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Twin Fate  作者: Hiz
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Chapter 8 Enemy Breakdown 03

ヴォイド。虚無から生じた生命体。ダークテリトリーのさらに先、境界の向こう側にある「虚無」の領域から来るもの。


出自を知る者は誰もいない。生命体とは呼ぶが、そこに生の実感はない。


目的もなく、存在意義もない。ただ空っぽであるがゆえに、その瞳に映る唯一のものは「強さ」だけだ。


強者と戦うことだけが、奴らに「意味」を与えるかのように。


「たぶん、強いやつを倒し続けることが、彼らの虚無を埋めるための目的なんじゃないですかね?」


デコイルはそう持論を述べた。


だが、俺の視点からすれば、奴らは周囲で最も強い者を標的にし、無差別に襲いかかる敵に過ぎない。


破壊するためだけに存在する敵。


その一点において、ヴォイドは魔王よりも危険な存在かもしれない。


……魔王はダークテリトリーにおける絶対的な支配者だ。人間の領域から見れば、魔王は世界征服を目論み、長きにわたってモンスターや魔族の将を送り込んできた邪悪な存在だと解釈されている。


だから、魔王を「悪」と断じる人間の認識は、彼らにとっては正解なのだろう。


だが、ヴォイドを含めたより広い視点で見れば、魔王という存在は不可欠だった。


魔王の存在は、いわば「虚無」とダークテリトリーを隔てる壁だったのだ。そのおかげで、今日まで誰もヴォイドの存在を知ることはなかった。


しかし今、聖剣の勇者の手によって魔王が倒され、その壁は失われた。


ゆえに、ヴォイドが侵入してきた。


そのような存在であるヴォイドを根絶やしにしなければ、この異世界はいずれ滅びるだろう。


……滅びる。


俺はその言葉を、不機嫌に心の中で反芻した。


「ヴォイドは僕らと同じ概念で動いていない、と言ったのを覚えてますか?」


「スキルや魔法のシステムに縛られていない、だったな」


「そうです。では、こちらを見てください」


デコイルが短く身をこなし、魔王の遺体へと近づいた。かつてこの世界を恐怖に陥れた存在も、今は勇者に討たれ、物言わぬ骸と化している。


「あれだけのヴォイドが襲ってきて、僕らはなんとか生き残りました。でも見ての通り、魔王の体には傷一つついていません」


確かにそうだ。俺もデコイルも自分の身を守るだけで精一杯で、魔王の死体など気にも留めていなかった。


それなのに、魔王の体には損傷がない。あるのは勇者の「シャイニングソード」によって魔力核を貫かれた痕跡だけだ。


デコイルがにやりと笑う。


「軽減の効果は、異なる概念同士でやり合う時にだけ発生します。もっとも、損をするのは僕ら側だけで、軽減の恩恵を受けるのはヴォイドだけなんですけどね」


「……同じ条件下なら、俺も貴様も軽減の効果を受けるはずだからな」


にもかかわらず、俺の影の軍団はダイモラに容易く蹴散らされた。つまり、俺の側には軽減など働いていなかったということだ。


デコイルは魔王の膝の上に飛び乗って座り込んだ。


「正解。ここで質問です。守る者もいなかった魔王の遺体が、なぜヴォイドの猛攻を受けてなお無傷だったんでしょうか?」


「……ヴォイドの狙いが魔王ではなかった。だが……この被害状況からすれば」


俺は崩壊した周囲を見渡しながら言う。壁は突き破られて隣の部屋まで見え、天井はヴォイドの群れがなだれ込んだせいで穴が開いている。


デコイルは俺が答えに辿り着くのを待ってから口を開いた。


「魔王はスキルや魔法の概念に属する存在ですが、同時に『ヴォイドの概念にも片足を突っ込んでいた』からです。だから死してなお、その肉体は攻撃を無効化する特性を維持していたんですよ」


