Chapter 3 Confession of the Heart 01
今日はアイが学校に来ていないのは珍しいことだった。
普段なら、あいつはシャドウアーミーを代わりに登校させているのだが、今日はその影の分身すらいない。朝、ユウが一人で教室に入ってくるのを見た。
本来、あいつ自身が授業に出る必要はないはずなのに、なぜ今日に限って来ないのだろうか。不思議だ……
「フム〜フフ〜ン」
ユウが鼻歌を歌いながら私の机にやってきた。何かあったのか知らないが、こいつ、少し機嫌が良すぎないか?
「アイが来ないから機嫌がいいのか?」
「酷い言い方だな。違うって。それに、あいつは影の分身を送り込んでるだけだろ」
そこを測れば、来るか来ないかは関係ないってことか。
私は頬杖をついて尋ねた。
「何も用がなくて来たわけじゃないだろ?何かあったのか?」
「ん?もう昼休みだろ」
「うん?」
「?」
「待てよ……『?』を出すのは私の方じゃないか?」
「そうか?ほら、昼休みはご飯を食べる時間だろ?食堂に行こうぜ」
それを聞いて、私はユウが普段昼休みを一緒に過ごす友人グループに目を向けた。私がそちらを見ると、彼らは目を逸らした。
まあ、こんな反応は珍しくない。元々、私はあまり人に好かれるタイプじゃないしな。
私はため息をついた。
「友達と行けよ」
「あいつらのことか?いいだろ。俺は最近、お前のそばにいる方がいいと思ってるんだ」
そこでユウは、彼の友人グループに楽しそうな視線を送った。向こうから「あの野郎、本当にエヴァを誘いやがったぞ」という声が聞こえてきた。
「へえ……わかった」
「だろ?いつ襲われるかわからないしな」
もっともらしい理由だ。まあ、今の状況では、ユウのそばにいる方がいいだろう。
その時……
「ゆ、ユウくん!エヴァさん!」
私とユウは声のする方を見た。同じクラスの女子生徒だった。
彼女は『リカ』。中学一年生のように小柄で、同級生の女子と比べて体の成長が遅いように見える少女だ。とはいえ、驚くほど発育している部分があるのは胸だ……うっ、なんだかズキッと痛みが走る……
前髪で目が隠れがちで、肌は白く透明感があり、内気で口下手な性格に見える。
ユウなら学校中の誰とでもすぐに仲良くなるので驚かないが、リカが私にまで声をかけてきたのは、かなり意外だった。
ユウは優しく微笑んだ。
「どうした?リカ」
「しょ、食堂に行かれるんですか……?」
「うん!エヴァと行くんだ。一緒に行くか?」
リカは不安そうな表情を見せ、口元を小刻みに震わせ、言うべきかどうか迷っているようだった。オーラで感じられるのは……うーん、緊張しているのか?感情がごちゃ混ぜになっていて、読み取りにくい。
「あ、あの、ちょっとユウくんに相談したいことがありまして……」
彼女はそう言いながら、教室の後ろの方に目をやった。
「おっ!じゃあ、食堂で話せばいいだろ。な、エヴァ」
「……私はどっちでもいい」
結局、私たちは三人で食堂に行くことになった。少し慌ただしかったが、ユウがそう主張するなら、任せることにした方がいい。
……食堂に着き、皆で食事を買い終えてテーブルに戻った時、ユウが尋ねた。
「今日は弁当じゃないのか?」
「寝坊した」
一緒に来たリカは、しばらくの間、口ごもっていた。どこから話すべきかわからない様子だったが、ついに……
「ユウくんとエヴァさんって、付き合ってるんですか!?」
「ブフッ!!!」
私は飲んでいた水を吹き出し、咳き込んだ。ユウは慌てた様子で私の背中をさすった。
……ユウに相談したいことがあるんじゃなかったのかよ。その質問、私に直接関係してるだろ。
私は咳払いをしてから尋ね返した。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「あ、あの……ここ数日、お二人が一緒にいるのをよく見かけるので……」
ユウは朗らかに笑った。
「違うって。今はただの友達になっただけだよ」
リカは息を吐いた。
「そ、そうなんですか……で、ですよね」
「なあ、リカ。もしかして、お前……こいつのことが……好きなのか?」
私は親指でユウを指して尋ねた。この質問をしたら、初恋に気づいた少女のように恥じらう反応があるかと思ったが、リカの態度は私の予想とはまったく違っていた。
リカは首を横に振った。
「違います」
即答かよ……しかも、オーラも嘘をついていない。
ユウはそれを聞いて笑った。
「はは!エヴァ、何を質問してるんだよ。俺はそんなにモテないって」
……ユウが異世界に行く前は、結構モテてた記憶があるんだが。顔も悪くない。そう言い切れるのは、こいつがただの朴念仁だからだろう。
謙遜するタイプには見えないしな。昨日なんて、自分の強さを平然と言ってたのに。
ユウは腕を組んだ。
「相談があるんだろ。話してみろよ」
「あ、あの……」
本当に内気な子みたいだ。相談内容を予想してみようとしたが……えーと、こいつに何を相談できるんだ?まったく予想がつかない。
「……アイさんは、お付き合いしている人がいるのかどうか……を……」
「予想できるわけないだろ!!!」
私は思わず叫んでしまい、リカはビクッと体を震わせた。
ユウが不機嫌そうな顔で私を見た。
「どうしたんだよ?」
「いやいや、ちょっとびっくりしただけだ……」
その件ならユウに相談するのは正しい。こいつはアイの双子の弟だからな。だが、あの陰鬱な魔法使いに惚れる奴がいるなんて、誰が想像するだろうか。
アイの顔は双子だからユウと同じだが、誰かに近づいたら殺されそうな目をしているんだぞ。どこがいいんだ!?
