第19話 決断と怠惰の魔王
かなり遅くなって申し訳ありません。
憑りついた魔王からトーガを救う方法はない。紅葉は断言していた。しかし、放置が最も愚策であることは、誰の目から見ても明らかである。そこで僕はトーガ本人に、今の状況を伝えてみることにした。
「トーガ、どうやらお前には、さっき言っていた魔王が憑りついているようなんだ。」
それを聞くとトーガは、己の目をこれ以上ない程に見開いた。そこにあるのは、驚愕か、不安か、恐怖か、将又それら全てか。しかし、それは一瞬のことであった。すぐに元の表情に戻り、そして何かを決心したかのように息を呑んだ。
「その雰囲気からすると、それをどうにかする方法はないんだろう?」
「ああ。その通りだ。」
そしてトーガは僕に言った。
「なら、俺を殺せ。これ以上罪のない者を殺めるのは嫌なんだ。」
「本当にいいのか?お前はそれで。他のロック鳥達に真実を知らせないで、このまま逝ってしまっていいのか?」
「ああ。俺の手で彼奴を殺したのは変わらない。」
「後悔はないんだな?」
「ああ。殺ってくれ。」
そう言ったトーガの目にもう迷いはなかった。
そこで、僕も決心した。しかし、今まで、何度も魔物や魔獣を倒してはきたが、こうして言葉を交わした相手を殺めたことはほとんどない。それを知ってか知らずか、紅葉が話しかけてきた。
「主様、ここは私が。」
「紅葉...」
「もともと、主様が今回我々を喚びだされたのは、我々の戦闘能力の確認の為、だったはずです。どうかご決断を。」
紅葉は少し寂しそうな顔をしながら、そう言った。
そうだ。紅葉もこういうことは本当はしたくないはずだ。僕の気持ちを察して、こう言ってくれているんだ。優しい奴だな。いい従魔をもったものだ...
そして、僕は紅葉の言う通りにすることを決めた。
「わかった。紅葉...たのッ」
頼む、そう言おうとした時、僕の頭に原因不明の痛みが走った。その直後、頭の中にトーガから黒い何かが噴き出す映像が流れた。
「こ、これは...」
「主様、いかがなさいましたか? 」
「いや、さっきのは一体...」
すると、今まで黙っていたトーガが突然呻きだした。
「ウッ、アッ」
「なッ、どうした!?」
そう問いかけるも、トーガからの返答はなく、ただ呻き続ける。
「ウゥー、アァー、アガァー」
叫喚は続き、次第にその声は大きくなる。目を血走らせ、やがて
「ウ、ヴァ、ガァ、ヴァワァァァーーー」
一際大きな苦痛にまみれた咆哮すると、トーガの全身からどす黒い靄が上がり、トーガの動きが止まった。
「ど、どうした?」
そう言った僕の声は全く届いていないようだった。トーガの目からは光が失われ、まるで死んでいるかのようだ。しかし、オーラは先程のものとは比べ物にならないほど大きく、緑と黄緑しかなかったものに紫が増え、どことなく暗い色になっているようだ。
「紅葉、一体どうなっているの?」
「わかりません。ですが、恐らくルフよりも強くなっていると思われます。念のためご警戒を。」
「あ、あぁ、わかった。」
紅葉でもわからないのか、とりあえず鑑定を、
[名前] トーガ (怠惰の魔王)
[年齢] 108 (unknown)
[種族] ロック鳥 (ポゼッションスケルトン)
[職業・称号] ガ族の裏切り者 (怠惰の森林の魔を統べる者3代目)
[Lv] 289
[HP] 74560
[MP] 200899
[ATK] 89678
[DEF] 9126
[SP] 21
[魔法適性]
風属性 木属性 闇属性
[スキル]
〖魔法無詠唱化Ⅹ〗〖敵意感知Ⅶ〗〖爪刃拳Ⅷ〗〖威圧Ⅵ〗
[状態] Satanophany
これは...Lvが黒烏達より上で、何だこりゃ、MP超特化型だな。その代わりにDEFがかなり低い。突くならここみたいだな。MPの量じゃ紅葉でも負けているみたいだし。
ポゼッションスケルトンっていうのが、怠惰の魔王の種族みたいだな。怠惰の森林の魔を統べる者3代目ってことは、今までに怠惰の魔王は2度倒されているのか。なら何で封印されていたのだろう。まぁ、今はそんな事よりも目の前の魔王をどうするかだな。
そう僕が考えていると紅葉が声をかけてきた。
「主様、これは一体...」
紅葉もその後ろに控える三足烏達も驚きを隠せないでいる。取り敢えず今把握したことを紅葉達に教えないと。
「あぁ、これは、ンッ」
紅葉達に今の状況を伝えようとしたその時、止まっていたトーガが再び動き出した。
そして先程より毒を含んだ声色で言い放った。
