第10話 別れと旅立ち
次の日から早速授業が始まった。1ヶ月過ぎた今でも、1日9時間の授業は正直かなりきつい。ここ1ヶ月の1日の予定は、
6時起床 6時半朝食 7時自主学習 9時武術授業 12時昼食 13時魔術授業 16時休憩 17時学術授業 20時夕食 21時自主訓練 24時休憩 25時自主学習 26時就寝
という感じだ。10時間も睡眠時間はある、と感じるかもしれないが、今世の時間経過は前世や前々世と違うので、前世で8時間寝たようなものだ。これは、5歳児には短いだろう。だったら、自主学習や自主訓練をやめればいいと思うかもしれないが、これは日課なので、やめることはできない。もしもの時のために、強くなる必要があるからだ。もう前々世のようなひどい目に合わないためにも...と言っても、週に1度は休みの日がある。もちろん自主学習、自主訓練は怠らないが、授業がないだけましだ。
授業内容は、武術の授業がいろんな流派の形を教えてもらい、それを使ってデスト先生と模擬戦闘をする。あまりにも、形を覚えるのが早くて先生は驚いていたが、前々世にあった流派と似たようなものばかりだったので、練習するだけだった。それも、今の体なら簡単にできた。ゼウス様、様様だ。
魔術の授業は、初めは簡単な基礎の魔法、主に初級魔法の初段~三段の魔法を練習していた。前々世でも使えていた魔法だったので、最初の授業でサクッと使ってみると、セルナ先生が驚いていた。なんでも、この世界では、三段魔法が使えるようになるのは練習を始めて三ヶ月くらいだと言う。前々世では、落ちこぼれと言われていた程の魔法がそれほどとは驚きだ。
その次の授業からは、四段~八段を主に授業で練習するようになった。と言っても、僕は使えるので、魔法を発動しないようにするのは難しい。そこで、休みの日にあるものを作った。そのあるものとは、前に取得した〖鍛冶Ⅹ〗で型を作り、その時に取得した〖効果付与Ⅹ〗で<能力制限>を付与した【制御腕輪】だ。この道具は自分の力を制限することができる。レベル1~10までの10段階を作った。普段はレベル1に設定している。「解放」と発することで、レベルを1つずつ開放する仕組みになっている。これを着けてレベル1のまま魔法を放ってみると、しっかりと発動していることが確認できた。MP他が極端に少なくなったのだ。これだと数回、中級魔法を放っただけで尽きてしまうだろう。もちろんMPは回復するので、僕の回復スピードだとそんなことは万に一つも無いが... ATKも落ちている。
学術の授業は、初めにテストを行い、それに合わせて、一般常識から計算や語学、貴族の嗜みまで、ありとあらゆる学習をした。記憶力が良いようなので、習ったことをすらすら覚えることができた。ホーラン先生も驚いていたが、どうやら〖記憶力上昇〗などのスキルを取得していると、勘違いしてくれたようだ。まぁ、そうなるだろうな。僕もゼウス様のご厚意が無ければ、こんなチート能力は手に入れられなかっただろう。ゼウス様ありがとうございます。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
先生たちと出会ってからは、飛ぶように月日が流れた。結局僕の選択した学科は、総合科だ。これまでの倍率は5倍前後とかなり高いが、先生方にも大丈夫と言われたので、大丈夫だろう。入学試験まであと、1月。今日は、王都に向けての出発の日だ。授業は1か月前に終わっていて、先生方はもう帰っていた。この1か月は自主学習と自主訓練のみだ。なぜ、この1番大事な時期に自分1人ですることになったかというと、武術・魔術の授業は共に、制限をかけていたので、これ以上制限していては意味がないと思ったからだ。学術はもともと、1年程前に学園卒業までの学力を身に着けていたからだ。それからの1年は過去の入学試験問題をひたすら解いていた。それで、かなり前までの過去問を解いたのを見て、ホーラン先生は「もう、これ以上私の教えられることはない。」と言って帰ってしまったのだ。
