第13話『迫る、エルダー選挙』
雪皇紀との自稽古から数日、あれから少しずつだが交流があった。話してみれば悪い奴じゃない、まぁお固い性格なのはかわらないけど。ちなみに影祢を夜埜依、海莉、果歩に紹介した。
『影祢さんとお友達になれました、少し前からお話を掛けようかと思っていたのですが、なかなかでした。』
『十文字の御令嬢、哘雅楽乃さまとも交流があると聞きますし。色々お話を聞いてみたいです。』
『凄い所のお嬢様なんですね!で、でも璃季さまには敵いませんよ!』
と、皆興味を示していた。まぁ影祢は苦笑いだったがな……で、今は朝のホームルーム。緋紗子先生が熱心にエルダー選挙の話をしている。
「嬉しいことに、私が担任するクラスが代々エルダーに就任しています。だからと言って今回も必ずこのクラスの誰かがエルダーになるとは限りませんし、無理に誰かに候補する必要はありません。」
「エルダーかぁ。確か瑞穂や千早に薫子が就任してたんだっけな、ま、俺には無理な話だな。」
かなり小さな呟きをして、わからないように机にうつ伏せる。ちょろっと寝るくらいならバレないだろう。おやすみ――
「っ!?いだぁ!!」
頭上に何かがぶつかった、いや、叩かれた?
「璃季さん?私のHRで寝ようだなんて、度胸あるわね?はい、課題増やします。がんばってくださいね?」
「え………」
俺は緋紗子先生の逆鱗に触れたせいで課題が増殖した。そしてお昼、寮のメンバーに影祢も入れたグループでテラスで食事。もちろん話は
「有力な候補はやはり皇紀さんかと、クラス委員長であり、生徒会長です。成績も学内トップ」
「確かにそうですよね、エルダーにはふさわしいです。」
「次に候補は誰が上がっていますか?」
「影祢さまに決まってますよ、文武両道ですし華道部部長ですし」
確かにこの二人ならエルダーにぴったりだな、どうやったらエルダーになったんだあの男二人は。見た目だけではダメなはずだし。てか、俺はやりたくないな面倒そうだし。
俺は紅茶をすする。
「あ!次の候補は璃季お姉さまですよ!」
「ぶほっっ!!」
紅茶を吹く。ダイナミックに
「ひゃ!?り、璃季さん!ハンカチです」
影祢がハンカチを貸してくれた、とりあえず拭いていく。
「まだ来たばかりの新参がエルダーだなんて、無理でしょう?」
「いいえ、中二人は璃季さんと似た時期に編入されてエルダーになっていますし、不可能ではありません。大きな活動をしなくとも日常生活を見せるだけでかなり変わりますし。」
「私は絶対に璃季お姉さまに一票入れます!」
おいおい、その場のノリはまずいんじゃないか?俺は咳払いをする
「落ち着きなさい果歩ちゃん?まず、私はどこの部にも所属していませんし、成績もあまり。目立つようなことも表彰すらありません。そんな人をエルダーにだなんて、それなら私は影祢さんに」
「わ、私がですか?私は部で手一杯ですし。」
影祢は落ち着いて話す。エルダーになるには学内生徒の75%以上の獲得票数が必要になる。最近入ったばかりの奴より影祢か皇紀がやるのが一番だ。
「成績や部などは関係なく、生徒を正しい道に連れていくという行動が大事です、璃季さんなら大丈夫かと。」
君までか……これは相談しにいかないとダメかなぁ……行くの嫌だけど。
「あ、あはは。か、考えとこうかなぁ。」
その日の楽しいはずのお昼が、エルダーやっちゃおうぜ!話になって長いことテラスに居たのだった。
放課後、俺は学園に許可を得て外出をした。向かう場所は…
「はぁ、相変わらずデカイ家だなぁ」
「璃季さま、お二人ともご在宅です。行きましょう」
そう俺が自らやってきた場所とは――
「あら、来たのね璃季?待っていたのよ」
「待ってたよ璃季っ」
厳島貴子に鏑木瑞穂。いや、今は貴子も鏑木か。この二人大学出てから会社やってるみたいだし、仲がいい。貴子も昔からよく遊んでいた。
「まさか貴方から直接来るだなんてビックリしたのよ?」
「いや、まぁ。ちょっと相談がさ」
