ベルドロールの魔獣
「待ちなさい! おとなしく拘束されれば、そんなものを注入する必要はーー」
私はバルゴに駆け寄ろうとするが、黒装束たちが一人ずつ飛びかかってくる。
先ほど、令嬢姿の私に拘束されたことが記憶に新しいのか、集団で攻めてくることはない。
私は一人一人を軽々と捌いていくが、集団でかかってきてくれれば一瞬で終わっていたはずだ。
時間稼ぎの作戦としては十分成功している。
「う……ぐ、ぁぁぁぁぁァァァアアアッ!!!」
鉱石液がバルゴの体内に注入されていく。
止めることはできなかった。透明な筒の中は空になり、注入器は地面へ落ちる。
そして、バルゴの身体の変異が始まった。
強力すぎる魔力汚染。
それによって、バルゴの身体は人間としての形を崩していき、細胞の異常な発達によって巨大化していく。
モンスターに近い風貌へと変化し、巨大化は部屋の天井付近まで到達する頃に止まった。
「バルゴ……」
そこにもうバルゴ・ベルドロールの面影はない。
両目は赤く光り、全身は長く白い毛に覆われ、鋭い爪と巨大な身体。
四足歩行になったその獣は、強力な魔力汚染によってのみ生まれる『魔獣』そのものだった。
そしておそらく、バルゴは魔獣でありながらも、魔法使いである。
魔法使いは別に、純粋な人間のみを指す言葉ではない。
バルゴは魔獣であり、魔法使いという極度に歪んだ存在になり果てた。
「ウガァァァァァ!!!」
バルゴの咆哮とともに、部屋に魔法鎧を着たベルドロールの私兵たちが集結してくる。
あらかじめ、叫び声が聞こえたら突入するように指示を出していたのだろう。
「……ワタ、ワタワタワタシ、ハ……エルバルク、二……フクシュウヲ……マチ、ヲ、ハカハカハカイシテヤル……」
魔獣バルゴは奇妙な言葉を話しながら、部屋の壁を突き破って外に出ていく。
「バルゴさまのあとに続け!! ベルドロール家の最後にふさわしい結末を! 偉大な魔法の力を王国民に見せつけるのだ!!」
魔法鎧を着た兵士長が叫び、部下たちが雄叫びを上げる。そして、彼らはバルゴのあとを追っていった。
私はそれを止めようにも、まだ黒装束たちの妨害を受け続けていた。
このままでは、城下町が甚大な被害を受ける。