それに、これは内気な少女なんかじゃない!
いや……オーラで見ると、めちゃくちゃ恥ずかしがってはいる。
ユウは顎に手を当てて考えた。
「うーん……俺が知る限り、付き合ってる人はいないな。正直、あいつが誰かと一緒にいるところ自体、ほとんど見たことがないし」
それは異世界にいた頃の話か、それとも今の話なんだ?お前、今まで影の分身と一緒だったんだから、知る由もないだろ。
ユウは拳を叩いた。
「あー!リカがよくアイを見てたのは、好きだったからなのか!」
「ぐっ……!」
おい、いきなり何を暴露してるんだよ?リカが顔を伏せてしまっただろ!
私はユウの襟首を掴んで、耳元で囁いた。
「おい、お前!なんでそんなことペラペラしゃべるんだよ!?」
「あれ?言っちゃダメなのか?」
「当たり前だろ!」
「でも本当だろ。俺はあいつの後ろに座ってたから見てたんだ。リカはいつもアイの方を見てたぞ。……もしかして、あれが影の分身だと知ってたのか?」
「誰があんなの見分けられるんだよ!?あいつの実の弟でも見分けられないってのに!」
「ははっ!そういう人もいるんだな!」
「お前のことだよ!」
「おう?」
ユウは理解できないような唸り声を出した。
リカは顔を伏せたまま言った。
「……はい、私、アイさんが好きなんです……」
ストレートに言うな、おい。
同じ女として、尊敬するよ……好きな相手がアイなのが気に入らないけどな。
「今日はアイさんが学校を休んでいるので、ユウくんに相談に来ました。……もしアイさんに付き合っている人がいたら、告白するのはまずいかなと思って……」
告白か。なんかこそばゆいな。
ふむふむ。少女の恋、か……
……私にはわからないけど。
「いるとは思わないけどな。……って、なんで俺を見てるんだ?エヴァ」
私は軽くビクッとした。いつの間にかユウを凝視していたらしい。慌てて顔をそむけた。
「い、いや。お前らで話し合えよ」
どうやらこれが相談したかったことらしい。リカは今日アイが休んだので、弟であるユウに相談に来たのだ。
私はただのおまけ、というわけだ。
リカは目を閉じ、深呼吸をした。
「ゆ、ユウくん。あの……アイさんは、どんな女性が好みなんですか……?」
おお、度胸があるな。
「うーん、難しいな」ユウは顎に手を当てた。
私は反論した。
「何が難しいんだよ?お前の好みを言えばいいだろ。双子なら、好きなものも似てるんじゃないのか?」
一瞬の沈黙。
私の言葉が終わった瞬間、リカの目は深く驚きに満ち、ユウはそれ以上に驚いた顔をした。
「…私、何か間違ったこと言ったか……」
「エヴァさん、双子という言葉の意味を少し勘違いされているようです」
「うんうん。俺も聞いててびっくりしたぞ。双子であって、クローンじゃないんだから、好きなものが同じなわけないだろ」
……ユウだけなら言い返せたが、リカまで同じ認識なら、私が完全に間違っているのだろう。
いや、負けてたまるか!
「似てないわけないだろ?一緒に育ったんだし、同じように育てられたんだからさ」
「うわあ、その理屈はちょっと反論しにくいな……」
ユウは腕を組み、考え込んでいた。どうにかして私に説明しようとしていたが、結局、例え話で済ませることにしたようだ。
「ブラッキーを覚えてるか?」
「ブラッキー?」
ユウはリカの疑問に答えた。「サマ……アイの猫だよ」リカは「ああ、アイさんは猫が好きなんだ」と呟いた。
私は腕を組んだ。
「覚えてるよ。それがどうした?」
「ペットは飼い主に似るだろ?見ての通り、ブラッキーはお前があんまり好きじゃないみたいだ。これで答えは出たと思うけどな?」
「まあ、それは一理ある……けど、それが今話してることとどう関係あるんだ?」
「だって、お前は双子なら好きなものが同じだって言っただろ。じゃあ、嫌いなものも同じじゃなきゃおかしい。……その理屈で言えば、お前の考えは間違ってるってことだろ」
何がこいつをそこまで確信させているんだ?
