Chapter 11 Desire Loop 02
さっきのがリリィとの出会いだったとしたら、今度はクロエだ。
彼女は俺のパーティーメンバーの一人。
槍術に長けた名門冒険者一家の令嬢であり、クラスはもちろんランサー。
そして彼女の家系こそが、俺と彼女の運命を交差させた原因だ。
……いや、本当は「原因は俺自身にある」と言った方が正しいのかもしれない。
ここはコロシアム。本来は祭典などの際に冒険者同士の試合が行われる場所で、長い歴史を持つ。
また、王国の騎士たちが訓練に使用することもある。
なぜ俺がここでクロエと一緒にいるのかという問いには……。
「約束通り、私が勝ったら『太陽神』を譲ってもらうわ!」
彼女はしなやかな体躯の少女だった。艶のある黒髪。真っ赤な瞳の上にある眉尻は、どこを見ても不機嫌なことしかないと言わาんばかりに常に吊り上がっている。右手には、高価そうな装飾の施された長槍を握っていた。
……これはヴェルモーラの能力による回想だ。つまり、俺はかつて起きたこと以外の動きも、言葉も、行為も一切できない。これはタイムトラベルではないのだから。
俺は当時と同じように答えた。
「約束通りって……あんたが勝手に連れてきたんだろ」
クロエは眉をひそめた。
「『太陽神』の所有者は一人だけ。そしてこれまで、我が一族が代々『太陽神』を授かってきたのよ! あんたは異世界人なんだから、何かデタラメな方法で手に入れたに決まっているわ! 決闘で決着をつけるのを認めてあげただけでも、ありがたいと思ったらどうなの!?」
これがクロエだ。
常に怒っているような激しい物言い。
アイと話す時はもっと殊勝な態度だった記憶があるが、今の時系列からすれば、クロエ……そして俺がアイと出会うのは、まだ一年以上先のことだ。
俺はため息をついた。
「デタラメな方法、ね……勘弁してくれよ。『太陽神』は自ら所有者を選ぶんだろ? 俺のところに来たってことは、俺の方があんたより相応しかったってことじゃないか」
「あんたっ!?」
「このスキルセットは魔王を倒すためのものだ。あんたの一族が何代も所有してきても魔王がのうのうと生きている現状、俺のところに来たのは筋が通ってるんじゃないか?」
クロエは槍を強く握りしめた。
「あんたは……何もわかってない」
彼女が声を荒らげる。
「『太陽神』は私のものよ、何があろうとね!」
「わがままが過ぎるぞ!」
「黙りなさい!」
これ以上の対話は不要と判断したらしい。クロエもまた、強い者が所有者であるべきだと考え、決闘を挑んできたのだ。
そう考えると、決して理不尽というわけではない。彼女のような人間なら、武力以外の権力を使って強引に『太陽神』を譲らせることだってできたはずだから。
……だからだろうか、俺は彼女のことが嫌いではなかった。もし本当に負けたら、『太陽神』を譲ってもいいとさえ当時は思っていた。
ただ無償で譲ることはできない。わかっていたからだ。……『太陽神』もまた、俺にそんなことをしてほしくないと思っていることを。
「Enchant! Flame!」
武器や攻撃を強化する類のスキル。クロエは火属性の付与を使用した。槍の先端が勇猛な橙赤色の炎に包まれる。
Enchantは基礎的なスキルだ。主な効果は、武器や攻撃に属性の力を付与すること。
クロエは火属性の使い手であるため、Flameを使用して槍を強化した。
だが、俺にそんなスキルはない。
俺は武器すら携帯していない。盾一枚、短剣一振りさえ持っていない。
なぜなら武器を運ぶ必要がないからだ。それに……俺の武器はEnchantを介さずとも、最初から属性の能力を備えている。
俺は、自らのスキルから「属性武器」を創造する。
俺は構えた。
「Shining Sword!」
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……戦いは俺の勝利で幕を閉じた。対等であるために、その戦いでは『太陽神』を使わなかった。
「私の……負けよ」
クロエは意外なほどあっさりと認め、俺を驚かせた。
「『太陽神』はあんたの元にあるべきだわ。たぶん……私だって、心のどこかではずっと分かっていたのかもしれない」
「……俺は」
「慰めるつもりなら、お礼だけ言っておくわ。でももし口に出したら、余計にイライラするでしょうね」
「じゃあ、何も言わないよ」
俺がクロエに笑いかけると、彼女は一瞥をくれた後、舌打ちをして顔を背けた。
俺は言った。
「そうだ。よかったら俺たちのパーティーに入らないか? 今、絶望的に人が足りないんだ」
「あんたと、あの羊の教会の聖職者のパーティーのこと?」
「あ、ああ」
「お断りよ」
即答だった。だが、一呼吸置いてから彼女は続けた。
「でも……暇な時に、クエストの一つくらい手伝ってあげてもいいわ」
「ははっ、助かるよ」
会話はそこで途切れた。コロシアムを去ろうとする俺の背中に、クロエが叫んだ。
「もしあんたが『太陽神』を宝の持ち腐れにしているのを見かけたら、その時はあんたを殺してでも『太陽神』に新しい持ち主を探させてやるから!」
「ああ! 努力するよ。ありがとうな!」
それが、俺とクロエの出会いだった。
その後、多くの出来事を経て、彼女は俺と同じパーティーになり、今のように親しくなった。だが、これはヴェルモーラの能力による映像であり、クロエと知り合ったばかりの時期が選ばれている。
リリィを通じて挨拶は伝えてあったが、なんだか久しぶりに会ったような気がするな。
そんなことを考えていると、視界が再び焼けるように白んでいった。別の場面へと移動するのだろう。
身体は動かなくとも、思考は巡る。
……今起きているこれに、どんな意味があるんだ。
ヴェルモーラはこんなことをして何を得ようというのか。
俺はまだVoidの力を完全には理解できていない。こうして思い出に浸るのは温かい気持ちにもなるが、不安も小さくない。
これは一体、どこで終わるんだ……?
次に……。
「これは……」
……視覚よりも先に感じたのは、匂いだった。
純粋な、風の属性の香り……。




