召喚魔法】にはクラスがあり、初級、中級、上級、特級の順に、だんだん位の高い召喚獣を喚び出すことが可能となるらしい。そこで、一番クラスの高い特級を試してみることにした。伝説では、特級の【召喚魔法】では、霊獣と呼ばれる特別な獣を召喚できるらしいのだが...
先程描いた魔法陣には紫色の霧が出ていて、だんだんそれが薄れていくと、そこには...白い虎がいた。その虎はこちらに気付くと、
「我を喚び出したのは、お主か。」
その虎は落ち着いた声で、こちらを見下げながら尋ねてきた。この虎は大人の目から見ても大きいだろう。なので、2歳の僕からするとかなりでかい。体長が3ⅿくらいはありそうな大きな虎を目の前にしているので、普段の僕なら怯えていたかもしれないが、〖恐怖耐性Ⅹ〗を取得している今は何ともなかった。
「そうだよ。君は白虎かな?」
「あぁ、いかにも。我は神獣である四神の1体で、西方を守護する白虎だ。だが、お主はまだ幼いであろう。我を召喚する時の魔力はどうしたのだ?」
「あぁ、それなら問題ない。僕はこう見えても、かなりのMPを持っている。君を喚び出すくらいなんともないよ。それに、君を呼び出した時に消費したMPも、もう回復を始めているしね。」
「ほぅ。それは興味深い。我を喚び出すためには、膨大な魔力が必要のはず。お主のような小童が、そこまでの魔力を持っているとは思えん。「なんともない」とまで言うのであれば、お主が我の主にふさわしいか試してやろう。」
「何でも来い。」
そこまで話すと、白虎は後ろへ飛び下がり、戦闘態勢に入った。
「お主には、今から我と勝負してもらう。我を戦闘不能にするか、我に降参させればお主の勝ちとする。お主を主と認め、従おう。」
「僕が負けた場合は?」
「我は獣神界へ還るのみ。お主とはもう会うこともなかろうよ。」
「わかった。どんな攻撃でもいいのか?」
「あぁ、それと、先制攻撃はお主がするとよい。そうでもしないと面白くないだろうからな。」
「その言葉、後悔させてやる。」
ルールを確認し終え、僕も戦闘態勢に入った。本当に神獣を召喚できるとは思ってなかったから、まだドキドキしている。でも、戦闘に集中しないとな。相手は仮にも神獣。本人もかなり自信があるようだし...
「じゃあ、行くぞ。」
「あぁ、どこからでも来い。」
僕は、とりあえず小手調べに、初級魔法を放ってみた。
「風よ、我が前に集いて槍と化し、敵を貫け 五段魔法〘風槍〙」
そう唱えると、風が吹き、空気で作られた槍が、白虎めがけて飛んで行った。
「こんな初級魔法が我に通用すると思うておるのか。」
そう言うと、白虎は爪を立て、風槍が届くのと同時に、
「〖爪刃拳Ⅶ〗」
風槍は白虎の目の前で消えた。切り裂かれたのだ。
なるほど...そんなスキルを持っているのか。厄介だな。
「この程度なのか。次はこちらから行くぞ。〖加速Ⅷ〗」
すると、白虎はこちらに猛スピードで走ってきた。瞬時に僕の目の前まで迫ってくる。そして、僕に思いっきり体当たりしようとしてきた。
「速い。だが、「大地よ、我が前に壁を成し、我を守れ 七段魔法〘大地壁〙」」
「何!?」
白虎は僕の前に現れた土の壁に激突した。
「まさか、三属性持ちとはな。しかし、〖攻撃力上昇Ⅹ〗〖加速Ⅷ〗」
「先ほどより威力を上げたか。なら、「雷よ、我が前に柵を成し、触れる者に電撃を食らわせよ 九段魔法〘雷柵〙」」
白虎はまたしてもスピードを抑えきれず、今度は雷の柵にぶつかった。バチッ、ビリッ
「うぉ。四属性目、やるな。だが、この程度...」
「闇よ、炎よ、我が前に集い、一つと成りて、敵を撃て 十二段魔法〘暗黒猛炎〙」
「オッ、おい。いったいいくつ適性持っているのだ。さすがにこの後も耐えきる自信はないな...まさかこの時代にこれ程の適正持ちがいたとは。」
ボォォォォ
赤黒い炎が白虎を囲み燃え上っていた。
そのせいで、白虎が最後に言った言葉は僕の耳には届かなかった。
暫くして、炎が消えると白虎が降参した。
「我の負けだ。降参しよう。まさか、これほどの力を持つ人の子がいるとはな。」
「よかった。で、君と契約するためには、名前を決めるんだっけ?」
「その通りだ。いい名をつけてくれよ。」
そうだなぁ...でも、僕名前とかあんまり考えたことなんだよな。あっ、そうだ。
「なぁ、天蝎っていうのはどうだ。」
「天蝎、いい名だと思います。ありがとうございます。」
しゃべり方が変わった。名前を付けて契約が終わったからか。
ちなみに、なぜ天蝎にしたかというと、白虎は俳句で、秋の季語の白帝と同義で、秋の象徴。だから、12星座の期間が秋のさそり座(10/24~11/22)の十二宮、天蝎宮からとった。前世での知識をここで初めて使ったな。蝎はサソリだけどまぁいいよね。この世界に漢字があるわけでもないし。
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「さぁ、契約も終わったことだし、さっそく働いてもらっていいかなぁ。」
「はい。しかし主、疲れてはいないのですか。」
「あぁ、HPもMPももうすぐ全快するし。天蝎こそ大丈夫?」
「はい。問題ありません。ところで、私は何をすればよいので?」
「あぁ、それは...」
しまった。もともと本探しをするために召喚したけど、神獣をそんな風に使っていいのかな。
「なぁ、雑用でもいいかな?」
「えぇ、問題ありません。私は主の従魔なのですから。何なりとお申し付けください。」
「じゃあ、とりあえずついて来て。」
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「この中から、特定の本を探すのを手伝ってほしいんだけど...いい?」
「えぇ、私は構いませんが、時間がかかると思いますよ。」
「そうなんだよ。何かいい方法はないかな。」
「ならば、他にも従魔を召喚されては、いかがですか。」
「なるほど。沢山いたほうが早そうだな。なんで気付かなかったんだろう。」
僕は、天蝎を書庫に連れてきて、やってほしいことを言うと、天蝎は良い案を出してくれた。そこで、また庭に出て、魔法陣を描き、唱えた。
「古より、鳥類を統べし獣よ、我が名はライル、今ここに、我の喚び出しに応じ、我が従魔となれ、闇の霧を払いて、瑞獣の界より顕現せよ 二十五段魔法〘特級召喚〙」
霧が晴れると、目の前には、体長3ⅿくらいの頭は錦鶏、胴体は鴛鴦、尾は孔雀、足は鶴、嘴はオウム、翼は燕で、五色絢爛な色彩の鳥がいた。
「私を喚び出したのはあなたですか。」