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「乙女はお姉さまに恋してる―after.elder―」  作者: かずとん。
―Virgin and my male daughter―
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第12話『勝つ為の行動』

翌朝、自稽古当日。早くに目が覚めた俺は寮の庭で最終鍛練に入っていた、と言っても一人で素振りだけど。


「ふっ!ふっ!!せいっ!!」


庭中に声が響く。それに気がついたのか2階の窓から顔を出してきた乙女が


「おはようございます。確か今日でしたか?」


普段静かな声の海莉は声を張る、俺は素振りを止めて。


「はいっ、今日が本番ですので最後の特訓をしています!朝食なら先に召し上がってください」


「なら、お弁当にしてもらいます。庭で皆さんと食べましょう」


海莉はそれだけを言うと窓を閉めて居なくなった。俺はまた竹刀をビュンッ!と素振りを再開。


「相手がどんな手で来るかわからないし、何かしら考えないと……」


しばらく考えながら素振りをしていると、海莉に夜埜依と果歩が加わったようだ。


「ご機嫌よう、璃季さん。休憩致しませんか?」


「お弁当持ってきました。サンドイッチです」


「はぅ、私が先に渡すつもりが海莉お姉さまに取られてしまいました…」


果歩は軽く落ち込む、俺は彼女の頭を撫でてあげる。


「ありがとう果歩ちゃん。またお願いしてもいいかしら?」


ニッコリと笑顔を果歩に見せると、彼女はパァっと笑顔にして。


「はいっ!お任せください!お姉さまの為ならなんだってします!」


「果歩ちゃんは璃季さんになるとすごく元気になるんですよ?」


「お姉さまのこと好きですから!キリッ」


俺は苦笑いをする。嬉しいけど騙してると思うと心が痛い、しかしこれも頼まれた上に俺が決めたことだ。この少ない一年でやり遂げて見せる。


「そう言えば、6月末にはエルダー選挙がありますわね。」


夜埜依が気になることを口にした。


「エルダー?聞いたことしかありませんがどう言ったものですか?」


「正式名称は『エルダーシスター』、略されてエルダーと呼ばれます。」


海莉が話すと続けて夜埜依が語り始める。


「毎年6月末に投票を行って、エルダーを決めます。エルダーは学院の生徒の見本となる存在です、エルダーに選ばれるには全校生徒の75%以上の獲得票数が必要となります。」


「75%ってほぼ得なければ行けないのですね。」


俺はメモを取る、むつかしい事は嫌いだからなぁ。


「エルダーは本職では有りませんから、特別な権限はありませんが、同学年または下級生からはお姉さまと呼ばれるようになります。過去に二人のエルダーが居ましたが異例でしたし、今回はどうなるか楽しみです。」


「エルダーですか、候補者などは?」


「候補者は立てずに行うので誰がなるかはわかりません。」


「本番になるまではわからないのですね、私には無理なお話なんでしょうけど」


俺は苦笑いしながら答えると


「6月末まで時間はありますし、大丈夫ですよ!お姉さまならエルダーになれます!がんばりましょっ!!」


果歩ちゃんは俺の手をとりブンブン縦に振る。


「あ、ありがとう…あはは」


俺は立ち上がり竹刀を握る。


「まずは、目の前の皇紀さんを倒しましょ?負けたくありませんしっ」


3人は口をそろえて、はいっ!と高らかに返事をした。3人は先に武道館に行くと言って別れ、俺も制服に着替え直して寮を出ると


「璃季さん、ご機嫌よう。」


「影祢さん、ご機嫌よう。どうかしたのですか?」


影祢が寮の正門に現れた、紫色の風呂敷を持って。


「いよいよ今日ですし、応援の前に激励を。璃季さんなら勝てます、自身もありますし大丈夫です。」


「ありがとうございます、さて、行きましょうか。敵は本能寺にあり!がんばります」


寮の前だから学院モードだけど、それはお互いわかっている。必ず勝つ、あの人のあのやり方は間違えてると教えないと。



そして武道館、中に入ると。


「うわぁ、すごい人だぁ……さすがは全国連覇の試合だなぁ」


思わず口を開けたままになる、後ろから付いてきていた鴒に話しかけられた。


「お嬢様たるものが、口をあけて惚けているのはいかがでしょうか?」


「コホン、そのような事はありません。それより道着は持ってきてくれましたか?」


鴒は道着が入ったカバンを渡してくれた、それを受け取り更衣室にいく。まぁ、女子更衣室だから鴒にガードしてもらいながらだけど。道着に着替えると挨拶に行くことにした、もちろんあの人に


「ご機嫌よう、皇紀さん。今日はよろしくお願いします」


彼女は振り向き、冷たい顔をして


「……あぁ、負けるつもりはない。」


「1つ賭けをしませんか?」


そう、やはり勝負には賭けがいる。ただ勝ち負けではスッキリしない。


「面白い。いいだろう、璃季さんが勝ったらどうする?」


「今の部活のやり方を見直してもらいます。私が負けたら」


「一切の関与をやめてもらう。」


なるほど、関わって欲しくないんだな。まぁそれならいいか


「わかりました。では、始めましょう。」


一度別れて、防具を装着。すると応援に来た影祢を含めた四人がこちらに来る


「応援してますよ!」


「いけー!お姉さまぁ!」


「がんばってください。」


「ありがとう!がんばりますね!」


3人の声と、側にやって来て、がんばってください。と告げる影祢の声を胸に秘めて、試合を開始する。ギャラリーは静かにこちらを見ている。ヒソヒソ聞こえたりするが、この程度はなんともない。


