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湿度99%  作者: 泉月いお
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第一章 湿度99%

第一章!

初めてホラー系を書きます!

楽しんで!

 不快な電子音が、午前二時四分の静寂を切り裂いた。

 枕元で震えるスマートフォンの画面が、バックライトで網膜を刺す。画面に表示されているのは、俺が自作した室内環境監視アプリの赤い警告表示。


『警告:室内の湿度が急激に上昇しています。現在値:99%。結露に注意してください』


「……またか」


 俺――高瀬たかせは、重い体を起こしてベッドの上に座り直した。

 一歩も外に出たくないような、じっとりとした生温かい空気が肌にまとわりつく。六畳一間のアパートの空気は、まるで梅雨時のサウナのように様変わりしていた。眼鏡のレンズが一瞬で白く曇る。


 窓を睨みつけるが、当然、外はただの乾いた冬の夜だ。エアコンも除湿モードのままで、一分前までは快適な室温二十二度、湿度四五%を保っていた。それが、この二時四分になった瞬間、部屋の気圧も温度も変わらないまま、水分だけが爆発的に空間へ充満する。

 普通の人間の感性なら、これを「お化けの仕業」だとか「呪い」と呼んで怯え、家を飛び出すのだろう。何しろこの部屋は、不動産屋の言う『前の住人が不審な孤独死を遂げた格安の事故物件』なのだから。

 だが、大学の理工学部で環境科学を専攻している俺の脳は、恐怖よりも先に別の疑問を弾き出していた。

 ――水分子(H2O)は、エネルギー保存の法則に従う。何もない空間から、突如としてこれほどの質量の水蒸気が発生するわけがない。必ず、どこかに『供給源ソース』がある。


「オカルトで片付けるのは、データが集まらなくなってからだ」


 俺は曇った眼鏡をシャツの裾で拭き、デスクの上のノートPCを開いた。画面には、部屋の四隅に配置した高精度センサーがリアルタイムで弾き出す、湿度と気流のグラフが不気味な曲線を描いて立ち上がっていた。


 この部屋に引っ越してきて一週間。初日にこの現象が起きたときは、ただの配管トラブルかと思った。

 だが、翌朝起きて驚愕した。デスクの上の教科書や、提出間近のレポート用紙が、まるで風呂場に一晩放置したかのようにしんなりと波打ち、使い物にならなくなっていたのだ。壁紙の端からは不気味な黒カビが覗き、クローゼットの中の衣類はどれもじっとりと湿気を吸って、奇妙な生臭さを放っていた。

 明らかに異常だった。大家に掛け合っても「そんな報告はない。お前の部屋の使い方が悪いんじゃないか」と一蹴されるだけ。

 だから俺は、自分の手でこの現象を解明すると決めた。

 精密な電子天秤、超音波加湿器の稼働データ、気流のベクトルシミュレーター。研究室から機材を(半分無断で)持ち込み、部屋の中に張り巡らせた。


 カタカタとキーボードを叩き、今しがた記録されたばかりの最新データを解析する。

 グラフの推移は、やはり異常そのものだった。

 通常の結露や湿気の上昇は、部屋の温度変化に伴ってじわじわと進行する。しかし、この部屋のデータは違う。二時三分五九秒までは完全なフラット。そして二時四分〇〇秒になった瞬間、垂直に近い角度でグラフが跳ね上がっている。

 まるで、目に見えない巨大なバルブが、部屋のどこかで一気に開放されたかのように。


「……待てよ」


 画面に表示された『気流のベクトルデータ』を見たとき、俺の指が止まった。

 湿気を含んだ空気の波が、部屋のどこから広がっているのかを示す3Dマップ。そこには、俺の予想を裏切る衝撃的な事実が映し出されていた。

 水蒸気は、換気扇からも、床下の隙間からも、古い壁の裏からも発生していない。

 部屋のど真ん中。俺が今さっきまで寝ていた、ベッドの真上の『空間の一点』。

 何もないはずの虚空から、この大量の水分子が文字通り湧き出している。


「空間のバグか、それとも――」


 俺はノートPCから顔を上げ、じっとりと濡れた自分のベッドを見つめた。

 霧が立ち込める暗闇の中、誰もいないはずのシーツの上が、わずかに沈み込んでいるように見えた。

ご覧いただきありがとうございました。

自信ないけどどうかな、、

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