「は?何言ってんだ?全然……」
言い終わらないうちに、リカが私の耳元に囁いてきた。
「あ、あのですね、エヴァさん。これ以上ユウくんに喋らせない方がいいと思います……」
「まさか、お前はこいつが言いたいことがわかるのか?」
「あ、ええと……」
リカは口ごもってから、できるだけ小さな声で言った。
「ユウくんは、エヴァさんのことが好きなんですよ……」
私はユウの方を向いた。首を急にひねりすぎて骨が鳴ったような気がした。
ユウはいつものように朗らかな顔で笑っていた。
「はは。わかっただろ?」
「……」
私は静かに頷いた。
こいつが朴念仁だというのを忘れていた……だが、どういう意味での「好き」なのかはわからない。
ユウは私が理解したのを見て、腕を伸ばして話を元の話題に戻した。
「アイはどんな女性が好きなのか、か。……正直、俺も知らないんだ。あいつとは色々な話をするけど、そういう話はほとんどしないからな」
「男の子ってそういう話をするのが好きなんじゃないのか?例えば……クラスの女子のランキングとか」
「エ、エヴァさんって漫画を読みすぎじゃありませんか?」
「読んだことないって!!!」
リカがくすくす笑った。まるで私がからかわれているみたいじゃないか。
同時に、リカは顔を赤らめながら呟いた。
「……私みたいなのは……アイさんは……」
彼女は真剣な声で尋ねた。
オーラが揺らいでいる。切実な好意だ……それにしてもこの子、内気だと思っていたのに、こういうことになるとすごく積極的だな。原因はあの大きな胸にあるのだろうか……
「あいつが巨乳好きかどうか、聞いたことないな」
「ひっ……!」
「ユウ、こら!!!」
私はユウの袖を強く引っ張り、思わず怒鳴ってしまった。リカはさっきよりも顔を真っ赤にして、両腕で胸を隠した。
「デリケートな問題だろ!異世界にいたせいで頭がおかしくなったのか!?」
「お前に言われると、確かに軽率だった気がしてきたな」
「今頃気づいたのかよ!!!」
「……ごめん」
……もう一度気を改めて。私は軽く咳払いをして、会話をあるべき形に戻そうとした。その「あるべき形」というのがどんなものなのか、首をかしげたくなるが……
「ユウ、リカに謝れ」
「うん、ごめんな、リカ。えーと、つまり……そういうことだよな?」
少しは口を慎むことを覚えたようだ。
リカは両手を組んで、自分で確認するように言った。
「はい……告白してみようかと……」
「「おお……」」
「で、でも、アイさんの弟さんにこんなことを言うのはずるいですよね。とにかく、ユウくんはアイさんに何も言わないでくださいね!アイさんに付き合っている人がいるかどうかだけ知りたかったんです」
リカは手を振って否定した。ユウはうんうんと頷いた。
「言わないよ。でも、告白かあ」
「……どうせ断られると思います。でも……高校一年生からずっとアイさんと同じクラスなのに……私がこんなことができる機会が巡ってきたのは、この一週間くらいな気がして……」
私はそれを聞いて、考えた。
これは、アイが言っていた女神による「再編成」なのだろうか。
リカは高校一年生の頃からアイとずっと一緒に学んできたと思っているが、実際にはアイが消えていた二年間の空白がある。
彼女が「今になって機会が巡ってきた」と感じているのは、二人がこの世界に戻ってきた時期と一致しているのだろう。
……リカは高校一年生の頃からアイのことが好きだったのだろう。
ユウは腕を組んだ。
「その意気込みはいいな!わかった!あいつには何も言わないけど、応援してるぞ、リカ」
「あ、はい」
リカは周りがパッと明るくなるような笑顔を見せた。
……少し話した後、リカは先生に用事があると言って席を立った。ほんのわずかだが、私は初めて他の人と一緒に食事をするという体験をした……悪くないな。
リカが視界から消えると、私はため息をつくように言った。
「なんで……止めた方がいい気がするんだろうな……」
「好意は止められないだろ」
「そうだけど……相手はアイだぞ。無情にも断られる光景が目に浮かぶ」
アイについて話す時のリカのオーラは、感情に満ち溢れていた。もし断られたら……
「アイはそんなに薄情じゃないよ。俺が保証する」
「ユウ……」
「じゃあ、成功する確率は五分五分ってところかな。でも、その前に……一つ、とてつもなく大きな問題があるんだけど……」
ユウは大きくため息をついた。
私も同じだった。
「そうだな……とてつもなく大きな問題が」