俺は今日話した内容を掻い摘んで相談。いや、別にエルダーになりたいわけじゃなくて二人はどうやってエルダーになったのかを聞きたかったりした。まぁ千早いないけど
「んー、ボクはあまり意識してなかったしそれに、やりたい事をやっただけとしか言えないような」
「瑞穂さんったら、私を跳ね除けてエルダーになったのですから自信満々に言ってくれないとっ、大体貴方は――」
「なぁ、長くなるんじゃねこれ。」
「はい、そうなることを考えて千早様の家に行けるようにもう準備は出来ています。」
二人がなにやらイチャラブしてるとこを邪魔しないように、コソコソ脱出した。結局聞きたいことを聞けなかったような、続いて千早が住む実家。
「あ、璃季さま。ようこそいらっしゃいました、千早さまは中にいらっしゃいます。」
「史、ありがとう。」
度會史。代々妃宮家に使えるメイドで、史は千早の専属メイド。鴒とは同じ給仕仲間となる。史に中を通され、千早の元へ。
「やぁ、来たね璃季。急にどうしたんだい?」
「その髪でポニーテールは辞めておいた方がいいんじゃないか?」
「君も辞めたほうがいいよ、女の子にしか見えない」
お前に言われたくないわ!で、瑞穂に話したように説明をすると。
「エルダーは生徒の鏡。見本となるところを見せないとダメ。だけどそれはなってからの話しだし、ボク自身何をしていてこうなったかなんて、覚えていないよ」
「ふーん……じゃ、俺はエルダーになることがないならそれでいいや」
俺は史が出してくれたお茶を飲む。エルダーになるにはそれなりの器がいるってことなんだろう?俺にはないしな。そう思っていると
「でも、助けたり、自分がやらなきゃいけないことを貫いていくと自ずとそうなるのかも」
「あの学園で揉め事なんてないんじゃないの?見た感じなんか、キャッキャしてるし」
「甘い、甘いよ璃季。女の子って本気になったらなんでもやるんだ………」
なんかブルブルしてる。千早も武術してたんだしそれなりに強いし。もしかして、強さ関係ない?why?
俺は立ち上がる、鴒も一緒に立ち上がった。
「まぁ、なるようにやって見るよ。俺には俺にしかできない事をさ」
千早も立ち上がる。
「確かに、考えるよりそっちが璃季には向いているような気がするよ。」
千早はニッコリ、俺と鴒は車に乗り込む。
「また連絡してくれたら、相談に乗るよ。」
「わかった、じゃ」
鴒は運転手に寮に行くように指示した。車は走り出す、その車中。
「もしさ、エルダーになったとしたらどうする?」
「いつも通りに接しますが?」
エルダーってそもそも何をするんだ?ただ生徒に正しい道を教えるだけなのか?俺にはそんなことわからないし、多分こんな気持ちはあの二人だって感じてきた道なんだろう。
俺は車外を見つめる。夕日が眩しい、トンネルに入ると窓に自分の顔が写る。
「なぁ、鴒はエルダーとはなんだと思う?」
「そうですね、私は『目標であり欠点』かと」
目標であって欠点?なんか矛盾してないか?
「エルダーは生徒の鏡なんだろ?それがなんで欠点になるんだよ」
「エルダーとて一人の人間。生徒がその欠点を探すのも、エルダーが生徒の欠点を探すのも一人間。支え合って、自分がこの人になら信じて付いて行く。それがエルダーと言える人物像かと」
「欠点か………やっぱ、俺には難しいな。欠点ありまくりだしさ」
シートに深く座る。昔から迷惑しか掛けていない人間が欠点がないわけないしな。
「璃季さまなら、エルダーになるのに足りないものがあります。」
鴒はハンカチを俺に手渡す。必要ではないのだが
「何が足りないのさ?」
「ハンカチです、ハンカチは自分一人のものだけではありません。ハンカチは万能です、璃季さまはハンカチを目指してみては如何でしょう?」
「ハンカチねぇ…そう言えばハンカチ借りたままだったや、洗って返さないと。」
影祢から借りたハンカチをポケットから出す。
「影祢さまは、立派なハンカチですね。」
ハンカチ、まだ良くわかっていない。ただのハンカチでもその1枚で何かなるのかな?
良く分からないまま、車は瑠璃色の空の下を走って、寮を目指した。




