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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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65 試験。

「では。これより、ルキウスのレティシア様付き護衛従者昇格試験、午前の部【武闘会】の実施する」


 一団員が告げた試験開始の言葉に引っかかりを覚えた。


「ぶとうかい……?」


 まさか舞踏会ではあるまい。

 となると、当て字は『武闘会』か。

 なんだか響きが物騒だ。


「合格基準は単純明快。挑戦者ルキウスがこの場にいるローザの精鋭を全員伸す、または我らが(あるじ)アルフレド様、並びにローザ騎士団団長アーロンより承認と及第を得ることである。――では、ルキウスよ。前へ。己が身につけた体術剣術を駆使して力を示せ」


 レティシアは開いた口が塞がらなかった。


「全員ですって!?」


 つまり今から行われるのは、ルキウスVSローザ騎士団屈指の強者十名のデスマッチというわけだ。


「僕、レティシア様の護衛二人地面に一度沈めましたけど――」


 納得がいかないと眉間に皺を寄せるルキウスが何か呟いたが、レティシアには聞こえなかった。わかったのは、ただ不満だろうことだけ。


「春の柱プリマヴェールの令嬢付きを志願したのだ。これぐらいは、軽く捻れるほどでないと困る」

「お父さま――」


 少し前まで渡航していた祖父の護衛の任についていた者らも参戦しているのを見るに、ルキウスから目を離さずに言葉を漏らす父の本気度がいくらなものかが伺える。


「では――始め!」


 野太い雄叫びが演習場に轟く。

 さて、女神はどちらに微笑むのか。

 レティシアは祈ることしか出来ない。




◇◇◆◇◇


「勝負あり――」


 結論から言おう。

 ルキウスの圧勝で幕を閉じた。

 有した時間は実に十分と無い。


「おつかれさま」


 ローザの精鋭たちは大人気なくも一斉に攻撃を仕掛けたわけだが、ルキウスはそれを上回る強さだった。

 ローザ騎士団団長アーロンが「言うこと無し」と深く頷いた所を見るに、不動の結果と思っても良さそうだ。


「僕の勇姿、見ていて下さいましたか」


 もし従者の試験に落ちたとしても(あり得ないだろうが)、レティシア付きの護衛騎士となるのは確定だろう。なんせ、現在その任に従事しているトーリとノーランはルキウスによって目を回している次第だ。


「えぇ、もちろんよ。また、腕をあげたわね?」

「はい! 初めてここへ侵入した時はまだ力の強弱のコントロールが上手く行えなかったのですが――」


 にこやかに話すルキウスに、再会したあの日の演習場がそれはもう酷い有様だったことを思い出す。

 壁がただの瓦礫と化し、備品は見るも無惨な姿になり四方八方へ……。


「騎士団の稽古に参加しているうちに思い出してきたみたいで」


 こっそり打ち明けるように耳打ちするルキウスに目を向けると、試験前の緊張ぶりは何処(いずこ)へかウインクを披露するちゃめっ気ぷりを見せた。


「――レティシア様、ご歓談中に失礼致します」


 申し訳なさそうに断りを入れたのはアーロンだった。レティシアへ(こうべ)を垂れるとすぐにルキウスへ向き直り、控えていた使用人を首で指し示す。

 

「ルキウス、二次試験の開始時刻が早まった。着替えてこい」

「はっ」

「いいか、気を抜くんじゃないぞ。ここからが正念場だ」

「ご忠告感謝致します」


 アーロンの言葉にスイッチが入ったのかルキウスの顔つきに変化が現れた。

 そのままお手本の様な会釈をレティシアに見せると、颯爽とその場を後にする。


「アーロン、たすかったわ」


 レティシアはホッと息をついた。


「ルキウス、きんちょうがほどけすぎていたようにかんじていたから」


 ルキウス自身も【武闘会】の内容については、予想外だったに違いない。確かに、ルキウスは強い。だが、こんなものかという驕りは、のちに大きなミスを引き寄せかねないのだ。

 今回で当てはめれば、それは午後に控えた従者試験がまさにそう。


「いえ。浮ついたあいつを放ってはおけませんから。なんせ、武闘会が早々に終わったことで、従者試験の保有時間が大幅に増えましたのでね」

「え、そうなの?」


 増えたとは初耳だ。

 早まった分だけ早く終わるのかとレティシアは思っていた。


「はい。先ほど本日の試験スケジュールの組み直しまして、従者に関しては騎士と違い求められるスキルが多種多様なため、この際現時刻から就寝までを試験時間に入れてはどうかという話に落ち着きました」

「そうだったの……」


 レティシアは察した。

 これは父の差し金なのだと。少しでも粗を見つければ即落第させる算段なのだろう。


(お父様の前で()()()()()言うから!)


