第24話 出立と遭遇
「竜の息吹亭」に戻る頃には、辺りもすっかり暗くなっていた。夕食の準備ができていたようなので、丁度お腹も空いていたこともあり、帰宿後そのままダイニングへと向かい、夕食を頂くことにした。
流石は銀貨3枚もする宿屋だけあって、ダイニングも広い。この宿屋に宿泊中の客の大半が一度に食事できる程に、多くの席が設けられている。その席も塵一つなく清潔にされており、来る客に不快感を覚えさせない。このダイニングだけでも多くの洗練された従業員が雇われているのだろう。
料理はエイヴィスティン王国のコース料理で、先付けから始まり、前菜、パン、スープ、肉料理、サラダ、デザート、ドリンクだ。内陸国であるエイヴィスティン王国で魚料理が出ることは滅多にない。
湖や川のある地域ではそれなりに出るようだが、僕の家があるアドルクス領には小さな川があるだけだったので、川魚程度しか食べたことがない。それも頻度が少なかったので、前世を日本で過ごした僕としては、よく魚料理、特に刺身や寿司を食べたくなったものだ。
そもそもエイヴィスティン王国ではナイフ・フォーク食が一般的なので、箸食はあまり浸透していない。そのため箸を扱える人間自体あまり多くないのが現状だ。
しかし、家は公爵家だったこともあって、会食や晩餐会、舞踏会等の集まりに呼ばれることも多々ある。そこで恥をかかぬよう色々叩き込まれる。
その中に箸での食事の訓練もあったため、前世での東アジア地域の食事も何度か食べたことがあった。日本料理に似た食事も出たことがあったので、その時は感極まって涙を流しそうになった程だ。
最初の箸食の練習の際、普段はナイフ・フォークでの食事であるため、箸を使ったことのあるはずもない僕が、父母よりも上手く箸を使っていたことに父母は勿論、使用人一同皆驚いていた。
流石は貴族と言ったところか、箸の使い方を教えるために態々人を雇うこともある、と聞いたときはかなり驚いたが、それはどうしようもない程に下手だった場合に限るそうだ。そんなわけで父母よりも上手く箸を使うことのできた僕に、そんな人を雇う理由もなく、妹の箸指導は僕の役目となった。
そんなことを思い出しながら、久しぶりに魚料理を食べたい等と考えている内に、食事も終わり、部屋に戻った。ここの食事は家には劣るものの、この国の水準を大きく上回っているように感じた。簡潔に言うと、とても美味しかった。
部屋に戻ると、服もそうだが、自分自身もかなり汚れていることに気が付いた。
怠惰の魔王との戦闘は、殆ど紅葉達に任せきりだったので、僕はそれ程動いていないが、久しぶりにかなりのMPを消費した所為か、疲れも溜まっている。
泥だらけとまではいかないが、こんな汚れた服で食事を、しかもあれだけきれいな場所でしていたと思うと、恥ずかしいと思う以上に罪悪感で少し落ち込んだ。
しかし、もう今更どうしようもないし、従業員に謝罪することも考えたが、相手にも迷惑だろう。僕が逆の立場だと考えると、暇でもないのにいちいちそんなこと言われても対応がまた面倒だ。
このことは頭の片隅に追いやり、今後気を付けるという方針で、汗を流すために取り敢えず大浴場へと向かう。
幾ら高額の宿屋だからといっても、前世のホテルのような部屋一つ一つに風呂場が付いている、等ということはなく、前世での旅館みたいな感じだ。少し値が張るところだと、個室露天風呂等がついた旅館もあったようだが、僕は行ったことがなかった。
だが、なんにせよ大浴場があるだけでもかなり嬉しい。そもそも浴場のある宿屋自体この国ではそれ程多くない。
普通、平民は大商人やある程度の高位職や各組合の高位ランクにならない限り、風呂場のある家自体買う、借りることができない。
水浴びも、家族に水属性魔法等の水に関係する魔法が使える者や、近くに井戸などがない限り、頻繁に行えるものでもない。そのため、基本4属性の内、水属性が一番人気のある属性だ。
公衆浴場、所謂銭湯や温泉がないわけでもないが、水資源の多くない地域では殆どない。更に、そこも無料というわけでもないので、使えない者は多くいるのがエイヴィスティン王国の現状だ。
そんなわけで、家を出て昨日は魔法での入浴だったので、浴場でゆっくりできるのはかなり嬉しいのだ。
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再び部屋に戻ってきた僕は、ベッドの上でのんびりとしていた。
大浴場は家の大浴場よりもかなり狭かったが、野宿時の入浴よりはよっぽど良いし、ゆっくりできた。疲れも大分取れた。
そして、急に襲ってきた睡魔に抗うことなく、眠りについた。
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翌朝、目が覚めたら先ずは日課のトレーニング。外出中も朝起きてすぐにしている。一通りのトレーニングも終わり、汗を掻いてしまったので、お風呂に入りたいところだが、ここの大浴場は夜しか開いていない。仕方なく、魔法で身だしなみを整えると、丁度良い時間になっていたので、ダイニングへと向かう。
朝食はビュッフェ・サービスだった。昨夜はダイニングにかなりの数置かれていた席が、幾つか撤去され、様々な料理が所狭しと並べられたメインテーブルが、ダイニング中央に設置されていた。
まだ朝食の時間には少し早いのか、ダイニングにいる客の数は昨夜より少ないが、好都合だ。先程までトレーニングしていたこともあり、正直かなり空腹だ。
昨夜の夕食がかなり美味しかったこともあり、朝食も楽しみにしていたが、食べ放題だったのは嬉しい誤算だ。
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満腹になり、部屋へと戻った僕は、チェックアウトの準備に取り掛かった。と言っても、荷物も殆ど出していないし、服を着替えるだけなのだが...
