第六話(3)
さして待たずに俺たちは店員に案内された。
四人掛けのテーブルに、三人で座る。混雑するなか、昼食時に広々座れるのはありがたい。
店員さんが水の入ったコップを三つおいて立ち去ると、莉緒が隣に座るりこに神妙に語り掛けた。
「あのね、りこ」
莉緒が語ったのは、俺が中一のときにケンカをしたときのことと、その理由。
「兄さんは、僕らがいじめられないよう、あのとき戦ってくれたんだよ」
戦ったなんて聞くと、ちょっとむず痒い。二人を守りたいという気持ちはあった。それがもし自分の名前を馬鹿にされただけだったら、辛抱できたのかもしれない。だがあのときはそうではなかったし、いまとなってはわからない。
でも、ケンカは誇らしくはないかな。やはりあれは子供のケンカだ。後悔はしてないけど、今振り返ると、もっとうまくやれってあの頃の自分に言いたい。
「そのとき兄さんが右手を骨折したのは知ってるでしょ? いまでも、たまに痺れて、さっきみたいに字がうまく書けなくなったりするんだよ。それを冗談でも僕たちが馬鹿にしちゃダメ」
莉緒のやつ、よく知ってたな。ケンカの理由とか、話したことはなかったはずだし……。
「兄さんが、私たちのためにしてくれたのは知ってる」
りこがそう言ったのは意外だった。りこも知ってたのか。
「でも、痺れの後遺症があるなんて知らなくて……ごめんなさい。兄さん」
莉緒は、りこが素直に謝ってくれたので、頭を撫でた。すると、りこの瞳から涙がこぼれそうになる。ああ、泣かないで、ごめんね、と今度は莉緒が謝る番だった。
後遺症ってほどじゃないんだよ、低気圧がきたら骨折した場所がちょっと痛むとか、その手の話だから。と、俺もりこをなだめた。
それにしても……
「おまえたち、知ってたんだな……」
「僕たち、知ってたんだよ。兄さんが頑張ってくれたこと」
「そんな、大したことじゃないんだよ。俺自身も、バカにされてキレただけだしな。やっぱ、ケンカなんて褒めるもんじゃないぞ」
面映ゆい。俺は頬を掻く仕草で誤魔化した。
「でも、僕たちは兄さんがしてくれたことを知ってるんだよ」
「うん、そうだよ。私も、後遺症のことは知らなかったんだ。ごめんなさい。でも、はる兄が守ってくれたのは、わかってるから」
二人は、テーブルの上においた俺の右手を握ってくれた……あったかいなぁ。
いち、に、さん、し、五秒。
二人の手に握られた俺の手が、ものの五秒で陥落。俺の気持ちを代弁するように手汗をかき始めた。俺は照れ隠しに言った。
「さささ、何食べようか? 母さんにたんまり小遣いもらってるから、遠慮するなよ」
俺はメニューを開いて顔を隠した。向かい側の二人は、どんな顔をしただろう。




