0×10つめ
最終回です。
夏風さんは私を見て、ゆっくりと言った。
「お人形さん、お人形さん どうか 二階堂 亜美を殺してください」
「何を言ってるの」
それしか言葉が出てこなかった。
教室が暗いせいか、夏風さんの顔はよく見えない。
でも、きっと笑っているのだろう。
「嘘よ。こんなんでお人形さんが来るわけないでしょ。」
確かに、ここではできない。そもそも2人いる。
夏風さんは、私の方へとゆっくり歩いて来ていた。
月の光でうっすらと、夏風さんの顔が見えた。
その顔は、とても恨んでいる顔だった。
瞬間。
私は床に押し倒される。
夏風さんが私の上に馬乗りになっていた。
「なつか、ぜ、さん」
夏風さんは私の首を絞めた。ぎゅっと。力一杯。
私は抵抗しなかった。
その顔には「死ね」と言っているように見えた。
声には出さずとも、そう聞こえた。
意識がうっすらとなる時、勢い良く扉が開く音がした。
「二階堂さん!」
聞いたことがある声だった。
「さ、くら、だ、さん」
夏風さんの手が微かに緩まった。
私は夏風さんの手を払いのけ、後ずさる。
「なんでここにいんのよ?」
桜田さんはじっと夏風さんを見ている。
「中休み、話してたの聞いてたから。何するつもりだったの?」
桜田さんは、怒っていた。
静かに、怒っていた。
「べっつにー。」
夏風さんは桜田さんをじっと睨んでいる。
「もう、帰るわ」
愛想がついた と言わんばかりに夏風さんは教室から出て行った。
桜田さんが、私の方へ駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「うん…平気」
桜田さんは、ゆっくりと口を開いた。
「お人形さんはね。きっと願いがあるんだよ」
「願い…」
願い…なんの願い? それが、わからない。
みんな言っていた。願いがある、と。
「お人形さんは、望んでいる…。人間になりたがっている…。」
「お人形さんの願い、叶えてあげて」
臨んでいる?人間になりたがっている?
なんで人間になりたがっている?
なんで、なんで…
あぁ、そうか。簡単なことじゃないか。
お人形さんはー
「美空に会いたいんだ」
私は立ち上がり、叫んだ。
お人形さんに聞こえるように。
「お人形さん!お人形さん!美空に会わせます!だから、この悪夢を 終わらせて!」
ガタリ
どこかで物音がした。
きっと、お人形さんだ。
私は桜田さんを見た。
桜田さんは、こくりと頷いた。
私たちはこの廃校舎から出て精神科へ行った。
もう、深夜1時を過ぎていた。
美空には、今から会いに行くとだけメールした。
精神科へ着いて、裏口へと回る。
この前、美空から聞いた。
暇な時、よくここから出て外に行っている と。
階段を静かに早足で上る。
美空の病室に着き、ドアを開けた。
美空はもう、起きていた。
「どうしたの?こんな時間に」
私は一呼吸してから、言った。
「あのね、美空。お人形さんはね、ずっと美空に会いたかったんだよ」
美空の顔には、驚きと恐怖が入り混じっていた。
「だから、お人形さんは美空のことを殺そうとなんかしてない」
美空の目から涙が零れ落ちた。
私はドアの方に振り向いた。
そこには紛れも無い、お人形さんが立っていた。
お人形さんがトタトタとゆっくり美空の方へ、歩み寄る。
お人形さんも泣いていた。
美空はお人形さんを抱き抱えた。
「ごめん、ごめんね。ごめんなさい」
美空は泣きながら謝っていた。
お人形さんは泣きながらも笑顔だった。
とても暖かそうに。フワッとお人形さんが消えていく感じがした。
あぁ、これで悪夢は終わったのだ。
もう、誰も不幸にならなくていい。
苦しまなくていいのだ。
お人形さんは、0に何をかけても0のように、ただ無意味なことをしていたのだ。
でも、それももうしなくていい。
悪夢は終わったのだから。
読者のみなさん、今までありがとうございました!
これにて完結です