 せっかく解けかけていた父の心に、『そうだコイツは危険なやつだった!』と思い出させてしまったことが窺える。


「ルキウスが制服を着替えレティシア様のお側に戻り次第、二次試験が始まりますのでそのおつもりで」

「わかったわ。ありがとう」




ーーーーーーー


 場所を食堂にて。

 今やすっかり見慣れたタキシード姿のルキウスが、慣れた手つきで椅子を引く。

 レティシアに合わせて戻すタイミングも心得た様にバッチリだ。


「では、繰り上がりで開始いたします午後の部――改め、第二次試験の要項の確認をさせていただきます」


 レティシアたちが席につくと、執事長ヘンドリックスが説明を始める。


(何項目あるんだろう……)


 ヘンドリックスがその手に持つ試験要項が記入されているであろう紙はなんとも長く、垂れ下がる先はテーブルに隠れて見えない。


「今から始まります試験では、志願者が本日までに身につけたスキルを実際に披露してもらうます。合否基準は――(中略)」


 武闘会とは比べ物にならないほど緻密に練られたであろう試験内容が書かれた羊皮紙をどんどん読み進めていくヘンドリックスを眺める。

 要は、従者として欠かせない能力を見極めるために密着型試験をするということだった。


――日常生活のサポート

――幅広い知識

――スケジュール管理

――高度な教養

――来客対応

――細部までに及ぶ観察眼

――臨機応変さを備えた行動力  等。


 これらはバトラーやフットマンにも場合によっては当てはまる項目だが、たった一人に忠誠を誓い徹底的に仕える従者(ヴァレット)は求められる質がさらに高まる。


「――つきましては、我々人事を担当致します者に加え、《特別審査官》により総合的判断が下されます」


 説明も終盤を迎えた頃、ヘンドリックスから聞き捨てならぬ言葉が聞こえた。


「とくべつしんさかん……?」

「はい、お嬢様。我々、使用人一同としては、(ルキウス)を現時点で既に採用とさせて頂きたい所なのですが――申し訳ありません、旦那様、一時離席する許可をいただけますか」

「嗚呼、許そう」


 フットマンに呼ばれたヘンドリックスが離席す した。


「プリマヴェールの使用人はね。まず採用試験を受ける時点で紹介状持参が絶対条件なんだよ、レティ」


 ヘンドリックスの言葉を引き継いだ父は幼いレティシアにもわかりやすい様にと噛み砕いて説明を始めてくれるが、それはレティシアも知っている事情だった。


「加えて、我が家では上級使用人は貴族出身者と決まっているから、孤児のルキウスは当てはまらない」

「そうだったのですね……。私、知らないとはいえ、わがままを言ってしまっていたのですね……」


 否、それも知っている。が、回帰後この話を耳にするのは今回が初めてなので、しらばっくれることにする。


「あぁ……レティ。そんな顔をするな。話していなかったのだから、お前が落ち込むことはないのだよ。現にあの時、お前の提案にメリットを見出したから許可した。だから、紹介状の代わりとして、外部から審査してくれる人間を呼ぶことで、父様と母様の間で話が着いたんだ」

「旦那様。ご到着したそうです」

「そうか。こちらへ案内して差し上げろ」

「もう、来ていましてよ?」


 戻ってきたヘンドリックスから来訪者の到着を受けた父が了承すると同時にその人は現れた。

 きっちりと一つに束ねた髪と楕円の飾り気のない眼鏡がなんとも印象的な女性が見事なカーテシーを披露する。


「此度、『特別審査官』という大任を託されましたマリネット・カーターと申します。短い間ですが、どうぞ宜しく御願い致します」

「マリー!!」

「レラ、お久しぶりです」


 目が不自由なのも厭わず席を立った母に、マリネットと名乗った淑女がすかさず近づく。母がその場から動かないで済むように移動したのだろう。さり気なく気遣うその様子と交わした熱い抱擁はお互いをどれほど信頼しているかを物語っているようだった。


「今日のこと、引き受けてくれて感謝するわ!」

「こちらこそ、わたくしに声をかけていただけて大変嬉しかったです」


 興奮した様子を見せる母にレティシアは驚いた。

 回帰前の記憶を探っても母にこれほどにも親しい友人がいた憶えが無いからだ。


「カーター女史にもお越しいただけましたので、早速試験を始めさせて頂こうと思います」


 ヘンドリックスの言葉を合図に第二部がスタートした。

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