第10話「璃季ピンチ!!」
ささっと十文字影祢から逃れ、トイレの入口の前で深呼吸する。
「すーはー、すーはー……よし!」
一歩踏み出すつもりが
「璃季さん?どうしたのですか?」
後ろから夜埜依に話しかけられて、ビクッとなる俺氏
「うぁ!?は、はい!な、なんでございやしょ?!」
変な言葉が出てきてしまった、やばいか?
「ふふっ、お手洗いでしたら御一緒致します。」
「へ?!あ、あははっ、はい……」
入ったのはいいけど、音姫を流すだけでトイレなどできなかった。そして移動授業の時間、今回は緋紗子先生の授業だ。
当たり前だが隣には雪皇紀がいる。
「……」
見れば見るほどお姉さまって感じがするな。でも、手のひらは豆とかで皮膚が硬くなっている筈だ。女の子なのになんで?それにここは米国の学院。日本の国技をやるだなんて、剣術ならフェンシングとかもあるはず。ちょっと皇紀の手を見つめすぎたのか
「……なにかようかな」
「え?あ、いえ…あの、少し質問をしてもいいですか?」
目を合わせないところ構うな、と言うことだろうか?しかし―
「答えられる範囲でなら。」
ちょっと意外な返答に驚くも、直ぐに我を取り戻し
「皇紀さんは、剣道以外になにか剣術は嗜んでいるのですか?」
皇紀はシャーペンを動かす手を一瞬止める。しかしまた動かす
「……剣術なら剣道以外はしたことがない。」
「手のひらの豆、すごいですし皮膚も大分。日頃鍛練をしないとならない手ですし、休みを入れていないのでは?」
俺は少し踏み込み過ぎたか?と思ったが、彼女は手を止めずに
「剣術とは日頃の成果で成す物だ、怠っては負ける。負は死を意味する。」
「は、はぁ。」
剣道が余程好きなのか、でないとそうにまでならない。
「お前にはわからないだろう、ただのお嬢さまならな。」
ちょっとイラッとしたが、我慢我慢。
「2日後楽しみにしているよ、私が勝つがな。」
既に勝ちを知っているような感じだが、ちょっとでもイラッとさせたいからか、俺は
「"練習"で身体を壊さないでくださいね。」
「……ふふ、あぁ。」
授業の内容をノートに書き写して、今日の授業を終えた。
夕方、少しだけ武道館を覗いてみると。
「馬鹿者!そのような動きではすぐに隙を突かれてしまうぞ!!」
「は、はい!すみません!!」
「結構スパルタ過ぎないか?周りがついて行けてないし、それにダウンしかねないぞ?」
1年女子達は肩で息をしている状態。これが数時間だとマズイな、だが俺が間に入るわけには行かない。なんかいい手はないか?………すると俺は何かを閃いた、直ぐに鴒に連絡をして――
「お持ちいたしました、スポーツドリンクです。」
「サンキュー、助かる。」
鴒に人数分のスポーツドリンクを受け取る。あれだけ動いていたらそりゃ脱水になるだろう。道着の下はサウナ状態だからな
「まさか璃季さまからスポーツドリンクを差し入れしたいと言ってくるとは思いもしませんでした。立派に更生されて、この鴒はもう感動しております」
「わかった、感動してるとかいいながら鼻血だすなよ。それよりあの状況を見てどう思う?」
鴒は武道館の中を覗き見ると
「あと30分も持たないでしょう、無理な鍛練は全てを無にします。昔道場に一人だけ熱心な子が居ましたが、似たような状況です。」
「なるほど、よしちょっと行ってくるわ。」
俺は武道館の入口の扉を開いて、軽く上座に向かって礼をして中に入る。
「稽古中ですが、差し入れを持ってきました。どうぞ、スポーツドリンクですが。」
声を高くして言うと、1年女子達は笑顔になる。『ありがとうございます!』と、次々に言われる中、彼女だけは面も外さずこちらに来ない。
「あ、あのー、皇紀さんも是非。」
スポーツドリンクを持って皇紀のいる場所まで行くと、竹刀を向けられる、あと少し遅ければ鼻先に当たっていた。
「敵の施しは受けない、それにお前たち!!そのように甘えていては負ける!!負は死を意味する!!」
それだけを告げると、スポーツドリンクを飲んでいた1年女子達も飲むのをやめて、また稽古に戻る。俺は少しカッとなる
「ちょ、ちょっと待ってください!あれだけ水分を取るということは脱水に近い状態です!続ければ大変なことになります!」
「私は皆を理解している、まだ大丈夫だ。稽古の邪魔だ、去れ。」
「………失礼しました。」
俺は静かに武道館から出た。鴒は何も聞かずに
「帰りましょう。」
それだけを言って、先に歩き出した。俺は学院の門から出ようとした時
「あの、璃季さん?」
「え?はい?」
急に後ろから影祢に呼び止められる、何かようなのかな?
「変なことをお伺いするかもしれませんが、質問をいいですか?」
鴒は気を利かせて先に帰ったようだ。夕暮れの正門には二人の影が伸びている。
「竹ノ宮、竹ノ宮財閥の御令嬢ですよね?」
「は、はいそうですが、それが何か?」
普通にバレない仕草で返事を返すと
「竹ノ宮家に御令嬢はお姉さんしかいないはずです、それも学院を卒業していないはずです。」
え?まて、話が見えない。なぜ急にこんな話になるんだ?俺は戸惑いながらも。
「竹ノ宮家は私とお姉さまの姉妹です。なら、妹の私がここに来てもおかしくは――」
最後まで言い切るところで、影祢は
「嘘はやめてください、竹ノ宮財閥御曹司。竹ノ宮璃季様。」
「なっ!?!?な、なんのことだかわからないですか?」
苦しいか?どこでバレた?あのトイレの時か?いや、あれは大丈夫だったはずだ。普通に振舞ったはずだ
「私は、里馬流剣術の免許皆伝を持っています。私が小さい時に道場に行っていて、そこに竹ノ宮と書かれたタレネームを着けた男の子が居ました、貴方ではないのですか?」
十文字……十文字!?思い出した、ここに来た最初にどこかで聞いたことあると思ったら、影祢だったのか!影祢は鴒の二番弟子。二番弟子の癖に上達が早くて俺より先に免許皆伝したんだったか?
「…………………………」
「やはり、璃季様だったのですね。」
「……どこで、わかったんだ。」
俺は諦めてちゃんとした璃季として話す。
「最初に初めてあった時の口調と貴方の左手のひらです。そして、左手の甲に擦り傷。それは私と稽古をやっていた時に傷つけてしまった奴です。」
「………はぁ、そっかバレちゃったか。」
俺はため息を吐く。バレた以上は、学院を去るしかない。結局瑞穂や千早に頼まれたこと何もできなかった。顔を合わせられねぇや。
「どうするんだ、学院長とかに言うのか?」
俺は髪をポニーテールにしていたヘアゴムを外す。縛られていたからか、外すと気持ちいい。長い髪は夕日に照らされてキラキラしていた。
「いえ報告はしません、ですが1つだけ要求があります。」
「飲み込める要求なら、なんだって飲むさ。」
幸い誰もいない、今ならまだ大丈夫だ。むちゃな要求じゃなければ。
「………私と」
「私と?」
俺は首をかしげる、一体何を言われるのか内心ドキドキしている。
影祢「お付き合いください。」
璃季「お付き合いね、いいよそれくらいなら……………は?お付き合いぃぃぃぃぃい!?!?」
突然のお付き合い宣言だった。