チェックアウトを済ませ、ワーライドの検問所を通り抜ける。入る時は検問が行われる検問所だが、出る時は素通りだ。こんなので大丈夫なのだろうか。心配になって来たな。家の領だけでも出る時も確認した方が良いのではないだろうか...
そんなことを考えながら、ワーライドを後にした。
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王都への道のりも残り僅かとなってきた。ワーライドを出てから1日、ウェストーナを出てから今日で4日だ。
ボーレドさんに言われた、冒険者組合本部に顔を出すのが約3週間後。王立フィオレンツ学園の入学試験が、約5週間後。面倒なことになってしまった。入学試験には絶対に影響を及ぼさないようにしないと...
そんなことを考えながら、王都への街道の脇を猛スピードで進んでいると、前方から悲鳴と血の臭いがしてきた。僕は更にスピードを上げ、その発生源へと急ぐ。
暫く進むと、視界に入ってきたのは魔物の群れに襲われた馬車と、それを囲みながら必死に魔物の群れと攻防する騎士たちの姿であった。
街道に魔物が現れるのは珍しくもないが、群れとなると話は別である。はぐれが街道に出てきて、通行人と事を構えたり、殺り合ったりすることはよく聞くが、群れで現れるとなると、話は別だ。
それも今回は、スライムやゴブリン等の、群れであっても比較的討伐が容易な魔物ではなく、ウルフが相手だ。
ウルフは単独であれば、容易に仕留められる魔物であるが、群れとなると討伐の難易度が格段に上がる。しかも、群れである場合、それを率いる者がいるのが普通だ。その群れを率いているウルフは大抵の場合、普通のウルフではなく、上位種や変異種だ。
動物の狼と魔物のウルフの違い、それは角の有無だ。動物の場合は角がなく、魔物の場合は角がある。上位種の場合は角の数が、強さによって増加する。
変異種は、元は動物だったが何らかの事象により魔物化したものや、動物と動物の間から生まれた魔物であったり、見た目は同じなのに強さが異常であったり、明らかに外見が違ったりと、様々だ。
更に距離が縮まると、くっきりと状況を捉えることができた。
馬車は3台。騎士は戦闘中の者が5人、負傷しているだけなのか、死んでしまっているのかは不明だが、倒れているのが5人。
対する魔物は、生きている普通種のウルフが20数体、既に絶命していると思われるウルフが数体。そして、数体の普通種の後ろに居座る支配者然としたウルフが1体。角は3本。
3本の角を持つウルフにしては、群れの数が少なく感じるが、兎に角騎士達の元へと合流する。
「助太刀します。」
ということで、長い長い回想がやっと終了し、現在軸まで戻ってきました。
ワーライド篇開始時、第11話からの回想シーンがついに終わりました。我々の住まう現実世界では、実に1年以上の月日が流れています。長かった...
私自身も読み直して、回想シーンだったことを思い出した程です。
第24話の最後、急展開を迎えましたが、次回は戦闘です。そして馬車に乗っているのは果たして誰なのでしょう。私自身まだ考えていません。
ですが、来週末までには更新したいと思っています。
今後ともお付き合い宜しくお願い致します。
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