12話 神々の金貨
俺はこの世界で、モンスターとの戦闘は初経験となる。
「メェェグォォォゥゥゥゥゥゥ!」
【鉄食い大羊】のフォルム自体は全体的に丸みを帯びていて可愛らしい。しかし、その顔つきは馬が狂暴化したみたいで、鋭く大きな歯をガチガチ鳴らしながら突進してくるのは化け物じみている。
端的に言えば実戦、めっちゃ怖いわ。
できれば戦いたくない。
そんなだらけ切った思考に応えてくれるのが、お共であるヘリオとシロナだ。
「————【絶対の盾】」
不可視の大盾を展開したシロナによって、【鉄食い大羊】の猛進はガツンと強制終了させられる。
「————【赤帯びの炎槍】」
シロナが動きを止めた隙に、ヘリオが高熱を纏わせた長槍で渾身の一突きをみまう。
ジュッと金属が溶ける音とともに、長槍はずっぷりと【鉄食い大羊】の横腹深くに沈みこんだ。
「メェェェェェ!?」
驚愕と苦痛が入り混じった叫び声は、数瞬後に断末魔へと変わる。
「————【竜星斬り】」
すかさずシロナが竜のブレスを剣に宿し、さながら流星のごとく【鉄食い大羊】の頭上から剣を振るう。
あっという間に【鉄食い大羊】は脳天をスパっと綺麗に両断させられ、完全に沈黙。
「ヘリオさんはどうして初めから頭を狙わなかったの?」
「確実に弱点を狙える状況を作りたかったのですよ、シロナ殿」
「ふーん。僕なら絶対に外さない自信があるけどなあ。ネロ先生の前で苦戦してる姿なんて見せちゃいけないと思うね。だって、ネロ先生の教えを貶めるようなものでしょ?」
「ネロ様の御前ですので、万全確実な危険除去に徹するのが従者として、当然の務めかと。奴隷騎士殿には、その辺の判断力が伴っていないのもまた当然ですか」
せっかくモンスターに初勝利したのに、二人は張り合っているようだ。
『スキル【ヒモ】の条件達成:女性に魔物からの危機を救ってもらう』
『詳細:17Lvのモンスター』
『スキル【存在感知Lv1】を獲得しました』
おっ、【存在感知】と言えば幽鬼など実態がない魔物の存在も把握できるレアスキルだぞ。透明魔法などの特殊な方法で姿を隠蔽する者も感知できるのはありがたい。
従者と奴隷騎士の不仲がちょっと残念だけど、世界の声を聞けた俺は上機嫌で二人を労う。
「二人ともよくやってくれた」
「ネロ先生のためなら当然だよ」
「ネロ様のためとあらば、いついかなる時も全力を尽くす所存でございます」
「ではさっそく魔物の死体だがシロに回収してもらおう。【宝物殿の守護者Lv3】で頼む。それとやや大きめの鉄キノコも、根本から切断していくつか入れておいてくれ」
「はい!」
「ヘリオには引き続き、冒険者ギルドへ納品用の鉄キノコを探してほしい」
「かしこまりました」
そして俺はといえば、アレがないかつぶさに周囲の鉄キノコを観察していく。
鉄キノコを見上げながら一房一房を丹念に、特に円盤鉱物が重なりあっている層を注視する。
しばらくするとお目当ての物が見つかった。
「あったぞ……【巨神の白金貨】だ」
それは鉄キノコの房に挟まるように存在していた。
一つだけ真っ白な層、それこそが神々の通貨として扱われるコインなのだ。
あの大きなコインを一枚捧げれば、神や神獣などを召喚できるため『ガチ百合』では『御縁玉』とも呼ばれていた。
「シロ。あの鉄キノコを切り取れるか?」
「はい!」
元気よくシロナが横一閃に剣を振るえば、巨大樹みたいな鉄キノコはズシンと横たわった。危うく下敷きになりそうだったので、ちょっと肝を冷やす。
「こ、この鉄キノコは邸宅まで持ち帰り、後に加工する」
「はい! ネロ先生!」
こうして俺たちは順調に鉄キノコを採取し、日が沈む頃には冒険者ギルドへの納品を完了させた。
ふっふっふっ……この冒険で色々な材料がそろったのでこれからが楽しみだ。
素晴らしきヒモライフ夢想がはかどるはかどる。
本日のお忍びは順風満帆だった。




