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13.初めての戦闘~異世界編~


「ライオン!? なぜにライオンが山の中にいるのでござるかっ!? 理不尽でござろう!」


「ヒグマの方がヤバいだろ」


 百獣の王と呼ばれるライオンではあるが、実際には虎や羆の方が巨体であり、おそらくこの三頭で戦闘になれば羆が勝利するだろう。

 しかし人間にとっての危険度となればそれは大した差がなく、相対すれば待っているのが死であることに変わりなかった。

 さらに言うなら、ヒロトたちに迫っているのはただのライオンではないようだ。ライオンの額にはクリスタルのようなものが埋め込まれていて、尻尾はまるで釘バットだった。通常のライオンのそれではなく、バットのように太く、長い棘のようなものが生えている。


「やっぱりあれかい? モンスターっていうやつじゃないのかい?」


 要の言葉にヒロトは頷いた。

 マンティコアという獅子のモンスターの名前を聞いたことがあったが、どうやらそれに似ている。


「卓、これを持ってろ」


 ヒロトがそう言って渡したのはナイフだった。

 卓が驚きながらそれを受け取る。


「ヒロト殿、普段からこんなものを持ち歩いているのでござるか? やっぱり輩ではござらんか」


「うるさい、今はそれよりもあいつを倒すことだけを考えろ。お前の体重なら、この距離から飛び降りて突き刺せば致命傷になるかもしれない」


「えー! 絶対に嫌でござる!」


 ヒロトはそれ以上卓には何も言わず、要に目で合図を送った。いざとなったら突き落としてくれと。要がうなずく。

 

「それで、君はそれ(・・)で戦うつもりなのかい?」


 要が視線を送った先には、ヒロトの手に握られた組み立て式のボウガンがあった。拳銃ほどのサイズしかないが、殺傷能力は極めて高い。


「ちょ、ちょっと待つでござる。そんなものまで普段から持ち歩いていたのでござるか?」


「ああ、おかげで心強いだろ?」


 ぎょっとしたままの卓を尻目に、ヒロトはボウガンをセットした。


 ライオン、改めマンティコアは悠々と大木に近づいて来ている。そこに隠れていることなどお見通しだというように。

 犬の嗅覚が人間の百万倍以上だというのは有名な話であるが、猫はそれほどまではいかないにしても、悠に人間の二十万倍以上はある。もっとも昼間に襲われている時点で、このモンスターがネコ科であるという保証など一つもないのだが。


 ヒロトは一応ネコ科の動物を考えながら、どこに狙いを定めるか考えた。

 順当に考えれば鼻であろうが、マンティコアの額に輝くクリスタルも怪しい。

 どっちにしろ、今撃ったところで躱されるのは必至なので、隙ができるのを待つしかなかった。


 マンティコアがこちらを見上げている。

 距離はまだあるが、まるでこれからどう料理してやろうか考えているようだった。


 ふいにマンティコアの尻尾が不自然に横に曲げられた。

 嫌な予感がする。

 ヒロトがそう思った瞬間、それは起こった。

 マンティコアの尻尾が高速で振られた。まるで野球選手がバットを振るみたいに。

 何をしたのか、嫌でもわかってしまう。


 ヒロトは引き金を引いた。

 同時に飛来した二十センチはあろうかという長さの針を、片手で二本キャッチして見せた。

 飛んできた針は五本であり、残りの三本のうち、一本はヒロトたちに到達することなく途中で枝に刺さり、一本は要が飛んで違う枝に移動したことにより躱し、そして最後の一本は卓が驚異の反射神経を見せたことにより、卓の額に当たる直前で彼の真剣白刃取りにより止められていた。


