昔話をいたしましょう4
今日もよろしくお願いします!
たった一人で公爵邸に来た幼い子供を追い返す程、公爵様は鬼ではありません。
私は無事、公爵邸の豪華絢爛な応接室に通され、ウィルのお母様とお茶をいただくことになりました。
その間、公爵様は大慌てで伯爵邸に使いを出し、私が一人で訪ねて来たことを知らせたそうです。
我が家はその頃、伯爵家総出で私の捜索をしており、もう少しで誘拐事件として新聞に載せられるところでした。
一人旅で疲れた身体に、甘いお菓子を補給していたところ、応接室の外が騒がしくなりました。そして、荒々しくドアが開くと、会いたかったその人が慌てた様子で入室しました。
「ローズ!!!」
「ウィルッ!!!」
パパパパパパパパパパパッ!
ウィルにやっと会えた嬉しさが込み上げ、私の魔力で、応接室中にお花が咲き誇りました。
「……わぁ、ローズのお花だ」
「ウィル! わたくしのお熱は下がりました! だからまた、気にせずわたくしのおうちに遊びにきてね! 森へは二度と行きません! だからまたわたくしと遊んでほしいの!」
「ローズちゃん……」
ウィルのお母様が涙ながらに私を見つめています。みんながそういう、痛々しいっていうお顔をして、私を見てくるけれど──。
「私のお胸の傷は、お花みたいな形なのよ。とっても可愛いの。それに、お花の妖精さんたちが、薬草を沢山くれるから、あっという間にお熱も下がったのよ。もう痛くもありませんわ! ウィルはレオン兄様よりも優しいから、気にしてるんだと思って、直接会いにきましたの!」
そう言って、ウィルが好きだと言っていた薔薇を、ポンッと魔法で一輪出しました。
「……ありがとう。僕のレディ」
そうしてウィルは私をギュッと抱きしめてくれたのです。
*
それから公爵家と和解し、以前のような家族ぐるみのお付き合いは元通りになりました。
しかし、ウィルはその時期から猛烈に魔法の特訓に明け暮れ、殆ど会えなくなってしまったのです。キズモノになった私は、嫌われてしまったのだと、幼いながら悟りました。
一年後、十歳になったウィルとレオンお兄様は魔法学園に入学。寮生活となった為、全く会えなくなりました。
ウィルは、魔法学園も飛び級であっという間に卒業し、王宮魔術士として大活躍。昨年には若くして公爵の位を引き継いだのです。
私が魔法学園に入学する頃には彼は飛び級で最終学年になっていましたし、私は花魔法しか使えないまま卒業してしまいましたから、本当に天と地ほどの差がついてしまいました。
気付けば遠くの世界に行ってしまった彼。
「ウィル」と愛称で呼ぶことも、恐れ多い方になりました。
たまに聴こえてくる噂話では、「夜会には公爵様目当ての令嬢しかいない」とか、「公爵邸には求婚の手紙が毎日山程届くらしい」など、モテモテエピソードばかり。「公爵様はどの令嬢にも冷ややか」で、「誰ともダンスを踊ろうとしない」というものもありました。
公爵の位を引き継いで、王宮魔術士として活躍するには、男女の恋愛などしている暇はないのでしょう。
つまりは、前公爵様がお選びになる由緒正しい家柄のご令嬢と、もしくは王族の姫様と、ご婚約することになるのだろうというのが、専ら噂の結論でした。
私は、ただの昔遊んだことのある顔馴染み。
私の傷痕のことなど忘れてくれたのなら、それはそれで喜ばしいことのような気がします。
初恋は実らなかったけれど、私は花屋として他の方の幸せをサポート出来るように、頑張りましょう!
と、そう思っていたのに。




