デート、デート、またデート
翌日、僕は憂鬱に陥っていた。
今日の予定はユキさんの家へ行くことなのだが、昨日のメッセージ以降、彼女との連絡が途絶えたままだったのだ。
机に突っ伏しながらぼんやりと呟く。
「なんで連絡ないのだろう……」
「どうしたんだ!」
「わわっ!?」
突然、後ろから瀬戸くんに抱きつかれる。
「あっ、なんだ、瀬戸君か」
「俺で悪かったな。椎の方が良かったよな?」
「えっ? どうしてそこで椎の名前が?」
「カタッターに写真あげてたじゃないか! 中々いい感じじゃないか、このー」
グリグリと肘を当てられる。
「別に普段通りだよー」
「わざわざ写真をあげてるのにか? どう見ても仲がいいアピールだぞ?」
「一緒にわたがしの道具を買いに行っただけだよ」
「……ぶいっ」
なぜかやってきた椎がVサインを作っていた。
「ほらっ、椎もそうだって言ってるぞ?」
「べ、別名前と変わらないよね、椎?」
「……んーっ」
敢えて首を傾げて見せる椎。
するとここで三島さんまで参入してくる。ジト目を僕の方へと向けてくる。
「へぇ……、椎、ねぇ」
「別に何もおかしいことはないよ?」
「って、呼び方が変わってるじゃないか!?」
「……鈍感」
「ぐっ、そ、それを言うならコイツだろ」
瀬戸くんが僕の肩を掴んでくる。
「僕? 僕はこう見えて鋭いよ。あいたっ」
なぜか椎に頭を軽く叩かれる。
「……八代くんは超鈍感」
「へぇー、へぇー」
三島さんのニヤニヤはさらに加速していた。
「……どうしたの?」
「なんでもなーい。二人はもう進展しないかと思ったけど意外だったね」
「そうだな。まさかここがくっ付くとは」
「……気が早い。敵は多い」
「敵?」
「……お姉ちゃんと外人さんと探索者と職員さんは絶対的」
「また増えてない?」
「……増えた」
「モテモテだな」
瀬戸くんが再びグリグリと肘を当ててくる。
「モテモテってなんのことかわからないよ。ユキさんと姫乃さんはみんな知ってるでしょ? 天瀬さんは仕事の付き合いだし、外国人さんは昨日初めて会ったよ!?」
「俺とは対応が違ったよな?」
「……ギルティ」
「なんで!?」
結局僕は授業が始まるまでの全ての時間を使って説得したが、それでも納得してもらえたかはイマイチわからなかった。
◇◇◇
「……ついていく」
椎のその言葉で僕たちは一緒にユキさんの家へと向かうことになった。
そもそもよく考えると僕はユキさんの家を知らない。
ユキさんからの連絡もないので、誰かに案内してもらわないと家まで行くことができなかった。
そして、校門を出てすぐのところで再びミーシャさんと出会う。
「(また会ったわね。リトルテイマー!)」
何か言ってる気がしたが、英語で話していたのでおそらく僕以外の誰かに話しかけているのだろう。
そう思い、隣を素通りしようとしたら肩を掴まれてしまう。
「(あなたを待ってたのよ、リトルテイマー!)」
「あ、あの……、何を言ってるのかさっぱりわからないのですけど?」
「おっと、ソーリー。ついいつもの話し方で喋ってしまってたわね」
なぜか椎が僕の腕をギュッと掴んでくる。
「……何の用?」
「おやおや、ガールフレンドには嫌われてしまったわね。でも、私がリトルテイマーに求めることはただ一つよ。あなたが欲しいの! そのためならなんでも差し出すわ」
人が大勢通る校門側でとんでもない問題発言をしてくれるミーシャさん。
当然ながらそんなところで痴情のもつれ的な話をしていたら目立つのは必然で……。
「わわっ……、ミーシャさん、その話はここでするようなことではありませんから」
「ここでしなかったらいつするのよ! 私は本気なのよ! 本気であなたのことが欲しいと思ってるの!」
「……八代くんは渡さない」
バチバチと勝手に視線を飛ばし合う二人。
しかもなぜかこの場から離れる気がないようでギャラリーの数がさっきよりも増えている。
するとここで僕を助けてくれる救いの手が現れる。
「ごめんね、八代くん。うちの場所を伝えるの忘れてたよ。そのことに気づかずに浮かれて……じゃない。お仕事でダンジョン潜ってたら八代くんのメッセージにも気づかなくて……」
ユキさんが駆け足気味でやってくる。
前みたいに変装しているわけでもなく、探索がえりそのままの格好できたものだから騒ぎは更に大きくなる。
「ゆ、ユキさん!? ど、どうしてここに!?」
「椎の学校だもの。わかるわよ。それよりも……」
僕の腕に抱きつく椎と視線を飛ばし合うミーシャさんを見て、ユキさんは状況を把握する。
「なるほどね。椎がライバル……か。うん、楽しそうね」
そう言いながらユキさんは空いている腕をギュッと掴んでくる。
両手に華とはこのことを言うのだろう。
ただ、僕からすればこの状況はただの針の筵だった。
「(八代君は渡さないわよ)」
「(あなたはユキ!? まさかあなたまで彼を狙っていたなんて)」
「(あら、もう彼は私のものよ。その証拠に今日はこれから私の家に招待しているの)」
「(う、嘘よ。彼はそんなことは言ってないはず――)」
「(ならば聞いてみるといいわ)」
ユキさんは勝ち誇った表情を見せる。
ただ、英語で話しているせいで僕にはその内容が一切わからなかった。
「ユキさん、一体何を話してるのですか?」
「大したことじゃないよ。それよりも行きましょう」
「……お姉ちゃん、私に隠れて八代くんを誘った」
「あ、あはははっ……」
ガックリと肩を落とすミーシャさんを背に僕は二人に挟まれながらその場を去っていくことになった。
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