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18.脅威の理由

 作戦会議といっても、モルドレッド殿下がおっしゃっていたとおり、まずは何が起きたのか把握しないといけない。


 そういうわけで、第二王妃殿下は正妃殿下へ話を聞きにいくとおっしゃった。


「使いを出しますけど、すぐにご対応いただけるかはわからないわ。もうすぐ妃殿下主催の社交パーティーですから」


 そういえば、もうそんな時期だった。

 けれど、結果から言えばそれは杞憂に終わった。社交パーティー自体が延期になったからだ。


***


「『第二王子が他国と通じていたというのに、王家が社交パーティーなど開いている場合ではない』ですって」


 正妃殿下からの返事を読んだ第二王妃殿下は、呆れたように肩をすくめた。


 それはそうだ。

 手紙の続きには、向こうでも事態の把握を急いでいるため、しばし待つようにと書かれていた。


 私も父へ文を送ったけれど、なにしろ領地は遠い。無事に届いているかどうかもわからなかった。

 最悪の場合、王都を出る際にアーサー殿下の兵へ捕縛されている可能性だってある。もっとも、モルドレッド殿下配下の諜報部隊へ頼んだので、そんなへまはしていないはずだけれど。



 殿下が連れていかれてから、まだ二、三日しか経っていない。

 それでも私と第二王妃殿下は、一日千秋の思いで情報を待ち続けていた。

 窓の外では、日が沈むのがやけに早くなった気がするし、朝日だっていつまで待っても昇ってこない。

 そんなはずはないのに、そう感じてしまうくらい、離宮は重く暗い空気に包まれていた。


 そんな重苦しい空気の中、正妃殿下から便りが届いた。

 私と第二王妃殿下は、執務室のソファを挟んで向かい合った。


「……なるほど」


 先に読まれた第二王妃殿下が眉間にしわを寄せた。

 第二王妃殿下は手紙を三度読み返してから私へ差し出し、そのまま侍女を呼んだ。

 ブランデーをたっぷり入れた紅茶を頼まれて、思わず深く息を吐いた。


 私も受け取った手紙に目を通す。


「……さようですか」


 モルドレッド殿下は、連れていかれたときに告げられた通り、国家反逆罪で王宮の地下へ幽閉されているそうだ。


 そして国家反逆の罪を着せられた理由は、ゲルソンと密通していたとされたから。

 隣国のゲルソンとは、私が生まれる前までは戦争が続いていたけれど、ここ最近は小康状態が保たれている。今は国同士の関係こそ微妙なままだけれど、商人たちの行き来は活発で、モルドレッド殿下も最近は港へ視察に行かれていた。

 その視察自体が罠だったようで、ゲルソンの有力者と密会していた、あるいは文を交わしていた、という話にされているらしい。


 その証拠として出されたのが、アーサー殿下がお持ちだった手紙だ。けれど、それが偽物だと証明するすべがない。

 私や第二王妃殿下が確認すれば、筆跡の違いくらいすぐにわかるだろうけれど、


「罪人の身内の者に、証拠品を消失させられてはいけない」


 といって渡してくれないだろう。

 たとえ紛失しなかったとしても、「すり替えた」「手を加えた」と濡れ衣を着せられ、私たちまで捕まりかねない。


 三度読み終えて顔を上げると、第二王妃殿下は紅茶のブランデー割り――というより、ほとんどブランデーの紅茶割りを飲み干したところだった。


「どうご覧になります?」


 私が言うと、第二王妃殿下は眉間にしわを寄せた。


「どうもこうもありません。そもそも、港への視察はアーサー殿下からの指示だというのに。おそらく、ジニーを同行させないよう手を回したのもアーサー殿下でしょうね」


 首をかしげると、第二王妃殿下は深く息を吐いた。


「あなたまで罪人にでっちあげたりしたら、ヴォーティガン卿が黙っていませんよ。ただでさえ、ここ最近のアーサー殿下の暴挙で、こちらの派閥の貴族たちはぴりぴりしているというのに」


