自分の時間
あいつと離れてだいぶたつが未だに俺の感覚は直っていないようだ。自分の時間が出来すぎて何をすればいいか、何から手をつけようかが定まらない。むしろこのままなにもしないのもいいような気がする。一人ですることは好き、でも孤独は嫌いな俺は、なにもするきがおきなかった。そう孤独だ。ひとり暮しをいているから誰に話しかけるわけでもなくただぼーっと壁や天井を眺める日常。心の真ん中に大きな穴が開いたまま、無情にも時間だけが過ぎていく。そんなときインターフォンが鳴り響く。
「おーい。いるんだろー。でてきてくれぇー。」
懐かしい声。俺は、重たい腰をあげ立ち上がるとドアを開けに向かい一瞬立ち止まる。鏡にあまりにひどい顔が写っていたのだ。目の下には隈ができ、顔色も悪い。少し物思いにふけすぎたようだ。一度顔を洗い急いでドアを開く。そしてお決まりの文句を言う。
「セールスならお断りだぞ。」
「まぁそういうなよ。暇なら遊びに行こうぜ。合コンもセッティングしてやるからさぁ。」
傷心者に何てこと言いやがる!失礼極まりない言葉を投げ掛けながら腐れ縁の友人、亜堂海斗はそこにたっていた。正直気分ではなかったが俺は誘いに乗ることにした。
「ちょっと待てや。急すぎて準備もしてねぇ。すぐ出てくるから少し待ってろ。」
俺は、足はやに部屋に入りいつものセーターとカーゴパンツ、そして最後にロングコートを羽織る。
「相変わらず、用意だけは早いな。とりあえず車出してくれ(笑)普通にカラオケとかも行きたいからよ。」
海斗がそういうものだから仕方なく、俺は愛車に乗りカラオケに向かう。道中に、そろそろ落ち着いたのかとか吹っ切れたかとかいろいろ聞かれたが適当に流しておいた。さすがに、どうにもなるわけがないだろう。この心傷は…。そうこうしているとカラオケつき二時間だけ歌うことになった。俺は、いつも通りの選曲で歌い続けているがどうも本調子ではない。…仕方ないか。俺はある曲をいれた。それは…あいつの好きだった曲である。不思議とその曲を歌うと少しは気分が晴れていく。その様子を見た海斗は、気づいた。
「まだひきずってるのか?」
…そんなことわかりきってるだろ。引き摺ってる。引き摺るからこんなに苦しいんだ。心傷は消えることはないんだといってやりたかったがこいつが悪いわけではないと圧し殺す。それすらも見抜かれてしまう。
「お前は、少しでもいいから黒い部分を出してみろよ。そんな自分を圧し殺すばかりだったら苦しいだけだぞ?」
その言葉で、俺のなかでなにかが切れた。
「…お前になにがわかるって言うんだ!黒い部分を出せ?そんなことしたら相手が傷つくだろうが!俺はいくらでも傷ついてもいい。だけどまわりが傷つくのだけは許せない!」
自分のなかにある根本的なものが吐き出される。それは自己犠牲をするほどに優しすぎる気持ちであった。あの日も、あんな裏切りを受けたのにも関わらず罵倒をしなかったのは傷つけたくない、こいつには幸せになってほしい…ただそれだけの傲慢なものである。その様子を見た海斗はこう言う。
「だったら傷ついたお前をずっと見てきた俺の気持ちはどうなるんだよ!お前は十分すぎるほど傷ついたろうが!そろそろ…報われてくれよ。お前の優しさを理解をしてくれるようなやつに出会ってくれよ。」
…俺は知らなかった。ただの腐れ縁だと思っていたこいつにこんなことを思われていたことに。まわりが見えていなかった。そんなことに気づかされるのが腐れ縁の友人だとは思いもしなかったのであった。




