混乱しています
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随分と昔のことを思い出しておりました。
ローズガーデンにて、二人きりのお茶会をしておりましたが、破廉恥な要求に応えないようにすべく説得中でございます。
「傷痕のことでしたら、成長して随分薄くなりましたし、痛くもかゆくもございません。気になさらないでくださいませ」
「ローズ、では胸を見せてくれ。確かめたい」
愛を囁く顔でも照れた顔でもなく、なんと事務的で無表情なお顔!! そして、その整ったお顔が台無しな破廉恥な台詞!!
あまりの衝撃に口をぱくぱくしてしまいました!
「でっ、ですからっ! 婚約者でもない殿方には見せられません!」
「婚約者であれば見ても良いのだろう? 結婚しよう、ローズ」
ぽーんと花が飛びました。
嗚呼、なんということでしょう。
「……公爵様には、身分も魔力も釣り合うご令嬢が他にいらっしゃるでしょう」
「ウィルでいい」
気付けば目の前に公爵様が立っています。
「え?」
「ウィル。昔のように呼んでくれ」
「ですが……」
あれ、腰に手を回してます? 顔が近くないですか?
「ローズ」
見たこともないような甘い瞳。さっきまであんなに無表情だったくせに! 突然そんな微笑むなんて! 呼ぶ前に唇を塞がれてしまいそう……! ち、近いです!
「〜っ! ウ、ウィル! 分かりました! よ、呼びます! ウィルと呼びますから!」
気付けば私の周りに沢山花びらが。
ウィルの突然の接近に混乱してしまい、無意識にお花を出してしまいました。また掃除の手間をかけてごめんなさい!
ウィルが突拍子もないことを言い出すからです!
勇気を出して呼んだのに、腰に手を回され、顔は近いまま。ウィルは満足した顔をして私を見つめています。私は恐らく顔も耳も赤く染まってしまっているでしょう。
恥ずかしくて耐えられずギュッと目を閉じたその時でした。
ちゅ、と額に柔らかな感触が……!
おおおお、おでこにちゅって!
ちゅってしましたよ? 私は混乱し、私達の周囲には、お花がポンポン咲いていきます。もう止められません!
「ローズの花の魔法はやっぱり良いな。綺麗だ」
ウィルは私の花魔法を見て、懐かしむように微笑みました。美しいご尊顔の周りに花びらが舞い、これを姿絵にしたら世の女性が買い漁りそう。
「な、ななな、なんで……」
「私と結婚しよう。了承してほしい」
「で、でもだって……。 わたくしは花魔法しかっ……!」
「ローズは私が嫌いか? 傷痕を残した本人だから怖いのか?」
「ち、ちがっ! 違います!」
「では、まず婚約してくれるだろうか?」
頷かなければ間違いなく唇を塞がれるというような至近距離に、私は混乱するばかり。判断能力は最早無く、自然と涙が滲んできます。
「婚約すると、頷いてくれ。ローズ」
「〜っ! う、頷きますから! ちょっと離れてください! ウィルっ!」
私がそう呼んだのを聞いて、また嬉しそうな顔をしました。
そうして今度は頬にキスをすると、さっと身体を離し、「早速婚約の話を進めてくる」と屋敷へと入っていくウィル。
私は何が起きたのか信じられず、庭園中に花を咲かせ、真っ赤な顔で頬に手を添えていました。
ウィルが、お父様とお母様、お兄様も連れて戻ってきた時には、私たちの婚約が決まっていたのでした。