「魔王の中にヴォイドの概念があったから、ダメージを受けなかったというわけか?」


問いかけると、デコイルは頷いた。


「そういうことです。ヴォイドの概念……つまり攻撃形式を再現できれば、ダメージを軽減されないだけでなく、自分へのダメージを防ぐこともできるようになります」


ヴォイドの攻撃形式。


もしそれが使えれば、ヴォイドに本来のダメージを与えられ、さらに防御も可能になるというのか……。


「……」


この世界に来てから今に至るまで、俺はゲームのようなシステムというやつがあまり好きではない。そこへ今度はヴォイドの形式まで加わるとは。


煩わしいが、理解しておく必要はある。


「ヴォイドの強さの基盤がスキルや魔法でないなら、何に依存している?」


「ヴォイドにはスキルも魔法もありません。本来ならザコのはずなのに、あいつらの強さの根源は『Move Setムーブセット』と呼ばれるものにあります」


「ムーブセット?」


イメージは湧くが、スキルと何が違うのかが分からない。


スキルの中にも連続した動作を伴うものはある。それと同じではないのか。


俺の表情を読み取ったかのように、デコイルが説明を続ける。


「ムーブセットは一連の動作の組み合わせで構成されます。基本的には四段階。ステップ1、2、3、そしてファイナルステップ。この順序は絶対で、途中のステップを飛ばすことはできません」


「ああ」


「僕らから見ればただの攻撃ですが、ムーブセットによるダメージはスキルや魔法とは根本的に異なります」


「ならば、俺たちがムーブセットを受けた場合、スキルや魔法よりも威力が上がるのか?」


「いえ。ヴォイドがスキルや魔法のダメージを軽減するのは事実ですが、逆に僕らが受けるダメージが跳ね上がるわけではありません……」


本当に危険なのはそこじゃないんです、とデコイルは付け加えた。


「ヴォイドが使うすべてのムーブセットは、分かりやすく言うなら……ダメージの属性が『次元斬(次元割き)』に分類されるんです」


次元斬……。俺が持つ「Void Purgeヴォイドパージ」のようなものか。


次元を切り裂く攻撃は極めて希少だ。その威力は通常のスキルや魔法を凌駕する。現在、俺が持っている次元属性の技も十指に満たない。その一つが「Void Purge」だ。


つまり、ヴォイドの脅威は単純な理由に集約される。


「すべてのムーブセットが次元属性だからか」


「その通りでーす」


次元属性への対処法は、攻撃を受ける瞬間に防御力を高めることだ。ユウなら問題ないだろう。あいつの防御力は攻撃力よりも高い設定なのだから。


だが、俺の経験上、次元属性の攻撃を受けて無傷でいられる者を見たことがない。たとえ防御力が高くとも(ユウほどではなくとも)だ。


それはつまり、ヴォイドが冒険者……いや、あらゆる存在にとって致命的な脅威であることを意味していた。


そして、もう一つの対処法。それが先ほどデコイルが言ったことだ。


「結論を言えば、ムーブセットを一つでも使いこなせれば、ヴォイドからのダメージを大幅に防げるようになる」


「魔王のようにな、か?」


デコイルが頷く。


「ご名答。魔王はムーブセットを持っていたから、その概念に『該当』していた。それに魔王自身のステータスが合わさって、生まれたてのヴォイド程度では掠り傷一つ負わせられなかったんです」


彼は両手を広げた。


「簡単に言えば、普通の人間なら不利ですが、魔王のような域に達すれば、不利でも有利でもなくなります」


「魔王ですら完全には防げず、五分の条件になるだけか」


「ええ。普通の人間がムーブセットを食らえばダメージは二倍のような感覚ですが、魔王なら等倍で済みます」


ヴォイドを効率よく狩るなら、俺もムーブセットを習得すべきだろう。そうすれば被ダメージの倍化を防げ、ダメージ軽減も無視できるようになる。同じ概念の存在と見なされるからだ。


