10.パラサイトは咆哮する
便宜上、その雌雄の存在しない生物を仮に『彼』と呼称する。
彼は焦っていた。
まさか落雷が引き金となってワームホールが発生するとは夢にも思っていなかったのだ。
しかし自分がどこかに飛ばされてしまったことよりも、『マザー』に連絡が取れないことの方が問題である。
彼はマザーと常に意識が繋がっており、さらにマザーを介してすべての兄弟たちと繋がっている。
それが今はどことも繋がっていない。自分だけしか認識することができなかった。
ただ一つ幸いなのは、マザーと交信できないということは、このどこだかもわからないような惑星に、マザーが一緒に飛ばされていないということだ。
きっとマザーは今も地球のあの場所で、子どもたちの帰りを待っているはずだった。
それにこれはチャンスでもあった。
地球の生命体を食い尽くすにはまだまだ時間がかかるが、それも無限ではない。地球の生命体を食い尽くし、あの星が自分たちにとって何の価値もない死の星となり果てた時、この星はちょうどいい新天地となる。
だがやはりここで問題となるのは、マザーと連絡が取れないということである。マザーと連絡が取れないのであれば、この星の存在を教えることはおろか、帰ることすらできないのだ。
彼は決心した。
自分の力をほとんど使ってしまうことにはなるが、全力でメッセージを送るのだ。そうする以外に道はないし、もし仮にこのままマザーの下に帰ることすらできず、永遠にこの世界で生きていかなければならないと考えると恐怖を覚える。
きっと人間という種と出会っていなければ、恐怖を感じるということもなかったし、自分でここまで何かを考えるということもできなかっただろう。それが良いことか悪いことか、などはわからない。
すべての判断をマザーに委ねている彼としては、それを考えるのは自分の役目ではないとすら思っていた。
すべてはマザーの思いのままに。
彼は天に向かって吠えた。
全力で、あらん限りの力を使って。
「マザー、私はここにいるよ」と。
上手くすればそのメッセージは届くだろう。
すぐに届くことが決してないのは彼も承知の上だ。しかし何年、何十年も待てば、或いは。




