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魔王、メルンを探す

 メルンは成長するにつれ、お人形遊びには興味を示さなくなってきた。

 おかげで我は久々に元の偉大なる姿へと戻ることができた。このこと自体は喜ばしいことなのだが、少し寂しいと感じるのは何故だろうか。


 不思議なことに、この城に来てすぐの頃はあれほど泣きわめいていた少女が、今や我の姿を見ても泣かなくなっていた。むしろ、我を見つけると「ベルムトあそんでー!」一目散に駆け寄って来るほどである。

 ガリガリで病弱だった身体も今ではすっかり健康体だ。身長も最初の頃に来ていた服が来られなくなるくらいには大きくなっていた。


「もーいーよー」


 我はかくれんぼをしていた。

 鬼はもちろんメルンである。我が隠れる役である。


「ベールームートー、どーこなのー」


 メルンは我を見つけられないと(いや、大して探しもせずに)、我に居場所を主張させるのだ。

 だが、その手には乗らん。


 ──ウィスパー・ボイス


「こちらである」


 我は明後日の方向から声を発生させる。

 幻惑魔法の一つであるが、こういったユーモアを取り入れた方がメルンが喜ぶのである。

 普段なら支配のモリスか、破壊のボルディエあたりを囮にする所だ。


 魔法で撹乱した後は、息を殺してメルンが探しに来るのを待つのである。


 ……。


──遅いな。


 城内全域を使った広大なかくれんぼではあるが、普段ならそろそろ我を見つける頃である。しかし、長い沈黙が続いていた。

 我は隠れていた壺──常闇の壺という名のマジックアイテム──から顔を出し、あたりを伺うがメルンの姿がない。


 仕方あるまい、兵を動員して捜索するとしよう。


「おい、誰かおらぬか?」


 四天王である支配のモリス、破壊のボルディエ、天秤のレイシー、慈悲のメティーラ、全員に呼びかけるが返事がない。


 ああ、そうであった。

 我が優秀な配下たちは、人間の国々へ知育玩具と子供服を探しに行くために出払っているのであった。

 元々は参謀に命じただけだったのであるが、どこから聞きつけたのか四天王たちが各々が自らの部下を連れて、先を争うように人間の国へと向かったのだった。その後、噂は瞬く間に広がり、最終的には場内の全ての兵士が人間の国へと向かってしまったのである。

 何も我一人を置いて、全軍で行く必要なぞ無いと思うのだか……。まあ、彼らがそうしたいと判断したのなら、良しとしよう。


 ふうむ。案外、皆メルンのことが気に入っているのやも知れぬな。


 そういうこともあって今現在、この城に残っているものとしては警備用のゴーレムと給仕用のホムンクルスくらいだろう。彼らにメルンの捜索を命じたい所だが、複雑な命令を苦手とする故、この任務には向いていない。


 そういう訳で、とにかく今は人手が圧倒的に足りないのである。


「仕方ない、魔法を使うか」


 あとで「ベルムト、ずるい」とヘソを曲げられてしまいそうではあるがやむを得ぬ。

 しかし、我を名で呼ぶようになってしまったのはいつからだろう。「魔王様と呼びなさい」と慈悲のメティーラが何度言っても一向に改善されないのはどうしたものか。

 泣いてしまうだろうが、心を鬼にして我からきつく言ってやる必要があるだろうな。


 我はそう思案しつつもメルンを捜索すべく遠見の魔法を発動させる。


 ──クレアボヤンス


 我の左目に場内の光景が映し出される。

 いつものパターンだと、タマ(メルンがこの城にきて少ししてから生まれたエンシェントドラゴンの幼体)の様子でも見に行っているはずだ。


「ふむ。タマの所には居ないか。一体どこに──」


 我が城内をくまなく探していると、


「──ッ!!」


 左目に鋭い痛みが走り、魔法が弾かれたような感覚を覚えた。

 それと同時に強い聖なる気配を感じる。

 この気配は──


「まさか勇者か……!? よりによって部下の留守を狙ってくるとは、なんと卑劣な!」


 勇者。

 我の宿敵にして、我らが魔族を一方的に殺戮せしめんとする邪悪な存在。

 邪神の加護を受けた人間の英雄である。


「メルンが拐われたやも知れぬ。少々本気を出すか」


 我は勇者の魔法防御を突破すべく複数の魔法を同時に展開する。


 ──マジック・スルー

 ──マジック・リフレクト・ブレイク

 ──シャドウ・ベール

 ──アーク・クレアボヤンス


 最初に目に飛び込んできた光景は、無残に破壊されたゴーレムたちの姿だ。

 まあ奴らは魔力さえ供給してやればすぐに復活する。すまないが後回しだ。


 我はそのまま城内を隈なく見回す。

 勇者の攻撃によるものだろうか、致命傷を負ったホムンクルスメイドの姿が目に入る。

 彼女は確か、メルンの世話係だったはずだ。ひどい傷だが、命に別状はない様子だ。


 我の魔力に気づいた彼女は、血のついた指先である方向を指差す。


 指差した方向は転移の塔の方角だった。

 勇者め、転移で逃げるつもりか。


 ──急ぐ故、貴様をすぐに助けてやれぬことを許せ。


 我はホムンクルスに心の中で詫びた後、転移の塔周辺を重点的に探す。


「見つけたぞ誘拐犯! 勇者に、ウィザード、クルセイダー、賢者も居るな」


 見るとメルンを抱きかかえた勇者とその一行は、転移の塔へ向けて走っている。

 どうやらメルンは魔法で眠らされているようだ。


 ──このままではいかんな。


 このまま転移の塔にまで逃げ込まれると、人間の国までテレポートされてしまう可能性が高い。

 そうなれば、教会や騎士団の連中まで出張ってくるだろう。

 故にそれまでに娘を魔の手から救出せねばなるまい。


 勇者パーティー全員が相手か、少々厄介だが、


「勇者ごとき、我の敵ではないわ。叩き潰してくれる。覚悟せよ人間ども」


 魔王は、勇者を叩き潰す。

誤字報告ありがとうございました!

ひどい誤字でした……猛省orz

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― 新着の感想 ―
[良い点] 四天王がみんな優秀……かどうかは微妙なところですが、すごくやる気はあるみたいですね。 勇者たちがわざわざさらいに来るということは、やはりメルンには何かいわくがあるのでしょうか。
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