現在は、また新たに3人の先生が家に来ている。もちろん僕に教えるためではない。昨年、5歳になったエリスに教えるためだ。僕の時もそうだったそうだが、3歳になった時の【投影石】での測定で、父がどんな先生が合っているのかを選んでいたそうだ。僕はもちろん、エリスもだいぶ成長した。先生の腕がいいというのもある。先生は3人とも女性で、1度授業を見せてもらったが、とても分かりやすいものだった。それとは別に、僕がエリスに指導することもあった。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
半年程前の休日、
「お兄ちゃん、エリスに魔法教えてー」
そう、エリスが僕の部屋にやって来た。なぜ、先生に習っているエリスが僕の下にやって来たのかというと、もともと妹が2歳の時に、「にーにー、これ読んでー」と魔法使いの絵本を持ってきたのが始まりだ。
その絵本の内容は、主人公の女の子が巨大な魔獣に襲われていて、諦めかけたその時、目の前にこの世の人とは思えない美しい大魔法使いが現れ、助けてもらう。自分を助けてくれた魔法使いに憧れ、魔法使いになろうと練習を始める。その後、有名な魔法使いになった女の子は、大魔法使いと再会し、あの時の感謝、自分があなたに憧れて魔法使いになったこと、いろんなことを話した。すると、大魔法使いは光に包まれ、空へと消えていった。最後に聴いた言葉は、「ありがとう。あなたのおかげで私は戻ることができます。本当にありがとう。」だった。実は、大魔法使いは神界から無実の罪で追放された神だった。神界に戻る方法は、自分に憧れた人物が夢を叶える。というものだった。その後主人公は、運命の人と出会い、幸せな家庭を築いていく、という物語だ。
少し安直な物語のような気もするが、この本で魔法に興味を持ち、「にーにー、魔法おちえてー」と言ってきた。当時の妹にはすでに、簡単な魔法を発動することのできるMPはあったものの、さすがにまだ早いだろうと思った僕が、「エリスが5歳になったら教えてあげる。」と言ったのだ。しかしその後、5歳になると先生に教えてもらうことを知ったものの、約束は守らないとと思いながらも、まぁ、覚えていないだろうなと思っていた。
だが、エリスの5歳の誕生日の夜、「お兄ちゃん、私はまだ全然魔法のこと知らないから、先生に半年習ってからお兄ちゃんに教えてもらうね。」と言ってきた。正直、覚えていないだろうと思ってたので、驚いた。しかし、同時に嬉しくもあった。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
あの日からもう半年かぁ、初めはエリスも簡単な魔法しかできなかったけど、今では中級の十段魔法までならできるようになった。これには、先生も家の皆も驚いてはいたが...これだけ魔法が使えれば、今までは外に行く時は僕が一緒に行っていたが、僕が学園に行っても十分身を守れるだろう。そろそろ時間だな。僕は、試験への準備と引越しの荷物を持って、玄関へ向かった。
玄関には、父母、エリス、使用人の全員がそろっていた。皆、僕の出発のために忙しい中、集まってくれたようだ。僕と一緒にいる時間の長かったエリスとユーリは少し目が赤く腫れていた。僕が王都に行くことを悲しんでくれたのだろうか。僕は不謹慎かもしれないが、そんなことを考えて少し嬉しくなった。
「ライル。今までよく頑張ったな。試験頑張るんだぞ。」
「ライル。落ち着いて頑張れば、あなたは必ず合格できるわ。」
「お兄ちゃん。頑張ってね。」
「ライル様。我々使用人一同、ライル様の合格をお祈りしております。」
「ありがとうございます。父さん、母さん、皆。それに、エリス。できる限り頑張ります。結果が出次第、お知らせします。」
「あぁ、良い結果を期待しているぞ。」
そう言って、父は僕を抱きしめた。それに母と妹も加わった。前々世では味わうことのできなかった、家族の温もりを感じることができた。本当に温かかった。