「おお、お見事」


 ヒロトが暢気に拍手すると、卓はギギギとこちらを振り返ってきた。


「し、死ぬ」


「まぁ、このままだと確実にな。なんかお前らも都合よくスキルとか魔法に目覚めたりしてくれれば何とかなると思うんだが」


 ヒロトは一番期待できそうな要に振り返ってそう言った。

 さすがの要も今はいつもの笑顔ではなく、厳しい目でマンティコアを睨んでおり、余裕など微塵もなさそうだ。


 それでもヒロトの話には耳を傾けていたらしい。


「参考までに聞きたいんだけど、鷲目君はどうやってそのスキルとやらを手に入れたんだい?」


「そうだな、めっちゃ集中した。自分の内側には何も見つけられなくて、外側に集中したらすぐだった」


「ふぁっ!? 何ですか、そのふわっとした答えは!? 命が掛かっているんですぞ!」


 文句を言う卓であったが、反対に要はうんうんと頷いている。


「なるほど、わかったよ」


「天才なんか大っ嫌いでござる!」


「あ、ごめんね、ヒロト。私も全然わかんなかったわ」


 もともと二人にはあまり期待していなかったため、ヒロトはそれ以上は何も言わず、目の前の脅威に集中することにした。


 さきほど撃った矢であるが、それはマンティコアの額にしっかりと命中していた。

 しかしそれくらいでは傷一つ付かなかったようで、マンティコアはダメージ一つなくピンピンとしている。


「もう少しで何か掴めそうな気がする。集中していた時に、他に何か考えなかったかい?」


 ヒロトは内心でさすがだと舌を巻きつつ、その時のことを思い出した。


「日向と花を見つけようと思った」


「ヒロトったら……」


 何やら日向が顔を赤らめているが、かまっている余裕はない。

 マンティコアが再び何かを仕掛けようとしているのだ。


 マンティコアはその巨大な頭をヒロトたちのいる木の上へと向け、口を大きく開いていた。かといって咆哮しているわけでもなく、どうやら何かを狙っているらしい。

 それが何かわからない以上、ヒロトは何かされる前に妨害することにした。


「おい、卓。念のためもっと上に上がっておけ」


「わかったでござる」


 卓に指示を出しつつ、ヒロトはマンティコアの鼻目掛けて矢を射出した。


 その矢はあっさりと避けられてしまった。

 もちろん計算の上であり、真の狙いであるマンティコアの妨害には成功していた。だが矢の本数には限界がある。このままではジリ貧だろう。


 それに気付いているとは考えられないのだが、マンティコアが懲りずに同じ動作を始める。

 ヒロトはカウンターを狙う作戦に切り替え、右手でボウガンを構え、左手を日向の腰に回した。


「ちょっ、ヒロト、こんな時に何するつもり!?」


 何かバカなことを言っているなと、ヒロトは聞き流しつつ、その瞬間に集中した。


 マンティコアがこちらに目掛けて口を開いている。

 次の瞬間、何かがヒロトたち目掛けて飛来した。

 ヒロトはそれが発動する瞬間を見逃さなかった。マンティコアの立つ地面から枝や葉が舞ったのだ。

 もちろんそれが何かなんてわからなかったが、ヒロトは日向を抱えたまま飛び上がり、その攻撃を躱していた。同時に矢を射出することも忘れていない。

 一気に卓が移動した木の枝まで飛び移ったのだが、さっきまで自分たちがいた枝は何かの攻撃によって切り飛ばされている。


 さすがのヒロトも今のでかなり体力を消耗し、肩で大きく呼吸していた。


「今のは鎌鼬か?」


「そうっぽいでござる」


 隣に立つ卓に確認しつつ、ヒロトはマンティコアを観察した。


 矢は鼻に命中しなかったものの、背中に命中していた。しかし致命傷には至っておらず、むしろますます怒らせたようで、釘バットのような尻尾を地面に打ち付けていた。

 今の鎌鼬を外したことで遠距離攻撃をする気は失せたらしいが、ヒロトたちを諦めた様子はない。真っ直ぐにこちらを睨み据えたままだ。


 マンティコアが態勢を低くした。


「ちっ、直接襲い掛かってくることにしたらしい。こうなったら卓を蹴落として……」


「嘘でござるよね!? さすがにそれはないでござるよね!?」


 ヒロトが少し卓に近付いたところで、上から「待った」の声が掛けられた。


「大丈夫、宝財院君を餌にする必要はないよ。もう僕たちの勝ちだ」


「特攻させようと思っただけだ。餌にしようとまでは思っていない」


「いや、どっちにしろ死ぬのでは!?」


「そんなことより、何かスキルを見つけたのか?」


 要はヒロトを見下ろしたまま、笑顔で頷いて見せた。

 それは実に爽やかな笑顔で、勝利を確信した顔だった。


「って、来るわよ!」


 日向が叫んだのと同時に、マンティコアが駆け出した。

 さすがは見た目がネコ科のモンスターである。

 その動きは洗練されていて無駄がなく、驚異的な速さだった。


 ヒロトが瞬時にボウガンを構えるのだが、それを撃つ必要は存在しなくなった。

 ヒロトたちの眼前、マンティコアの頭上に突如“腕”が現れたのだ。

 その腕は指先から肘までしかなく、その先がどこにつながっているのかはわからない。

 だがそんなことより何よりも特徴的なのが、その腕の大きさだった。


 ヒロトたちの眼前に現れた腕は、異常に巨大なのだ。

 この大木よりも遥かに長く太く、まるで天から振り下ろされたかのように。


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