Extra 2
俺の家が、崩壊していた。
まるで隕石が直撃したかのように。
そこには全身傷だらけのデコイルが仰向けに倒れており、俺たちの姿を認めると、手に握っていたスマートフォンを地面に放り出した。
「何があった!?」
俺はデコイルの身体を抱き起こしながら、大声で問い詰めた。
デコイルは力なく苦笑した。
「怪我人に乱暴しないでくださいよ……」
「何があったかって聞いてんだよ! エヴァはどこだ!?」
俺がデコイルの身体を激しく揺さぶると、彼は今にも死にそうな表情を浮かべた。
アイが口を開く。
「話せ」
デコイルは深く大きなため息をついた。
「結界が破壊されました。というか、家ごと丸ごとですね……」
「それで?」
「女神様が……連れ去られました」
「そうか……」
アイは依然として冷静な態度を崩さなかった。その姿を見た俺は、激昂してアイの胸ぐらを掴みかかった。
「エヴァが連れ去られたんだぞ!? なんでそんなに平然としていられるんだよ!? アイ!!!」
「……激したところで何が解決する。お前の方こそ、少し頭を冷やせ」
俺は唇を噛み締めた。
アイはデコイルのことを一時的な協力者に過ぎないと言っていた。だがそうだとしても、今のデコイルはこの世界の封術によってスキルも魔術も失った、ただの平凡な子供に過ぎないのだ。
エヴァが容易く奪われたのも無理はなかった。
しかし……俺とアイがヴェルモーラと戦っている、まさにその瞬間を狙ってくるとは、そいつは……。
「どの個体だ?」
アイの問いに、デコイルが答えた。
「ヴォイド……第1位です」
「俺の結界を容易く打ち破るとはな。少し見くびっていたようだ。ユウ……俺は……」
俺はアイの胸元を軽く拳で叩き、戒めるように言った。
「謝罪なら後にしてくれ。教えてくれ……これからどうすればいい」
「そうだな……」
アイは頷き、ホログラムウィンドウを展開して何かを調べ始めた。
「……エヴァに施しておいた追跡魔術だが。ふん、俺の結界を破壊するほどの力を持ちながら、その痕跡を完全に消し去っている。だが、こうなれば行き先など、おおよその見当はつく」
デコイルが言葉を継いだ。
「『ラストダンジョンで待つ』と、奴はそう言い残していきました」少年は地面の土を悔しそうに叩いた。「……あそこは僕の家でもあるんですよ。こんなの、プライドを完璧にズタズタにされたようなものです」
「ラストダンジョン、だと……」
数ヶ月前の光景が、不意に脳裏に蘇った。
俺が乗り込み、死闘の末に勝利を収めた魔王城……。そして、息絶える直前に魔王が遺した言葉。
『お前の双子の片割れは、我らと同じ魔力を……いや、それを凌駕する力を秘めている。いずれその力を利用せんとする者が現れるやもしれん。……家族として、断じてそのような事態を許すな』
俺は無意識のうちにアイへと視線を巡らせた。アイは今、崩れ落ちた我が家の残骸をあさり、意識を失っているブラッキーの首根っこを掴み上げているところだった。
俺の視線に気づいたアイが、怪訝そうに眉を上げた。
「どうした?」
「いや……要するに、エヴァはベータにいるんだな」
「ああ」
「なら、何を突っ立っているんだ。お前なら、異世界へ行く方法くらい持っているんだろ?」
逸る俺を、アイはそれ以上制止しようとはしなかった。
「分かっている……すぐにポータルを開こう。おい、デコイル。そのヴォイドの名は……分かっているか?」
「ええと……」
デコイルがウィンドウを開いた。
「……『Ecliphos – The Shattered Pride』です」
俺はデコイルの言葉を遮るようにして言い放った。
「名前なんてどうでもいい。俺が……エヴァを連れ戻す」
その言葉を聞いたアイとデコイルの瞳に、かすかな困惑の色が浮かんだ。
俺がエヴァに執着している……。そうだ、俺はそうなのだ。
そうで『なければならない』。
彼女は俺の女神なのだから。
自分でも気づかないうちに、俺は呪詛を吐き出すかのように呟いていた。
「俺の女神に、気安く触れるな」
これから俺は、すべての始まりの場所へと戻ることになる。
俺が力を手に入れた場所。
俺が勇者と呼ばれた場所。
……スキルと魔術が満ちる、あの世界へ。
再び、異世界へと還るのだ。




