01.どうやら隕石が落ちてきたらしい
何の予告もなく、新作の連載始めました。
大きな衝撃。
どんな夢を見ていたかもわからないほど、急速に覚醒させられる。
まず初めに感じるのは不快感。眠りから無理やり引き起こされたことへの。
だがそれは一瞬で、徐々に自分に何が起きたのか意識し始めていた。
そう、衝撃があったのだ。今まで感じたことのないような、強い衝撃だったはずである。
あれは夢などではなかったはずで、事実、今も揺れている。
「何なの? 地震?」
そう零しつつも直感でそうではないとも思っていた。
ここまで強い衝撃を感じたのは初めてだったが、これと似た感覚を知っている。
落雷だ。
落ちた雷の強い衝撃により、立っていられなくなって転んでしまったことがある。これはそれによく似ていた。今回もベッドで寝ていなければ転んでいたかもしれない。
日向は何とかベッドから這い出る。電気を点けようとするのだが、点かなかった。もしかしたら停電かもしれない。
仕方なく机の横にあった非常用のライトを手に取り部屋を出た。
自分の部屋を出ると、まずはすぐ隣にある姉の部屋へと入っていく。
中に入ると電気を点けて、姉の花の様子を伺うとするのだが、やはり電気は付かない。ライトを照らし目を凝らしてベッドの方を凝視すると、布団が膨らんでおり、それがもぞもぞと動いていた。そもそもまだ起きてすらいなかったようだ。
「花、大丈夫?」
日向が声をかけたことで、ようやく布団の中から花がひょっこりと顔を出した。
「あれぇ? やっぱり揺れたんだねぇ。でも花はまだ眠いので、天変地異でも来たらまた起こしてください」
どうやら衝撃で一度起きてすぐにまた眠ったらしい。
花は再び布団をかぶってしまった。
「もう、何言ってんのよ! これだけすごい揺れなんだから天変地異かもしれないでしょ!?」
「大丈夫、花は全然眠れます」
これはダメだ。
きっと身の危険が差し迫った状態までやって来ないと起きないだろう。
二人がそんなやり取りをしていると、父親も起きてきた。
日向と花のいる部屋に懐中電灯を持ってまっすぐやってくる。
「おい、二人とも大丈夫か?」
「ん、大丈夫。花は眠いから放っておいてほしいって」
「あ、うん、そうか。ママもだ」
日向は父としばし目を合わせると、溜息を吐いた。
「なんか停電してるみたいだし、もう今日は寝よっか」
「そうだな」
そう言って二人は諦めたようにお互いの部屋へと戻っていった。
日向は自分の部屋へと戻り、ベッドの上に横になったところでスマホを見てみた。
新着メッセージが十件。
やはりさっきの衝撃で起きた人間がクラスメイトの中にも数名いるらしい。
中身を確認すると、うち三件はそれぞれ別の人間で、同じクラスの女子なのだが、他七件が同一人物だった。
差出人は“ヒロト”。
同じクラスの男子で、幼馴染だ。
奇しくも家も近所であるため、あの衝撃は確実に感じていたはずである。
まずは女子たちのメッセージを読んでみるのだが、どれもが「すごく揺れたね」とか、「大丈夫?」などの、気遣ってくれるような内容で当たり障りないものだった。
彼女たちにはすぐに「何だったんだろうね」や「こっちは大丈夫だったよ」と簡単に返信しておく。
残ったのはヒロトのメッセージなのだが、これが問題だった。
ヒロトのメッセージは最初こそ「大丈夫か?」と、まともなものだったのだが、次のメッセージから他の子たちとは全く違うものへと変わっていった。
二件目、「どうやら学校の裏山に何かが落ちたらしい」
日向はすぐに慌てて起き上がり、カーテンを開けて学校の方を見てみる。
確かにそこから煙が上がっていた。
見ているうちに消防車やらヘリコプターやらが騒がしくやってくる。
気にはなるが、メッセージの続きも気になるため、そっちを優先することにした。
三件目、「煙が上がってる。隕石か、衛星か?」
四件目、「調査を開始する」
「マジか、アイツ……」
ヒロトは昔からそういう人間である。気になったら自分で見に行く。好奇心の塊のような人間だ。
五件目、「裏山到着。やったぜ、多分一番乗りだ」
六件目、「なんかすごい臭い。何の匂いかわかんねぇよ」
「ちょっと、無理しないでよ」
ヒロトの話では、もしかしたら宇宙から飛来した何かかもしれないらしい。
本当にそうだった場合、日向は毒とかウイルスとかが心配だったのである。
もちろん飛行機やヘリコプターなどの可能性もあるが、日向の頭にはなかった。
七件目、「渋川に見つかった。撤退。くそが」
渋川というのは日向たちのクラスの担任である地学を担当する教師だ。
どういう状況か日向にはわからないが、ともかくヒロトは渋川と遭遇し、帰されたらしい。
ヒロトは悪態をついているが、日向は安堵の息を吐いていた。
ヒロトはかなり成績が優秀な方ではあるが、自分たち子どもが下手に首を突っ込めばどんな事故が起きるかわからない。
こういうことは大人に任せておけばいいのである。
日向は安堵すると同時に腹が立ってきており、とりあえずヒロトに連絡を入れることにした。
ワンコール、ツーコール、となかなか出なかったのだが、八コール目でようやく出た。
「ちょっとヒロト、あんた今どこにいんのよ?」
「ん? 家に着いたとこだけど?」
「何よ、その『何か?』みたいな態度。今何時だと思ってんの? 高校生がこんな時間に出歩いて、危ないでしょうが」
「お母さんか……。 いや、うちの母ちゃんには『気を付けて』って言われたけどさ」
日向は呆れてかぶりを振っていた。
ヒロトは昔からこうだ。
親ですら諦める好奇心旺盛な猪突猛進男。というよりは親だから諦めたのだろう。止めても聞かないのであれば、せめて怪我をしないようにしてもらうしかない。
日向も付き合いは長いが、まだ諦めるわけにはいかなかった。
ずっと口酸っぱくて言っていればいつかは伝わるかもしれない。
「そんなことよりもさ、やっぱりあれは隕石かなんかだって。変な匂いしたもん」
ヒロトを心配して電話をしたのだが、こうして無事な様子を確認できると安堵する。むしろいつもよりテンションが高い。
同時に、何が起きたのかというのも気になったわけで、思わずヒロトの言葉に好奇心を抱かずにはいられなかった。
「結局何だったの?」
「だからさ、途中までしか行けなかったんだって。俺が一番乗りだと思ったんだけど、渋川が先にいたらしくて。子どもは早よ帰れって。あの野郎、勝ち誇った顔しやがって」
渋川は髭面で眼鏡をかけた中年の男だが、少し子どもっぽいところがある。
もしかしたら渋川も好奇心だけで見に行ったのかもしれないが、アレでも一応教師で大人だ。少なくともヒロトよりは上手く立ち回れるだろう。
「わかったわ。とりあえず明日になればニュースも出るかもしれないし、今日はもう寝ましょ。てか、寝なさいよ」
「わかってるよ。お母さんか」
ヒロトは最後に悪態をついて電話を切った。
心配事が無くなった日向も、今はとりあえず朝まで寝ることにする。
起きれば何かがわかるだろう。
今でこそ停電しているが、朝になればさすがに復旧しているだろうし、テレビを見てわからなかったとしても、渋川が直接現場を見に行っているのだから。
もう一度横になると、すぐに睡魔がやってきた。
日向は再び目を閉じる。
いつもより暗い街の夜で。
このあと、もう一、二話投稿します。




