表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

勘違いしちゃいけない




「で、何で来たの?私明日仕事あるんだけど?」


次の日、隆人は何食わぬ顔で、私の部屋にやって来た。毎度毎度、ああやって借金取りみたいにドアを叩かれたらひとたまりもない。仕方なく部屋に入れたけど、最近合鍵を寄越せといわんばかりにやって来る。


こいつ、暇なの?


「電話するなとは言われたけど、来るなとは言われてないし。あ、これ母さんから~」


そう言って隆人は、紙袋をカウンターに置いた。またきっと、母の料理だ……。


「彼女の所行きなよ。」

「あれ彼女じゃないし。元、彼女。」


それ、ほぼ彼女みたいなもんだよね?


「あの子とはとっくに終わってんの。」


その終わった女が追いかけて来るのに、私に『もっと好きになって』って、何?普通に考えたら告白に聞こえるんだけど……


ん?告白?


「あのさ、本人目の前にして、こんな事聞くのも何なんだけど……」

「何?」

「まさかとは思うけど、もっと好きになれって…………あれって告白?」


隆人は深い深い、それは深いため息をついた。


「はぁーーーーーー。」

そして、しばらく黙った。

「………………。」


え?どっち?それ、どっちの反応?


「それは、いくら何でも鈍感の度を超してるよね?」

「えぇ!?」


嘘!!マジ!?マジなの!?


「そうゆう事か!……瑠璃に大人の余裕なんかあるわけがないと思ってたけど……。伝わって無かったって事か!!」


もし仮にあれが告白だとしたら……いや、仮じゃないのか。なんだかこの前の自分の対応が申し訳なくなった。


「あ、いや、ごめん。」

「わかれよ!!」

「いや、だからごめんて。」


だって、だって………………それぐらいあり得ない!冷静に。ここは冷静に。冷静に理由を聞いてみよう。


「じゃあさ、何で私なの?私を選ぶ理由は何?」


正直、自分より7つも年上のオバサンを好きになる理由がわからない。


「瑠璃はさ…………」


隆人は話始め、一旦黙った。


その後、こう言った。


「俺の他に、好きになる奴がいないからかな?」


なるほど~!って…………ん?おや?


「それって…………モテないって言いたい?」

「モテないどころか、ライバルがいないって所が安心だよ。」

「はぁ!?何それ頭来た!!」


それって、私は絶対に浮気しなからとか、虫もつかない干物女だからって事!?


「来い来い!!頭来い!!」

「ふざけんな!!」

「しかも、幼なじみなんてレアだよな~!」


隆人は私を煽りだした。私はそのふざけた隆人の頭におもいっきり頭突きをした。


「痛っ!!」

「頭に来たから、この前の勝負はノーカウント。」

「えぇ!?そんな、卑怯だぞ!?」


卑怯で結構。


「頭冷やしてから言って。冷やさないとコブになるよ。じゃあね。」


そう言って、急いで支度をして、私は家を出た。


頭に来て、向かった先は…………


吉高さんの所だった。吉高さんは日曜なのに、出勤していた。私は吉高さんのデスクの方へ歩いて行くと、吉高さんが私の異変にいち早く気がついた。


「瑠璃?何だ?その頭、どうした?」


多分、頭突きのせいで額が赤くなった。


「お仕事中すみません!!吉高さん、すっごくムカついたので、私と付き合ってください。」

「はぁ?」


他にも出勤している人達がいて、少しざわめいたのがわかった。


「私、めちゃくちゃ腹立ったんです。だから付き合ってください!」

「ちょ、ちょっと待て?少し落ち着け。とりあえず外に出るぞ。」


廊下に出ると、吉高さんは腕を組んで、首を傾げた。


「今のは何だったんだ?新手のドッキリか?」

「だから、私と付き合ってください。」

「?ちょっと待て。さっきムカついたからって言ったよな?」


そこをちゃんと聞き逃さないのが吉高さんだ。


「だって、モテないとか、ライバルがいないからとか、隆人にめちゃくちゃバカにされて……」

「で、俺に付き合えと?」

「あ、吉高さんが無理ならそこら辺の誰かに……」

そう言って私はオフィスのドアを開けようとした。

「待て待て待て!」


吉高さんは私を止めると、困った顔で言った。


「瑠璃が誰と付き合おうと構わない。ただ、そこら辺の誰かと思って付き合うのは許さない。勝手かもしれないけど、俺は瑠璃の兄だと思ってる。瑠璃がちゃんと幸せになれるように、俺は梨理の代わりに…………」

「ずるい……。」

「瑠璃……?」


自分の中の、箍が外れた。


「吉高さんはずるい!!いつもそうやって逃げて……」


止まらなかった。いつもは全然ちゃんと言えないのに、その時だけは、溢れ出て来る言葉が止まらなかった。


「はっきり言えばいいじゃないですか!梨理に似てても、梨理じゃない。だから好きになれないって。」


ずるいのは、私の方だ。隆人を理由に、こんな形で吉高さんに告白した。


こんな形でしか、告白できなかった。


それでも、ちゃんとフラれなきゃ………………


これ以上、前に進めない気がした。


電話がかかって来た。


「電話来てる。出た方がいい。」


そう言って吉高さんはオフィスに戻って行った。


電話は、隆人からだった。


「もしもし?」

「………………。」

あ、そうだった……。これも慣れなきゃ。


私は携帯を左手に持ち変えて、電話に出た。


「もしもし?」

「あの、瑠璃、さっきはごめん。」


すると、突然、携帯を持つ手を掴まれた。


え?誰?何?


振り返ると、それは、吉高さんだった。


私は手に持っていた携帯を思わず落としてしまった。


カッシャン。と、携帯の落ちる音だけが廊下に響いた。


「瑠璃?聞こえてるか?」


携帯からは、隆人の声が響いていた。


「吉高……さん……?」

「あ……悪い。電話が終わったら、話がある。もう一度呼びに来い。いいか?帰るなよ?」

「え?あ……はい……。」


それから、隆人との電話に戻ったけど、内容が全然頭に入って来なかった。


ただ、自分の心臓の音だけが、頭に響いていた。


落ち着け。落ち着け自分。


勘違いするな。


これは、驚いただけ。驚いたから胸がドクドク言ってるだけ。


勘違いしちゃいけない。


期待しちゃいけない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