……あるいは、被ダメージを気にしないのであれば、俺の持つ次元属性の技で事足りる。ムーブセットに固執する必要はないかもしれない。


だが、手札にあるに越したことはないだろう。


デコイルの話をまとめるとこうだ。


ヴォイドは次元属性の「ムーブセット」を使う存在である。


スキルや魔法の概念の外にいるため、それらによるダメージを軽減する。


通常の人間はムーブセットを持たないため、被ダメージが激増する不利な立場にある。


対処法は、防御力を極限まで高めるか、自らもムーブセットを習得して「概念」を合わせること。


ヴォイドを倒す最も有効な手段は、次元属性の攻撃、またはムーブセットによる攻撃。


情報の整理はこれで十分だろう。


……やはり、「World Key」の件は後回しでいい。


ヴォイドをすべて片付ける。ダイモラのような上位個体は、その名から推測するにあと六体はいるはずだ。


俺自身にヴォイドを倒す義理はないが、ユウなら放っておきはしないだろう。


それに……そう口では言っても、俺はこれ以上、どこであれ世界が滅びるのを見過ごすつもりはない。


理由はそれだけで十分だ。


デコイルが魔王の遺体に背を預けてのけぞった。


「喋り疲れたぁ。……で、これから僕たちは何をしましょうか?」


「『僕たち』?」


「あれ? もう仲間になったつもりなんですけど?」


「……好きにしろ」


「おっと! 言い忘れましたが、ヴォイドは鍵を使わずに世界を越えられます。今頃もう、勇者君のところに行ってるかもしれませんよ」


「……ルール無用な連中だな」


「かも」ではないだろう。


「まあねー。ただ世界を移動するだけなら、鍵が必要ないのは女神様のルールに背いてるようなもんですし〜」


強い者を狙う習性があるなら、ユウが標的になるのは予想に難くない。今のユウは以前ほどではないにせよ、それでもなお強者だ。


「ゲートキーパー」との戦いで、あいつがどの程度の高みに達したのかは分からない。残してきた影とのリンクも、時間が経ちすぎてエネルギー切れが近く、連絡がつかない。


だが、三日前にデコイルがユウを襲撃して戻ってきた際、彼から微かに「太陽神」の気配がした。あの戦いで、ユウは少なくとも一つの太陽神スキルを発現させているはずだ。


今頃はもう、終わっているだろう。ユウとヴォイドの戦いは。


俺は周囲を見渡す。


「……強者を狙うというなら、この三日間、一度もヴォイドが襲ってこなかったのは奇妙だな」


「生まれたてのは何体か来ましたよ?」


「数が少なすぎる。それに、ダイモラ級ではない」


「アイさんが怖くて出てこない、なんてことはありませんよ。ヴォイドに恐怖心はありませんから。なぜ現れないのか、僕にも分かりませんね」


状況が見えない。ここ数日、ずっとダークテリトリーに籠もりきりだったからな。


俺は首を振り、半ば自分に言い聞かせるように告げた。


「アルファに戻る」


「どうしてそこなんです? こっちの人間界の方が心配じゃないんですか?」


この世界の冒険者ではヴォイドには太刀打ちできない。絶対にだ。


だが、俺がこの道を選んだ理由は、これまでと同じだ。


「異世界がどうなろうと知ったことか」


「冷たいですねぇ」


「自分を守る力がないなら、滅びればいい」


「滅びる」という言葉を吐くことに自分でも矛盾を感じたが、本心では知っている。この世界の人間は、ただヴォイドに滅ぼされるのを待つほど無能ではないはずだと。


「……アルファの結界もすでに壊された。少なくとも一体はヴォイドがアルファに侵入しているはずだ」


結界が壊れるほどなら、間違いなく「大罪」級のヴォイドだろう。ユウが片付けているとは思うが……警告を発する結界がない以上、追加のヴォイドが侵入しているかは分からない。


アルファに戻らねばならない。ダークテリトリーでの用は済んだ。


デコイルが顎に指を当てて尋ねてきた。


「僕も連れて行ってくれるんですよね?」


「ああ」


殺すつもりはないが、勝手に動かれるのも厄介だ。アルファに連れ帰るのが最善だろう。デコイルの持つヴォイドの情報は、何らかの形で役に立つはずだ。


「やれやれ、魔王様をこんな風に置いていくなんて、悲しくなっちゃいますね」


デコイルは魔王の遺体にしがみつき、ふざけた態度を取った。


そこで、俺は問いかけた。


「貴様、魔王の意志を継ぐ者だと言っていたな……その言葉に、意味はあるのか?」


デコイルが眉を上げた。


「ありますよ。世界征服ですよ」


「ほう……」


「本当は女神様の力が必要なんですけど、今はアイさんがいますからね。女神様の件はひとまず置いといてもいいかなって」


「俺の力が目当てか」


「おっと、口が滑った」


デコイルはクスクスと笑い、それから真顔で言った。


「はは、世界征服も一部ですけど……僕の存在意義のもう半分は、ヴォイドを根絶やしにすることなんです」


「……?」


不審げな俺の視線を受け、デコイルは微かに微笑み、淡々と告げた。


「勇者君に魔王を倒す役割があるように、僕にはヴォイドを倒す役割がある……そんなところですよ」

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