お互い竹刀を構えて左右に動きながら隙を探す。試合は3本時間無制限。審判3人もしっかりこちらを見てくる


「やぁぁぁぁあ!!!」


あちらから先に面を狙ってくるが、それを防ぎ鍔迫り合いに持ち込む。女の子なのに重い一撃だ、下手をすれば竹刀を吹き飛ばされる。あの時みた右手の豆や皮膚が固くなったのを見ると、この人は相当練習をしたんだろうけど、左手ではなく、右手で振る癖がついてしまったんだろう。面の振りがおかしいがうまく誤魔化している。


俺は鍔迫り合いから下がりながら小手を狙うが払われる。


「ちぃ!!やっぱりダメでしたか。」


皇紀は竹刀を下に下げて下段の構えをする。これは上級者がやる構えで、こっちからは間合いは取りやすいが向こうは取りにくい。しかし、逆に何を狙ってくるかがわからない。


そう考えていて、集中が切れた俺は


「小手ぇえっっ!!!!」


パシィィンっっ!!皇紀は俺の右小手を狙い抜いた。審判は3人とも白旗を上げる


「ふぅ、先手を取られたか…あと一本取られたら、負け。どうする」



また構え直して、試合再開。俺は面をもう一度狙うが払われた。直ぐに体勢を戻し構える、右手で竹刀を振っているからスピードはそこまでない。それに少しなにか戸惑いが見られる、ならば


「……下段の構えか、舐めた真似を」


俺は胴と面を晒す、下段は不利になる。しかしこちらの手の内はわからない。


「やぁぁぁぁぁぁあ!!胴ぉ!!」


胴を打つモーションに入る瞬間、俺は下段の構えから普通に構え、そのモーションでこちらに来る竹刀を下に払い


「面ぇぇぇえん!!!!」


「一本!!!面ありぃ!!」


応援してくれる皆から拍手が来る。俺は軽く会釈して、構える。


これが最後、負ければ終わる。勝てば………と思った時だった、試合再開した時に皇紀は小手を狙ったはずが、二の腕を叩いた。


「ぐっっっ!??!」


俺は一瞬の痛みに腕を抑える。


「い、今のって反則なんじゃないですか!?」


「いいえ、試合の反則にはなりません。本人が続行していますし、続行をしないならこちらが負けます。」


「……璃季さま」


くっ、痛いがなんとか大丈夫そうだ。俺は痛いのを我慢して構え直す。ヒリヒリするし、正直腕を上げるのが辛い。困った……さっきから皇紀は打ち続けてくる、防ぐのが精一杯だ。考えろ、考えろ!!


「はぁ、はぁ。」


かなり、疲れている。俺は防いでいただけだからなんとか。………そうだ!あれしかない!でもアレは一発で、しかも確実に狙わないと負ける。でも右手は上がらない、ならばやるしかない。俺は竹刀を構え隙を見つける、そして――


「やぁぁぁぁぁぁあ!!!」


俺の腕が上がらないのをわかっていて小手や胴を守る動きにした。しかし甘い……俺がやるのは


「面ぇぇぇえん!!!!!」


パシィィンっっ!!!


「め、面ありぃ!!!」


「な、なんだと………左片手面……」


そう、剣道は左手が基本。左手で面を決めればしっかり一本入る、これは右手が癖になった人にはほとんど出来ないし腕を鍛えないとできない。里馬流なら知っている技法、一般的にはほとんどやらない、不利になるからな。


会場は拍手の嵐になる。応援しに来た4人も駆けつけてくれた、だが、一人だけ、黙々と防具を外して会場を後にしようとしている。すると


「行ってください、あとは私が」


「わかった。」


俺は皇紀を追いかけた。外に出ると、試合をしてるうちにお昼になっていた。ベンチに一人で座っている女の子を見つけた


「皇紀さん。」


「私の負けだ。部活の活動方針は見直す、それでいいだろ。もう関わらないでくれ」


皇紀はほっといて来れとばかりに目を合わせない。俺は横に座る


「片手面、奇跡的にできたんです。ずっとできなかったんですが、今日は勝ちたい一心でやってたら、できたんです。」


「……腕、大丈夫か?私は下手くそだからな。」


皇紀はまだ目を合わせないが、話はしてくれている。


「このくらいなら大丈夫です。それに下手くそではありません。きっとなにかあるのですよね?でもまだ聞いたりしません、あの皇紀さん?」


俺は彼女をどうしたいのかわからないが、昔下手くそだった自分を見ているような気がしてほって置けなかった。あの時移動授業であった時から。誰にも相手にして欲しくないという空気をまき散らす、そんな昔の自分に。


「一緒にお昼にいたしませんか?お嫌かもしれませんが」


「私みたいな奴と食事なんか、やめたほうがいい。」


「嫌です。負けたんですから、言う事を聞いてもらいます。」


「な!?ま、待て!条件は1つだけじゃないのか?!」


皇紀はガタっと立ち上がる。俺も立ち上がり


「誰も1つだなんて、言ってませんよ?」


「は、計ったな………はぁ。」


「さぁいきましょう。皆が待っています、それに、お昼は多い方が美味しいですし」



俺は皇紀の手を取り、お互い道着のまま、みんなの居る場所へ走り出した。

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