 父が私の軟禁を許しているのは、私が第二王妃殿下に本当によくしていただいているからだ。

 それが地下牢で監禁となると、たしかに挙兵しかねない。


 一瞬、それでも構わないような気持ちになったけれど、それで王都を戦乱に巻き込むのは、防人としてあまりにも無責任だ。


「それにしても、正妃殿下はずいぶん情報をくださいましたのね」


 当然ながら、正妃殿下はアーサー殿下を王位継承者として推している。

 なのに、第二王妃殿下と私へここまで良くしてくださる理由がわからない。


「それはねえ」


 第二王妃殿下がふふっと笑った。

 手招きをされたので殿下の隣に腰を下ろすと、耳元に顔を寄せられた。


「ジニーが一度も、アーサー殿下を貶めるようなことを言わなかったから、だそうよ。伝令役の侍女が言伝てくれたの」


「どういうことですの……?」


「そのままよ」


 第二王妃殿下は、どこか楽しげに口元を吊り上げた。


「あなたもモルドレッドも、今まで第一王子派の貴族や令嬢たちに、アーサー殿下の悪い噂を流したことはあった?」


「ありません。だって、アーサー殿下の問題って、国王陛下を能力で洗脳したことくらいではありませんか。それ以外は品行方正で、穏やかで、政治能力も高くて、すらりと背の高い好青年ですもの。まあ、その『国王陛下を能力で洗脳した』という一点が最悪なのですけど」


「本当にねえ。そんなことをしなくたって、アーサー殿下ならまっとうな手段で王位を継承できたでしょうに。……たとえ継承できても、脅威が消えるわけではないから、こんな暴挙に出たのでしょうけど」


「脅威?」


 アーサー殿下が、あんな暴挙に出なければならないほどの脅威とは何だろう。

 もちろんモルドレッド殿下は有能ではあるけれど、アーサー殿下がここまで警戒するほどの脅威には見えない。そもそもモルドレッド殿下は廃嫡して叙爵の上で今後は地方政治を支えていくおつもりだった。


 ……それでも排除しなければならないほどの脅威が、モルドレッド殿下にあるのだろうか。


「知らぬは本人ばかり、というやつね。モルドレッド一人なら、私が言うのもなんですけれど、そこまで脅威ではありません。そうなってしまったのは、あなたがいるからよ。ジェニファー・ヴォーティガン。……本当に、何もわかっていない顔をしているわねえ」


 きょとんとしていると、第二王妃殿下に声を上げて笑われた。


 私にどんな脅威が?

 ただの囚われの、健気で儚い姫君ではないですか。


「あなたの後ろには、最大の敵国であるゲルソンとも対等に渡り合えるヴォーティガン一家がついているわ。それに、あなた自身の能力である『鼓舞』もね。本気で使えば、この城の兵士全員を狂戦士へ変えられるでしょう」


「……その気になれば、ですけど」


「あなた一人でも、ヴォーティガン卿が鍛え上げた戦士ですものね。戦乙女として先頭に立たれたら、アーサー殿下など木端微塵です」


 さすがに、否定しづらかった。

 ヴォーティガン領の兵士はもちろん、離宮の兵士たちもヴォーティガン領と同じ訓練を取り入れている。私だって体が鈍らないように朝晩の訓練は続けていた。


 モルドレッド殿下が捕らえられた原因の一端は、間違いなく私にもあった。


「ともかく」


 考え込んでいると、第二王妃殿下がぱん、と手を叩いた。


「そういうわけですから、正妃殿下がくださった情報は信用して大丈夫ですよ。正妃殿下は、あくまでアーサー殿下の母君です。わたくしたちの味方にはなりませんが、表立って敵対するつもりもない――そう言伝てくださいました」


 私が情報の信ぴょう性を疑っていたことは、すっかり見抜かれていたらしい。

 私は苦笑しながら、小さくうなずいた。


「さて……これからのことですけど」


 第二王妃殿下が改まって背筋を伸ばした。

 その途端に、扉が強く叩かれた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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