干し柿篇 【干す】について
「では……次は干すと云う行為に対しての差異を明らかにして貰うとしよう」
「主様の命を受け、宝剣殿の指示を受けました百科が申し上げます。
春香様にとって干すとは、
有機物質の余分な水分を太陽光により蒸散させ、有機物質の旨味を引き出す・増す・食するに辺り邪魔となる物質を変じさせる事。
と云う行動に他御座いません。勿論、無機質を干した場合、また、春香様にとって食すに値しない有機物質に対して行う干すと云う行為も御座いましょうが、此の場は春香様曰く【料理】に値する物に対してのみとさせて戴きたく存じます。
ですが。
此の国におきましては、
干す と云う行為で行われます 陽の光に晒す と云う行為自体がかなり危険な行為で御座います。
陽の光=太陽光は、其れだけで既に凄まじい力の塊であり、此の土地に生きる存在全てが常日頃から其の凄まじい力を受けているが故に、此の国において人は力の行使を行う事が出来るのでございます。
其れ程に強い力の塊である 陽の光 に 長時間あてる と云う事は、其の 強大な力 を 対象物へ吸収させている と云う以外の何物でも御座いません。
陽の光を過分に受けた場合、此の土地に在って強者である人でも適切な処置を行う必要がありますが、なんの処置もせず放置致しますと肌が黒く変色してしまいます。此れは太陽光と云う力に体が抵抗しきれず、体組織が変異した事を示す現象で、酷いものになると命をも落とす原因となります。肌の黒化は生体として弱い存在にも発生する事柄で在ります事も合わせて申し上げます」
「まあ、陽の光に長時間あてる……等、正直狂気の沙汰ではあるな(苦笑)」
「ですが、森の竜女殿にとっては陽の光にあてる……即ち、干す、と云う行為は日常的な物だそうですよ。我が主様が先日森の竜女殿が 寝具 を 干している 処に遭遇したそうです(困惑と苦笑)」
「寝具を……?(驚愕)」
「ええ。
布団が暖かくなって気持ちいい
のだそうですよ」
「考えられん……」
「全くです……」
「では、御役目を全うしたと判じました百科が、お暇致します。御機嫌よう」
(出現と同じく蛍火と共に消えてしまう)
「まあ、斯様に差異が生じた中で、森の竜女殿が作った 干し柿 なる物が、どれ程の脅威になるか……片鱗は感じ取れたのではないか」
「そうですね。 果実 しかも 柿 しかも 渋柿 を、 干して 生成された 干し柿 は、私達にとっては暴力的な迄に力を内包した物質ですから(苦笑)」
「救いは、 干し柿 は、名前から生成方法の察しが付く、と云う点でしょうか」
「(重々しく頷きながら)誠に。でなければ吾が主は大参事に見舞われておったわ」
「ですが、何故強力であろう力を感知できなかったのです。西洲の棟梁を名乗られる程の方が(純粋に疑問な様子)」
「(苦笑して)力は感じ取れていたからこそ、中身を問うたのだが。まあ、主は損得を考える事に長けておられるのでな。箱の中で渦巻く力を感じて莫大な利を得られると考えたが、あまりの力に多少の引っ掛かりを感じ、森の竜女殿に問い質した、と。云う訳だ」
「成程。……我が主様であれば、其の場で一緒に作り出しそうで恐ろしいですが」
「汝も苦労するの……(少々同情的な視線)」