第13話 食事と宿
冒険者組合から出てきた僕は、大きなため息をついた。
なぜ、十二段魔法を使ってしまったのか、もう少し自重できたのではないか、と自分を情けなく思ったためだ。面倒なことになってしまった。入学試験に影響がでなければいいのだが...終わったことを悔やんでも仕方がない。今日はこの街に泊まろう。
とりあえず、ワーライドで1泊することを決めた僕は、宿を探すことにした。しかし、この街について僕は何も知らない。そこで、丁度昼時だったので、店に入ることにした。
久しぶりに店で食事を摂ることができる。今までは、家で作ってもらったものを食べていたのだが、やはり、店でも食べたくなるものだ。いろいろと見て回り、決めたところは「彩の楽園」というレストランだ。
既に、〘身体偽造〙は解除している。なので、あまり居酒屋的な場所には入りずらい。エイヴィスティン王国では、飲酒に関する法がないため、何歳でも飲むことは可能だが、今まで飲んだこともないようなものを7歳児の身体で飲みたいとは思わない。前世も、前々世も、大人になる前に終わってしまったので、飲んだことがないのだ。
店の入り口には、2人の男が立っている。怪しい店なのか、と思うかもしれないが、この男2人は、警備員のようだ。どうやらこの店は、高級レストランらしい。別に、高級なものを食べたいとかではないのだが、店の外観がとてもおしゃれだったので、ここに決めたのだ。レンガ造りの建物に、ガラスの窓、深緑の植物が良いアクセントとなっている。ガラスは高級品なので、あまり使われているところがないが、この店では幾つもある窓全てが、ガラスでできている。
少し、入るのに躊躇われるが、思い切って店に入ろうとした時、警備員の男に止められた。
「僕、お父さんやお母さんはどうしたの?」
「ここは、正装じゃないと入れないんだよ。」
「あっ、これは失礼しました。すぐに正装に着替えて来ます。」
そう言って、僕は路地に向かった。警備員の2人は変な顔をしていたが無視だ。
しまった。あんな高級そうな場所に、こんな服で入れるはずがない。今着ているのは、移動・戦闘用の服だ。しかも、少し汚れている。止められるのは当然だ。
「〘衣装変更〙」
この魔法は無属性の六段魔法だ。一瞬で自分の想像した衣装を身にまとうことができる。今、着替えたのは貴族服だ。これなら問題ないだろう。もう一度、先程の店へ向かった。
店前へ行くと、警備員の2人が目を丸くしていた。次は問題なく入れてくれた。「あの子、さっきの子だよな。」とか、「親はどうしたんだろう」などと聞こえたが無視だ。確かに一度目に聞かれたが、わざわざ本当のことを言う必要もない。
店の中に入ると、案内人であろう高そうな制服に身を包んだ男がやって来た。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか。」
「はい。」
「それではご案内いたします。」
案内人の男は、それ以上何も言わず案内してくれた。どうやら、この男は鑑定スキルを取得しているらしい。貴族のぼんぼんとか思われているのだろうか。
「こちらでございます。」
案内されたのは個室だった。幾つも途中で空いたテーブルがあったのだが、なぜだろう。そんなことを考えていると、目の前にいた男が、いつの間にか先程の案内人とは違う人に変わっていた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お申し付けください。」
そう言って、戻るのかと思っていたら、その男はずっとそこに居たままだ。選びにくい。さっさと決めないと悪いかな。と思い、たまたま目に付いた「シェフのおすすめ」を注文した。間もなく運ばれて来たのは、とても豪華なものだった。店の名前の通り、色鮮やかな料理が目の前に置かれた。家で食べていたものにも負けないような満足感だった。
食べ終えた僕は本題に移った。もともと、今日泊まる宿を探すことが目的だったのに、食べるのに夢中になっていた。
