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岩山から落ちて  作者: 寿和丸
第2章 農耕生活

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第29話 農閑期

里に帰って改めて、傷跡を確かめると、結構深かった。

「やばかったなぁ」あの時、羽音に気付いて、体を庇めて何とか助かったが、反応が遅れたら首から持って行かれたかもしれない。

(あんな奴がいたんだ)鉄鉱石を掘っていた連中と黒い大鳥が関係あるか不明だが、鉄鉱石を奪った後に現れたことを考えると関連あるとみたほうが良いだろう。

(それにしても俺の能力が効かなかったのは意外だった)

あの時、俺はもとより、イサにもハルにも気配を消すように能力を使っていた。

(もしかして、あの馬か?奪い取った馬に何か目印のようなものがあって、黒い鳥に見つかったのか?)ケンは更に思考を深める。

(いや、そんなはずがない。馬に目印があれば俺が気づけないはずはない)

その馬は、今ではハルなどと共に野原で草を食んでいる。

(とにかく、あの鳥は特別な力があると考えるべきだ)ケンは一層、気を引き締めていた。


一方、農作業は田んぼを広げる工事を始めようとしている。

沼沢は広がっており、多くはほとんどの工事はあぜ道づくりだ。

「里長、このあぜ道はどうして広くするんだ?人や馬が通るだけならもっと狭くしてもいいんじゃねぇ?」ノブが聞いて来る。

彼の言うのも分かる。沼地に道を作るのに、石を積んで、その上に土砂を入れないとならない。狭い道なら運び込む石や土砂は少なくて済むが、広くしたので大量の土砂を運ばないといけない。

「説明するから付いてきてくれ。」ケンは里の大人たちを作業小屋に案内した。

「うん、これを見てくれ。」出来たばかりの物を見せる。

「これって、なんだ?」初めて見る物に皆が不思議がっている。

縄文の時代に“車”はない。これを何に使うか想像もできない。

「車と言うんだ。これを使えば一度に大量の荷物を運べるぞ」と言っても、誰もどう使うか分からない。

実際にやって見せないと分からないようだ。「イサ、ハルを連れてきて、車に繋げてくれ。」

そして、ハルが車を引いて見せると、「お、おぅ」どよめきが起きる。

「里長、凄い物を作りましたね。」

「これがあれば、一度に大量の土砂を運べるようにできるぞ。」

「はい、道づくり始めましょう。」

一気に沼地の干拓が進んで行った。


環境にも変化が起きていた。

この時代には珍しいことに雪が降ったのだ。以前にも数回降ったことがあったのだが、パラついた程度で、誰も雪として感じられなかった。

「あんた、白い物が降って来たわ。」

「雪が降って来たか。」

「雪?きれいねぇ」サヤは白い世界を見ながら、目を開いている。

普段見る周りの景色と一変する銀世界。雪が積もった所など見たこともないサヤにとっては驚きでしかない。

「あんまり外に出るなよ。寒いから体に良くない。」外の雪より新妻の身を心配する。

「そうね。気を付けるわ。」サヤは少し身震いしながら、小屋に入る。

サヤのお腹には小さな命が宿っている。ケンはそれが何よりも気がかりだった。


環境変化に影響を受けたのはケンたちではなかった。

生き物はこの変化にいち早く気づき、寒くなる前にすっかり姿を消していた。

「里長、獲物が全く捕れなくなりましたよ。」サジたちが猟から帰って来たが、残念そうに言う。

「やっぱり、もっと奥の方に行かないと駄目か。」

「ええ、取逃がした物もありましたが、とにかく獲物がほとんど見えないのです。」

「まあ、食料はある。無理して遠くまで行く必要はないだろう。」

肉を食べられなくはなるが、センから魚を貰えるからさして困らないはすだ。


ただ、ケンたちはそれで済んだが、フサたちはそうもいかない。

彼らは冬の寒さが厳しくなると、消え去っていた。


*****縄文豆知識⑤*****

縄文時代最盛期には人口が25万ほどだったが、終わりの頃には半減した。その最大の要因は寒冷化により、獲物が捕れなくなり、食料不足に陥ったと思われている。狩猟生活が主の縄文の人々は地球寒冷化に耐えることが出来なかった。


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