「我は、怠惰の魔王。この怠惰の森林の魔を統べる者である。」
チッ、動き始めてしまったか。情報交換、共有は戦闘において最も大切なものの1つだというのに...仕方がない、こうなったら気は乗らないが僕が殺るしかないか...そう思い、先手必勝と怠惰の魔王に攻撃を仕掛けたその時、先に紅葉が動いた。
「黒烏、白烏は結界生成、赤烏、青烏は足止め攻撃、黄烏は私の補助を」
「御意」
それだけのやり取りを終えると、6体の鳥達は一斉に動き出した。
1番最初に行動が結果になったのは、赤烏、青烏だった。2体の三足烏はスキル〖翼刃撃Ⅵ〗を発動した。赤と青のそれぞれの美しい翼から、そこから発生したとは思えないほど鋭利な空気の刃が計4つトーガ、改め怠惰の魔王へと飛んで行く。
〖翼刃撃〗というスキルは、その名の通り翼が関係するスキルなので、翼のない者は取得することができない。翼を広げ意識し、羽ばたくことでスキルが発動する。威力はスキルレベルが上がるごとに増す。スキルレベルⅥともなると、鉄剣程度なら折ることが可能なほどだ。
つまり、ロック鳥とは言っても鳥の身体の怠惰の魔王にはそれなりのダメージを与えられるはずだった。しかし、あと数10cmというところで、先程までそこにはなかったはずの、1本1本であればそれ程の脅威になることのないであろう様々な太さの蔦が、隙間を開けることなく絡み合い、頑丈な自然の盾を作り出したのだ。それが4つの刃の行く手を阻み、それは自然の盾に成すすべなくぶつかり、ともに消え去る。
あれは恐らく、木属性六段魔法〘蔦障壁〙いや、赤烏、青烏の〖翼刃撃Ⅵ〗を防ぎきることができたということは、その上位の木属性十一段魔法〘蔦強力障壁〙だろう。
しかし、赤烏、青烏は〖翼刃撃〗が防がれることは想定内だったようで、次の行動へと移っていた。赤烏、青烏が少し後ろへ飛び移ると同時に、2体の元居た場所から円形に地面が膨らみ始め、土が盛り上がる。その土は怠惰の魔王を囲むように盛り上がり、高さが10ⅿ程に達したところで止まった。すると、赤烏、青烏が土の囲い、恐らく土属性十四段魔法〘土牢〙の上空へと飛び、上方からの攻撃へと移った。僕も邪魔にならない場所まで飛行し、その先頭を見物する。
怠惰の魔王は上空からの攻撃に土の牢に囲まれ、身動きが取れないにもかかわらず、障壁や攻撃魔法で、赤烏、青烏の攻撃を次々と相殺していく。更に攻撃まで仕掛けている。〘土牢〙の上部の円形の空間から幾つもの魔法が飛んで来ては、赤烏、青烏はそれを回避しながら攻撃する。流石は魔王と瑞獣の眷属の戦い。中級魔法どころか上級魔法をも無詠唱で発射している。
赤烏、青烏が足止めを行っている間に、黒烏、白烏はこちらも紅葉の指示通り、結界の生成の準備を進めていた。
結界にも何種類かあるが、足止めが必要な程時間がかかる結界は2つしかない。一つは広範囲を結界で囲み、外部からの攻撃、侵入を妨害する広範囲結界。これは、広範囲を囲むため、MPをかなり必要とする。そのため、複数人で行い、タイミングを合わせ一斉に行う必要があるため時間がかかる。 もう一つは高密度結界。その名の通り高密度で頑丈な結界のことだ。こちらもMPをそれなりに消費するが、それより大事なのが集中力だ。高密度結界は頑丈だがその分、生成にかなり時間を要する。その上、1度でも気を抜けば失敗する。
今回は後者の高密度結界を張っているのだろう。トーガを倒した後に出てくるポゼッションスケルトンである怠惰の魔王本体を、他の者へ憑依させないために閉じ込めるつもりなのだろう。
僕の予想通り、黒烏、白烏が張っていたのは極狭い局地的な高密度結界だった。範囲が狭かったので今回はそれ程時間はかからなかったようだ。直径15ⅿ程で、ロック鳥の身体では殆ど内部では動けない大きさだ。今回の結界は、内部からの脱出を阻害する結界で、主に、監獄で使われるものだ。結界が完成すると赤烏、青烏の攻撃は止み、次に紅葉が攻撃へと移る。
「黒烏、白烏、赤烏、青烏、ご苦労様でした。黄烏行きますよ。」
「御意〖補助技術向上Ⅷ〗」
黄烏はスキルを発動させ、翼を己が前で交差させ、紅葉へと向ける。すると黄烏の身体が明るい黄色に光始め、その光は交差させた翼へと集まり、紅葉へと流れて行く。紅葉がその光を浴びるとオーラが増大した。
最近多忙で、なかなか書き切れておらず、投稿が遅くなりました。インフルエンザになってしまったのでそれを利用して仕上げました。次回投稿からはできるだけ早くするつもりです。これからもよろしくお願いします。