「あのー、この街でおすすめの宿屋はどこですか?」
「そうですね。「竜の息吹亭」でしょうか。」
「なるほど、その「竜の息吹亭」というのは、どこにあるのですか?」
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「竜の息吹亭」や、この街についていろいろ聞いて、この店を出ることにした僕は、お会計へと移った。この店のメニューには、値段が書かれていなかったため、少し不安だったが、父から色々と持たされていたので、問題ないと、自分に言い聞かせた。
「お会計は、銅貨9枚になります。」
ランチでこの値段はどうか、とも思ったが、あの満足感なら仕方ない。銀貨1枚を支払い、銅貨1枚を受け取り、店を出た。食事を摂れたので、「竜の息吹亭」に向かうことにした。
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教えてもらった道を進んでいくと、ひと際目立つ真っ赤な建物があった。間違いない、ここが「竜の息吹亭」だ。「真っ赤な建物です」と言われて、どんなものだろうと思って来てみたら、想像以上に真っ赤だった。竜は火を吐くイメージがあるからだろうか、まるで炎のように真っ赤なその建物は、周りの建物より数段大きく、豪華な造りだ。入るのが恥ずかしい程派手だが、なぜか高級感があった。
「いらっしゃいませ。お泊りですか、それともご休憩ですか?」
「1泊でお願いします。」
「畏まりました。夕食・朝食付きで銀貨3枚です。」
ゲッ、銀貨3枚!結構するんだな。まぁ、入ってしまったからには仕方がない。僕は支払いを済ませ、部屋へと向かった。
外観はアレだったが、内装は高級ホテルのような造りだ。あらゆるところが輝いて見える。部屋も一人部屋とは思えないほど広い。一部屋一部屋にガラス窓があるとは...さっきの店の案内人、わざわざ値の高い所を言ってきたのだろうか。貴族だからと言って特別扱いをされるのは苦手なんだが...
とりあえず宿をとることができたので、ゆっくりすることにした。ちなみに、冒険者ギルドを出るまでのステータスはこんな感じにしておいた。
[名前] ライル
[年齢] 17
[種族] 人
[職業・称号] 魔法戦士
[Lv] 150
[HP] 5678
[MP] 7440
[ATK] 6217
[DEF] 5936
[SP] 247
[魔法適性]
火属性 光属性 闇属性 無属性
時空魔法
[スキル]
〖鑑定Ⅶ〗〖言語理解Ⅴ〗〖魔法威力上昇Ⅵ〗〖戦闘能力上昇Ⅵ〗
いくらなんでも、こんなに上げておく必要はなかったのかな?今になって思えば、この街の検問所の人もビクビクしていたような...てっきり後ろにいた厳ついおっさんに、ビビっているのだと思っていたけど、このステータスが原因だったのかな...魔法の威力や、戦闘能力が高いのを誤魔化すために、スキルを取得していることにしたんだが、高くし過ぎたかな...とにかく、今は別の、子供のステータスに戻してるし、【制御腕輪】もレベル1にしているから問題ないよな。一応確認しておくか。ステータスボタン...
[名前] ライル
[年齢] 7
[種族] 人
[職業・称号] アドルクス公爵家長男
[Lv] 29
[HP] 913
[MP] 1001
[ATK] 978
[DEF] 1026
[SP] 29
[魔法適性]
火属性 闇属性
時空魔法
[スキル]
〖鑑定Ⅴ〗
うん。大丈夫みたいだな。7歳でこのステータスは高すぎる気もするが、英才教育ということで誤魔化せるだろう。これからどんな敵が現れるかわからないから、ゼウス様にもらった固有スキル〖限界突破〗があるし、できるだけステータスを上げたいな。それに、前々世のような思いは二度としたくない...いやなこと思い出してしまったな。何か気分を変えたいな。
「よし、ちょっと狩りにでも行くか。」
そう思い立った僕は、服を戦闘用に着替え、宿を出た。
次回、久しぶりに奴らが登場予定です。