花魔法しか出来ません
我がアークライト伯爵邸の敷地内には、王国有数の美しさを誇るローズガーデンと、さまざまな花が咲き誇る温室があります。
実はこれらのお花は、私がお世話をしたものなのです!庭師は私!
伯爵令嬢が庭のお世話だなんてはしたないと思われるかもしれませんね。しかし私はお花が大好きなのです!
私は花魔法しか使えません。
魔法学園で、これでもかと修業を積み勉強を重ねましたが、ついぞ花魔法以外の魔法は使いこなせませんでした。
しかし花魔法なら、花びらや好きな花をイメージすればポンっと出せますし、苗から元気に育つようサポートすることもできます。
というわけで、せめてこの花魔法を少しでも上達しようと努力し続けた結果、我が屋敷のお庭は少々有名になるくらい見事なお庭になってしまいました。
そして、学園時代からこの花魔法を活かし、結構稼いできましたよ!
恋人へのプレゼントや告白のお供にと、花束や髪飾りをお花で演出するお手伝い。花吹雪なんかも出せるのですが、これがとても好評で!
お茶会のテーブル装飾やお誕生日会などのイベントなど、沢山の生徒の皆様にお役立ていただきました!社交シーズンなんて繁忙期すぎて……。デビューしてもいないのに大忙しでした。
これはビジネスになるのでは? とお父様にご相談したところ、お父様もノリノリで出資してくださることになり、貴族向けお花屋さん開店が決定!
学園を卒業した今、花屋開店に向けていろいろと準備をしているところなのです。
伯爵家令嬢ならば、デビューして夜会に出て結婚相手を探すのがセオリー?
いえ、私は、訳あって結婚は難しい身。
ですからせめて、これからは花屋で生計を立て、お父様やお兄様の手助けになれればと思っている次第です!
私が咲かせたお花で、どなたかが笑顔になるのなら、それはとても幸せなことです。私にはきっと結婚は無理だろうけれど、私の未来は明るいのです!
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王立魔法学園を卒業して数日後のこと。
我が家は急な来客に大騒ぎ!
憧れのエルフィストン公爵が、我がアークライト家を訪問されるとご連絡があったのです! 公爵様が我が家にいらっしゃるのはとても久々のことで、使用人の皆さんも私もお迎えの準備に大忙しです!
現エルフィストン公爵は、ウィリアム・エルフィストン様。私の3歳年上で、私の実兄であるレオンお兄様と同い年。母親同士が仲が良く、子どもたちの年齢も近いので、幼い頃はよくお互いの屋敷を行き来して遊んでいました。
幼い私はいつからか、公爵様のことをお慕いしておりました。今思えば叶わない、報われない、無謀な恋ですね。
あ、今はちゃんとわきまえておりますわ! 私ほど公爵様に不似合いな令嬢はおりません。
幼馴染として、結婚式にはお花くらい送っても良いかしら……あ、涙が出てきましたね。この妄想はやめましょう。
公爵様に久々にお会いできる今日、私は少々浮足立っております。
ドレスは卒業祝いにお父様が仕立ててくださった淡いオレンジ色のドレス。
詰襟の首元から胸に掛けてレースがふんだんに使ってあり、腰から下は柔らかく広がる上品なドレスです。私好みの仕上がりで、最近のお気に入りなのです。
そして、ゆるく編んだ金色の髪に映えるように、私の魔法で出した小さなライラックの花を散りばめて貰いました。
「ローズはやっぱり、分かりやすいよなぁ」
レオンお兄様が私を見てしみじみと言いました。「ウィルのやつ何やってんだか……」とボソボソと呟いています。
「? ドレスが変でしょうか?」
「ううん、ものすごく可愛い。たぶん夜会に行ったら、男どもがホイホイ寄ってくるくらい」
お父様もお兄様も、私がオシャレをする度に、可愛いと何度も言ってくれます。金色の髪も青の瞳も珍しくないですし、私は結婚が難しい事情があるので、気を遣わせているのかもしれませんね。
「お兄様ったら。そんなはずないでしょう?」
「本当なのになぁ」
「ふふっ。ありがとうございます」
優しい兄をもって私は幸せ者です。