エピローグ
エピローグ!
エピローグにしては長いかも?
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数日後。ボロアパートの二〇二号室には、奇妙な静寂だけが残されていた。
大家が「家賃の滞納」や「部屋から漂う異様な生臭さ」を不審に思って警察を呼んだのは、それから一週間も後のことだった。
警察の鑑識が入り、大規模な捜査が行われた。部屋の床板が一部激しく焦げていること、壁の裏に不自然な隠し通路が存在していること、そして住人である高瀬が「謎の失踪」を遂げたこと。
しかし、それ以上の明確な事件の証拠や遺留品は、何も見つからなかった。
天井裏のデッドスペースも、犯人が炎に焼かれながらも全ての痕跡を綺麗に抹消して立ち去った後だった。
警察は単なる『大学生の夜逃げ、または自発的な失踪』として、捜査を早々に打ち切った。
だが、一人だけ、その結論に絶対に納得していない奴がいた。
大学のカフェテラス。
昼下がりの穏やかな陽光が降り注ぐ中、白石結衣は、一人でノートPCの画面を見つめていた。
高瀬が大学にも来ず、アパートからも消えたと知った結衣が、大家の元へ何度も通い、泣きついて部屋から回収してきた「高瀬の残骸」だ。
「高瀬のバカ……どこに行っちゃったのよ……」
結衣は、高瀬が失踪したあの夜のデータログを、何度も、何度もスクロールしていた。
警察は事件性はないと言った。ただの夜逃げだと笑った。でも、結衣の驚異的な直感は、この無機質な数字の羅列の中に、取り返しのつかない「あり得ない異常」が隠されていることをはっきりと告げていた。
高瀬が消えた、あの日の深夜二時四分のログ。
そこには、室内の湿度が『九九%』まで跳ね上がったという、狂ったような数値が刻まれている。 そして、その湿度データの裏で、奇妙な『二つの熱源の歪み』が、激しくぶつかり合って、そのまま一瞬で消失した不可解な痕跡が残されていた。
「あんた、こんな怪しいデータを残して……一人でどこで何をしてるのよ」
結衣はまだ、あの部屋に本物の殺人犯が潜んでいたことも、高瀬がその怪異の裏側に引きずり込まれて、すでにこの世界から消されてしまったことも、何も知らない。
あの日、最後にお惣菜を届けたときの、高瀬のあの怯えたような、でも何かを確信していたような青白い顔が、ずっと脳裏から離れないのだ。
ただ、このノートPCに遺された「謎の測定データ」だけが、大好きな、そして突然消えてしまった幼馴染の居場所を示す唯一の手がかりだと、彼女は盲目的に信じている。
「待ってて、高瀬。あんたがどんなに遠くに隠れてようが、このデータの謎を私が全部解き明かして、絶対に、絶対に見つけ出してあげるから」
結衣は、高瀬のノートPCをパタンと強く閉じた。
その目は、かつての大人しい、ただの世話焼きな幼馴染のそれではなかった。
消えた高瀬を必死に探し出すため、彼が最後に足を踏み入れていた「データとオカルトの世界」へ自ら飛び込んでいくという、無謀なまでの深い決意と執念の光を宿していた。
結衣がノートPCをリュックにしまい、カフェテラスから歩き出したその背後。
乾いた昼間の空気の中に、一瞬だけ、じっとりと湿った【冷たい青緑色の歪み】が、彼女を嘲笑うように不気味に揺らめいた。
『湿度99%』・完 / 次作『白石結衣のオカルト解析ファイル――失踪した幼馴染を探して――』へ続く
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